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大人になりたくない

「ママ、大人になりたくない……」

1日の終わり、寝室に入ったところで8歳の娘から突然言われて驚いた。今日は金曜日の夜。6歳の次女は一週間で一番疲れてしまう日なので、既にリビングで寝てしまっていた。長女としては、私と二人になり、言いやすいタイミングだったのかもしれない。
とは言え、ものすごく驚いた。なにかあったのかと心配もした。

「どうして?」

恐る恐る聞いてみた。返ってきた答えは意外だった。

「ママと離れたくない。ずっと一緒に暮らしたい……!」

思わず抱き締めていた。

母になりたい

そう思った時のことを思い出した。

20台の頃、私は仕事に夢中だった。子供ができたら思ように働けなくなるかもしれない。そう思っていたので、子供が欲しいと思っていなかった。今の主人とは当時も付き合っていたが、子供が欲しいと思ったら結婚すればいい、と思っていたので、結婚願望もなかった。
そんな私とは逆に、妹は20台前半で早々に結婚した。数年経って、子供ができた。私にとってはは初めての姪っこ。自分でも驚くくらい可愛くて仕方がなかった。
当時、妹は岐阜に住んでいたが、私の住む大阪にも頻繁に遊びに来てくれていた。それでも別れる度は寂しくて仕方がなかった。
姪っ子が3歳になるかならないかの頃。帰路につく車のチャイルドシートに座り、いつものように車の窓を開けた時だった。私に向かって

「かりんちゃんは泣くから嫌っ!」

と言って怒った。いつも別れる時に泣く私が嫌だったらしい。子ども心は面白いなぁと思った。

母になろう

同時にそう思った瞬間でもあった。
しかし、数年後、私の人生で初めてと言っても過言ではないくらいの壁にぶち当たることになる。

不妊

それまでの私は子どもは欲しいと思ったらできるものだと思っていた。1年……2年……さすがにおかしいと思い、病院に行ってみた。待合室は人で溢れていた。数時間待ちは当たり前。必要としている人がこんなに居ることに驚いた。

それくらい無知な私だったが、色々検査をしたものの原因はわからない。結論的に

原因不明

と言われてしまった。原因がわかれば、対処も出来る。不明と言われたらどうしたらいいのか。
途方に暮れたが、まだ体外受精という最後の切り札は使っていなかった。
最後の切り札を使ってしまったら、もう本当に道は断たれる。そう思うと、簡単には踏み切れなかった。もちろん、自然ではないということへの抵抗がなかったとも言えない。
数ヶ月悩んだが、やはり「母親になりたい」と言う想いを諦めきれなかった。何より、姪っ子だけでなく友人の子ども達に接している主人を見ていて、彼が私のせいで自分の子供と過ごせない人生を送ることになるのが嫌だった。

これで授からなかったら別れよう

そう思って、体外受精に挑むことを決意した。
私にとっては、一生をかけた決意だったが、なんと挑む前の血液検査でNGと言われた。

見送りましょう

やっと決意したのに、スタートラインにも立たせてもらえなかった。絶望の淵に立たされた気分になった。今までどんなことも大抵努力でどうにかなると思ってきた。勉強も仕事も、全て努力次第だと思っていた。初めて努力ではどうにもならないことがあるんだと知らされた気がした。
気がついたら、同じように不妊に苦しんだ末に子どもを授かった友人に連絡をとっていた。

ちょっと話を聞いてもらえないかな

友人は快諾し、受け入れてくれた。辛い想いを打ち明けた私に友人はこう言った。

「子供を持ててからも自分の努力ではどうにもならないことばっかりだと思い知らされてるよ」

ハッとした。当たり前のことが見えていなかった。子どもを授かることはゴールではない。育てていくとなると、子どもは自分とは別の人格なのだから、私自身の努力だけでうまくいく訳が無い。

そうか!今もこれからも変わらないんだ!子どもを育てると言うことは、そう言うことなんだ。

そう思ったら、なぜかすごく心が軽くなった。

翌月の血液検査に無事合格し、そこからは有難いことに何事もなく順調に進むことができた。後にたくさんの友人と妊娠、出産について話すことになるのだが、体外受精は決して珍しいことではなく、順調に全てが進むことも当たり前ではなかった。

そんな経験をして私たちの元にきてくれた娘はたくさんの素敵な縁を私に運んできてくれた。女友達がどこか苦手だった私はママ友は出来ないのではないかと思っていた。しかし、娘が生後3ヶ月を過ぎる頃には既に自らサークルまで作っていた。
今私は新たな道に進もうとしている。それはきっとママ友との出会いがなければ考えなかったことだろう。素敵なママ友たちは私にたくさんの違う世界を教えてくれた。これからも娘たちに感謝して共に幸せを感じながら生きていきたい。

「大人になったら離れないといけないと思ってたの?そんなことないよ。ずっと一緒に暮らそうね!」

私は娘にそう言った。

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