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『メンテNFTを採用したアルファロメオ「トナーレ」日本発売。自動車×NFTの新潮流』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2023.1.31

■アルファロメオ初の電動車「トナーレ」、NFTで車両価値高める

欧州Stellantis(ステランティス)は2023年1月26日、高級車ブランド「Alfa Romeo(アルファロメオ)」の多目的スポーツ車(SUV)「トナーレ」を日本で発表した。同年2月18日に日本で発売する。

同車はブランド初となる簡易ハイブリッド車(MHEV)であると共に、「非代替性トークン(NFT)を搭載する初めての自動車だ」と、Stellantisジャパンマーケティング部プロダクトマネージャーの田村明広氏は話す。

昨年7月にNFT活用が発表されていたアルファロメオの新型SUV「トナーレ」の日本発売が発表されました。

自動車×NFTの事例はこれまでもたくさんあります。

ポルシェはデザイン投票権、オリジナルグッズ、イベント参加権などのユーティリティを付けたNFTを販売しましたが一次mint割れと大失敗。

ランボルギーニは8か月連続でアート文脈のNFTをローンチさせるプロジェクトを2022年8月~2023年3月まで行うと発表していましたが、界隈でも全く話題になっていません。

ロールスロイスは二次流通ロイヤリティ20%が慈善団体に寄付されるNFTを販売。いいことをしている感を演出するも、NFT購入者層が投機目的の転売ヤーであることと寄付との相性が悪く実効性はなさそうです。

対して今回のアルファロメオのNFT導入の取り組みは非常に実用性の高い「メンテナンス記録をブロックチェーンに刻む」というNFT活用方法を発表しています。


■ドイツブランドにNFTの「分散型信頼性」で対抗する

ジュリア以降のアルファロメオは高級路線に方向転換しましたが、欧州の高級車というとドイツ3ブランド、メルセデスベンツ・BMW・アウディの牙城です。

ドイツ3ブランドは高級感もさることながら、ブランドイメージとしての信頼性の高さが購入者の安心感を高めています。大きなトラブルは起きなさそうだし、もしトラブルが起きてもメーカーの威信にかけて何とかしてくれるだろうという感覚的な信頼性の高さが「ブランド」たる由縁です。

対してアルファロメオはイタリア車。イタリア車は「壊れる」というイメージを持っている人は今でも非常に多いのではないでしょうか。


アルファロメオは実際どのくらい壊れるのか?

8分野に渡る177項目について不具合の有無を調べ、100台当たりの不具合指摘件数(PP100)をスコア化した。数値が低いほど品質が良い。2020年7~11月に調査を実施し、3万3251人から回答を得た。

ドイツ御三家とアルファロメオの故障件数の調査結果を比較すると
・メルセデスベンツ:122
・BMW:108
・アウディ:127
・アルファロメオ:196
1.5倍~2倍くらいの故障が発生しています。


メンテナンスで故障は防げる、を広める効果

しかしドイツ御三家も壊れないわけではありません。

きちんと定期メンテナンスをしていれば故障が防げたり小さい予兆だけで済んだりします。設計や製造上の品質の高さはもちろんありますが、きちんとメンテナンスすることで故障の発生件数を減らすことができます。

今回のアルファロメオはメンテナンス記録をNFT化するという活用方法を提示しています。改竄不可能や誰でも観察可能というNFTの特長がニュース記事などでは語られがちですが、大切なことはそこではありません。

メンテナンス記録をNFT化することの重要なポイントは以下の3点です。

1.メンテナンスしなければNFTに「メンテナンスしていない」という記録が残ること

2.ディーラー以外でメンテナンスしてもNFTに記録されないため、ディーラーでのメンテナンスが行われやすくなること

3.中古車の購入時に「NFTメンテナンス記録が購入者に確認されてしまう」という意識づけが行われること

NFTである必然性は本来ありません。

メンテナンス記録簿というものは昔からあり、中古車を買う時には記録簿を確認することが大事だと言われ続けています。記録簿が機能すればNFTでなくてもいいのです。

しかし現実には記録簿をおろそかにする購入者は非常に多いものです。記録簿をおろそかにする人が多ければ、オーナーも記録簿に記録されるようなメンテナンスを行わなくなります。

メンテナンスとその記録に面白さというかゲーム性というか、記録と確認をより積極的にやりたくなる仕掛けとしてNFTが導入されたと見るべきだろうと思います。

そして、メーカーとしての設計・製造品質が高くメンテナンスをサボっても壊れにくい、というトヨタ自動車レベルに到達するのはなかなか難しいため、きちんとメンテナンスする風潮を作り出すことで結果的に故障件数を減らし、故障が少ないという評判をユーザー間で醸成してブランドイメージを向上させることがメンテナンス記録NFTの真の効果です。

つまりメーカー自身の努力と広告宣伝などで培われた旧来の「中央集権的ブランディング」から、自動車ユーザー自身の自発的なメンテナンスによって結果的に故障しにくくなったことのクチコミ効果により「分散型信頼性」を高めることが、今回のアルファロメオのメンテナンス記録NFTの狙う効果だと言えます。


メンテナンス記録のDX

加えて、DXという効果もあります。つまりメンテナンス記録がデジタル管理されるということです。メンテナンス記録簿は手書きの紙であることが多く、紛失することもよくあります。

NFTでメンテナンス記録を管理するようになると、当然デジタルデータで記録することになります。

ただ、データ管理されるのはディーラーのみだというのは大きな課題です。

ガソリンスタンドでワイパーブレードを交換したりタイヤ専門店でタイヤ交換するなどの記録は相変わらず紙での管理になります。

誰でもNFTにメンテナンス記録を追記できると不正されやすくなりNFTの信頼性を失うことが懸念点で、ディーラーでしかNFTを更新できないのは一応合理的です。

しかし車両に加えられたメンテナンスのすべてがデータで記録されるよう、ディーラーがガソリンスタンドでの作業内容を代行記録するような運用は必要です。これが実現できて初めてメンテナンス記録のDXが実現します。


■メンテナンス記録NFTは自動車の新常識になるか

車検制度があり、ディーラーを信頼して任せる人が多い日本では諸外国と比べてメンテナンスがしっかりやられるほうだと思います。

それでも記録簿が形骸化しがちだったり、記録簿の有無で中古車の価格がそれほど大きく変わったりしないなど、メンテナンスを軽視しやすい風潮があるのも事実。

アルファロメオ「トナーレ」を皮切りにメンテナンス記録NFTが常識になれば、記録簿NFTがないと買取価格が大幅に下がるという時代が来るはず。

自動車メーカーがNFTアートを販売する方向性はおおむね失敗した今、メンテナンス記録NFTを他のメーカーも実施するようになるかが自動車×NFTの注目ポイントです。

住宅×メンテナンス記録NFTにも

また応用編として住宅のメンテナンス記録をNFT化することも始まると予想します。ハウスメーカー自身がメンテナンスすることで継続収益の確保と高品質ブランディングを行うこと、日本の少子高齢化による住宅余りから長寿命化させるニーズが高まっていることなど、住宅にも車と同じニーズがあります。

積極的にメンテナンスすることを推奨しているBESSの家あたりから始まりそうな予感。住宅×NFTにも注目です。

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