見出し画像

Be yourself〜立命の記憶I~27

◆第16章:初めてのデート(3)


あー、えーと、本当は今日も一緒に出掛けたかったから言ってみただけだけど、一応話そうと考えていた事を話す。

「あー、こっちの不動産ってどうなんだろう、っていう事と、あとウチの化粧品売れないかなって思っている事ね。」
「どんな化粧品なの?」
「あ、パンフレット持ってきたんだ、ポーチに入れてたからちょっと汚れてるけど。」

そう言って、私は、A4サイズ三つ折りのパンフレットを差し出した。

「へー。」
「まぁ、無添加の化粧品の市場がこっちでどれくらい需要あるかにもよるよね。」
「うーん、まあ調べてみないと分からないけど、化粧品は認可とるのが大変なんだよね。」
「あ、やっぱりね。国によって基準違うしねぇ。」
「あ、一応このパンフレット貰っていい?」
「うん、どーぞ。」

まぁ、ある程度は他にも色々話したけど、そんなに深く突っ込まずに、もう仕事の話はやめちゃった。

だって今日は初デートですから。

あ、じゃぁそろそろエビ釣ろうか!という事になり、そうしよ、そうしよ!と釣り堀のほうへ座る。

「これ、豚肉かな?」

と彼が言った。
5mm角程に細かく切られたエビの餌が、醤油皿くらいのお皿に乗っている。
長さの調節など何もない木で出来た釣り竿の先に釣り糸が付いていて、その先に小さな釣り針が付いている。

「これ、ここに1個付けて、投げればいいんだよね?」
「うん、それでいいね。」

私は、釣り針に餌をひとかけら差し込んで、えいっと釣り堀の中に放り込んだ。
彼も同様。
あの浮きが沈んだら、引き上げるんだよ、と教えて貰った。
ほうほう、分かりました、と私。

しばらく無言で浮きを見つめる。
すると、結構早い段階で、彼の浮きが沈み始めた。

無言で見つめる彼。
タイミングを図って、彼が釣り糸を引き上げた。先にはジタバタしているエビが付いている。

「おぉぉー、スゴーイ!釣れたー!スゴーイ!!」
「やった!あれ、これどうすればいいんだ?」

釣れたエビを釣り堀の外に移動すると、お店のおばちゃんが、エビを外しに来た。

「あ、これでいいのか。いやー、俺、今日1匹も釣れなかったらどうしようかと思ってたから良かったー。」

安堵の表情の彼。

「え、普通、そんなに釣れないものなの?」
「うん、まぁビギナーズラックだよね。」

と彼は言って、また餌を付けて、釣り糸を放り込んだ。

あれ?彼はこの釣り堀を知っていて、連れてきてくれたんだと思っていたんだけど、違うの?
私の為にわざわざ探してくれるとはまったく思っていなかったんだけど・・・。

すると、私の浮きも少し沈んできた。

「あ、浮き沈んできたよ?引いていいの?」
「まだまだ、もうちょっと待って。中で引っ張って食べてるから、沈み終わる頃に引き上げて。」
「はい。」

じっと、浮きを見つめる私。浮きの8割が沈んだあたりで、そろそろかな?と思い、引っ張ると、糸がピンと張って引き返される。あ、これかかってるぞ!

「あ、かかってる!これこのまま引っ張っちゃっていいの?」
「あ、いいね、引っ張って。」

えーい、結構重たいぞー!よいしょー。
と引っ張り上げると、釣れた釣れた!!いえーい!!わーい!
ハサミの長さも含めると、大きさ30cmくらいあるんじゃない?
はわわわわ、すごいビチビチ動いてる!自分の身体にあたりそうでちょっと怖い。

釣り堀の外側に、釣り糸ごと、エビを移動すると、おばちゃんが来た。
あ、見てたの?来るの、早いね。

「床に付けないように気を付けてね。」

と彼に言われたので、一生懸命、上に持ち上げる私。
結構、力いるってー。

おばちゃんが、エビを外してくれたので、やっと安心した私。

「やったー!釣れたじゃん、あたしー!楽しいこれ!面白―い!!」
「やったじゃーん。」
「よーし、分かったぞー。こうやって釣るのね。」

初めての体験でも、1回やってみて上手くいくと、次もやってみる意欲が湧くよね。
私は、ちょっと好奇心から彼に言ってみた。

「よし、じゃ、お互い1匹ずつ釣れたところで、次から競争ね。どっちがたくさん釣れるか。はい、よーいどん!」

急に真剣になる二人。
男って、競争っていうと、急に本気だすよね。ウチの長男も一緒なんですけど。

しばし、浮きを眺める私達。

「ねぇ、釣りって実はすごい集中力使うんだね。」
「そうだね・・・。」
「私、釣りって、もっとなんか、ボーっとしてて出来るものだと思ってた。」
「うん、全然そんな事無いね。」
「ゆっくり休暇とか取って、カナダの渓谷か何かで、ぼーっと釣りをするのが夢だったけど、これ無理っぽいね。」
「あ、もう、そこまで行くと、すげーハードでしょ。ゆっくりしてられないんじゃない?」
「いやー、釣り、私向いてないかもー。」

そんな話をしながら、前半は、合計6匹釣った私達。
3匹対3匹で引き分け。

釣ったエビは、お店で好きな料理にしてくれるそうだ。
まずはそのまま塩焼きにしましょうか、と話をまとめて、私達は席に戻ってまたビールを飲み始めた。

風が少し吹き始めた。前髪をくすぐるくらいの軽やかな風が、流れる度に周りの木々を揺らす。
時折、ザーッと緑の揺れる音が、誰も居ない店内に響き渡る。
お客は私達しか居なかった。

「私ね、ずっと、あなたとこうしたかったんだと思う。」

心地よい静けさの中に酔いしれて、つい本音が出てしまった私。
しばらくの無言の後、私をまじまじと見つめながら、彼は言った。

「腕、太いね。」

ずーん・・・。知ってる。おい、ずいぶん直球で分かってる事言ってきたな。
せっかく気持ちいいな、と思ってたのに第一声がそれか。

「知ってるよ・・・。だって、3人も子育てしてみなさいよ!こんななるって!」
「ハハハハ。そうなの?」
「金曜日の帰りとかに主人が遅い時、あたしすごい事になってんだよ?電動自転車の前の席に次男、後ろの席に長男、3人目をおんぶして、両サイドに荷物、荷物、前かごにも荷物、で、自分のバッグを長男に抱えさせて、さー、いくぞー、ってあたし1人で運転して帰ってんだからね?そりゃこんな腕にもなるわ!」
「はははは、すごいね。」
「もーぅ、何で私いつの間にか、こんな肝っ玉になっちゃったんだろう・・・。こうなるハズじゃ無かったのにぃ・・・。」

彼は、何を思っていたんだろう、色々とその後、話しかけて来たんだけど、私、もうこれ以上、落ち込む事言われるよりも、この空間の気持ちよさに浸っていたかった。

「ねぇ、そんなに無理して間(ま)を持たせなくていいんだよ?」
「・・・・。」
「別に無理して話しなくていいからさ、もっと間(ま)を大事にしなさいな。」
「間(ま)?」
「会話と会話の間に感じる事が色々あるでしょう?例えば、この葉っぱが揺れているなとか、緑がキレイだなとか、風の音が聞こえるな、とかさ。もっと五感を使ってその場の空気を楽しみなよ。」
「扇風機の音しか聞こえないけどね。」
「・・・あなた、そういうセンスが欠片も無い人ね。もっと感性を磨きなさいよ。」
「ほら、俺、理系だから。」
「でしょうね・・・。」

扇風機の音がひたすら、ブーンと鳴っている。
静寂の中にこの音だけが浮き彫りになっているから、彼にはこれしか分からないんだろうな、確かに。
私には、かすかに小鳥が鳴く声や、水面が揺れる音が聞こえたりもしているんだけれど。

私、酔っ払っていたのかな。
彼に、また、電話の件について、絡んでしまったような気がする。
あの電話で、あなたに迷惑だと言われた事は本当に傷付いた、と言って、泣いてしまった。
彼は、「それはごめん、ホントごめん。謝るよ。」と言った。

「ほら、拭いて。」

と言って、泣いている私にハンカチを差し出す彼。

「あ、それ、汗すげー拭いたから汗臭いけどね。ハハハハ。」

フフっと泣きながら笑って、涙を拭く私。

「あ、イヤ、すげー汗かいたから、汗臭いけどね、ハハハハ。」

2回言われたから、ついでに匂いも嗅いでみた。(←匂いフェチ)

香水か、それにしてはもっと柔らかな、柔軟剤なのか。
ちょっとしっとりしてたから絶対汗拭いてるハズなのに、汗の臭いなんて全然しなかった。
彼ってこんなにいい匂いの人なの?

「いい匂い・・・。」
「あ、イヤ、汗臭いよね、ハハハハ。」

おんなじ事、3回言ってる・・・。

「とりあえず、エビ食べようよ。」

彼はそう言って、私が最初に釣った6匹の内の1匹目を剥いている時に、お手洗いに立った。

自分で言うのもなんだけど、私エビを剥(む)くの上手いんだよね。そんで早い。(好きだから)
剥き終わった最初の1匹を目の前に置いたら、我慢出来なくなった。

あたし好きなもの食べてる時、よく、かわいいとか言われるのになー、彼、トイレに行ってるなぁ・・・。
・・・
・・・
・・・えぃ、食べちゃお。

で、一人で悶絶。くぅぅぅー、美味しいー、エビ愛してるー。

戻ってきた彼にも、エビどうぞ、美味しいよ、とそのまま言って渡す。
いいよいいよ、食べな、と言われたので、3匹目を彼に渡した。
4匹目を渡した時でしょうか、彼に、

「剥いて。」

って言われて、

「あ、はい。」

って素直に剥いて、渡した。

あぁ、彼はこういうタイプの人なんだね、やっぱ九州男児だわ。コテコテの。
私達、空白の時間が多すぎて、お互いの事をまったくよく知らなかったね。
でも、不思議。高校の時の同級生って、なんで大人になってもこんなに互いの距離が近いんだろう。

その後も、色々話をしながら、もう一回エビを釣ったけど、もう、私は、全然釣る気なくて、餌つけて垂らしたら、ほったらかし。疲れるから。

ビールと灰皿を釣り堀の縁に置いて、飲んでいただけ。
釣るのは彼に任せて、私は彼の姿を眺めていた。

あの真面目で地味だった彼が、まさかのこんなオシャレになって、20年経って私の目の前に居るのが不思議だった。
カッコよくなりましたねぇ、と思って満足げに眺めていたのかな、私。
それとも、何か別な気持ちを抱きながら見ていたのかな、私。

「全然釣る気無いでしょ。」


続き→第16章:初めてのデート(4)

サポート頂けるなんて、そんな素敵な事をしてくださるあなたに、 いつかお目にかかりたいという気持ちと共に、沢山のハグとキスを✨✨ 直接お会いした時に、魂の声もお伝えできるかも知れません♪ これからもよろしくお願いします!✨✨