映画「マイ・インターン」を見て
はじめに
勧められて映画「マイ・インターン」を見た。2015年に公開された作品のようだが、けっこうおもしろかった。今の職場で若い社員さんが社長さんに見るように勧められたようで、たまたまその感想を休憩時間に私に話してくれた。まったく映画なんて、話題作で見たいと思った時しか見ないし、興味もなかったのだが、少しあらすじを聞いて驚いた。その社員さんに思わず、「ちょっと、その主人公って私と同じじゃないの?」と言ったのだが、頷いて、更におもしろかった場面を話してくれた。そんなこともあり、興味がわいてAmazonのレンタルで407円で見られるようだし、一気に見てしまったのである。
主人公のベンは今の自分?
主人公のベン(ロバート・デ・二―ロ)は70歳のシニアインターンで、ファッション通販サイトのCEOであるジュールズ〈アン・ハサウェイ〉の直属の部下となる。出だしの会社の設定から、「ちょっと待て、これって今の自分の境遇と同じじゃないか」と笑ってしまった。定年退職もとっくに過ぎ、再就職をしてけっこう時が流れたが、主人公ベンの気持ちや行動が本当に共感できた。細かいことを言いだしたら、私自身と違うことも多いのだが、自分の子供と同年代のような人が多い会社で「年寄の新入り」という設定はドンピシャで、自分が会社外で人に会う時には「実は最年長の新人なんです」と自己紹介している自分と重なった。
何でも屋
ベンは最初ジュールズから仕事を与えられなく、自ら社内を観察し、できることを実践していた。年齢も関係なく他の社員と打ち解けていた。自分が今の会社に入った時と全く同じだった。私は誰よりも早く出社し、掃除をしたり、ゴミを集めて出したり、灰皿をかたづけたりしていた。今もしているのだが、そのうちこの仕事、あの仕事と任されるようになった。自分の子供のような年代の先輩女性社員に丁寧にある業務の説明や指導をしてもらった。相手も年下の新入りならいざ知らず、かなり気を使ってくれていたんじゃないかとも思った。時間が流れていけば、この映画のように年齢関係なく打ち解け合い、いろいろ話もでき、意見やアドバイスを求められることも増えた。
しかし、自分自身が気をつけているのは親子ほどの年齢差があっても仕事場では関係ないし、ましてや自分の経験から来る知識などをひけらかすようなことは絶対してはいけないということである。それは肝に銘じていた。
定年後に再就職したら気をつけるべきこととして、前の職場の常識や自分の経験、習慣を出しては嫌われるし、仮に提案したいのなら、十分に信頼関係ができてからじゃないと誰も相手にしてくれないと思っていた。そんな自分の経験を主人公のベンも実践していると思うと、やはり、みんな同じなのだとも感じた。
人とつながることの大切さ
映画の冒頭にベンが退職後、奥さんも亡くし、旅行や趣味に没頭しているシーンも胸に来た。同じ経験があるからかもしれないが、自分で明日やることを探したり、決めなければならないのである。自由で、時間もあって、いいと思うかもしれないが、それは定年退職して、すぐの時だけである。あとは自分で人とのつながりや社会とのつながりを見つけていかないと、すぐに退屈でどうしたらいいのかわからなくなってしまう。
忙しく働いていたら、定年後は貯めたお金とたっぷりある時間で、好きなことをやればいいと思うものかと思う。しかし、それは愛する配偶者や友人や趣味仲間がいればの話だ。一時は楽しく過ごせても一人になった途端、寂しさが訪れてくる。主人公のベンは奥さんに先立たれ、息子は独立して遠くに住み、立派な家でも結局は一人ぼっちである。些細なことでも話せる、また一緒にいるだけでもいいというような「人とのつながり」を求めていたのかもしれない。
居場所がほしいだけ
ジュールズをはじめ社員たちはまだ若く、想像もできないのだろうが、やるべき仕事や自分が仕事をするデスクがあることに何も感じないだろう。それは日々、忙しく会社の中で中心となってバリバリ働いているからだし、若い時はそんなことを考えているヒマさえないのが普通なのかもしれない。
しかし、仕事人間であった人は定年を迎えると、しばらくは自由でいいのだが、自分がいるべき場所、デスク、仕事がほしいとなってくるものなのかと思う。ベンが「ここで仕事をして」とデスクを与えられるシーンがあったが、結局、やるべき仕事がなければ、手持ち無沙汰になるだけである。自分を振り返ってみると、再就職したばかりの頃がそうだった。やれる仕事を与えてはくれるが、そんなことはすぐにやってしまって、あとは次の仕事はないのかと退屈してしまう。
しかし、そうなると、ずっと年下の上司も困ってしまうものである。相手もいったい何ができるのか、何が任せられるのか、何に向いているのかなど手探り状態なわけだから、まずは周りの人と信頼関係を築いていくことが大事なのかもしれない。お互いに自己開示していくことが重要なポイントなのかとも思う。
シニアの働き方
シニアの働き方は体力を使って若い人と競争するようなものではないと感じる。また会社の方もそれを求めてはいないようにも感じる。やはりこの映画のように他の社員にいい影響を与えるような存在であることが一番大事なのかとも感じた。
ベンがジュールズの運転業務をする場面もあったが、できることをピンチヒッターでやることもシニアには大事なのかとも思えた。困った時に頼れる「おたすけマン」のような存在であることが大事なのかとも思う。そもそも人生経験や様々な知識があるわけで、他業種であっても、結局仕事では共通して経験が活かされることも多いのである。自分が今、ちょうどベンのように頼られ、仕事もいろいろと頼まれ、本当に恵まれていると感じる。
基本的に「これ、お願いできます?」とか、「これ、お願いしてもいいですか?」と言われたら、笑顔で「もちろん、OK!」と仕事内容を選ばずにやってきたが、主人公のベンを見ながら、ここ一年の自分の姿を見ているような印象を受けた。間違ってはいなかったのかとも思えるし、そうするしかないというか、自然とそうなっていったのかとも思える。世の中にはプライドが高く、なかなかうまく立ち回れないシニアもいるのかもしれないが、ベンのように紳士的に振舞っていれば自然と誰からも受け入れられるのかもしれない。
さいごに
この映画の主人公はベンとジュールズかと思うが、働く女性ということで、多くの女性が見ているのかとも思った。もちろんそれもテーマになっていると思うし、このような女性になりたいとあこがれている人もいるのかもしれない。しかし、私のような年代の人が見ると、どうしてもベンの目線で見ていると自覚せざるを得ない。
当然のことかもしれないが、こんな場合、自分ならジュールズにどんなアドバイスをしていただろうか?とか、ここまでは自分にはムリだろうなあとか、もっと強く言ってしまっていただろうなあとか、いろいろ考えてしまうが、これもこの映画のおもしろさなのかもしれない。つまり、どの年代の人が見ても共感したり、おもしろいと感じれる作品であるということだ。
うちの社長が若い社員に見るように勧めた意図はどこにあったのだろうかとも考えたが、創業20年足らずの中小企業で、そこに入ってきたシニアの社員にどう接していくべきかとかいろいろ考えた上で、この映画を見ていたのかもしれない。或いは私にはこの映画の話をしなかったが、他の若手社員が皆、知っていたから、私のいない時に見るように勧めていたのかもしれない。また機会があれば社長と話してみたいとも思う。この映画にはテーマがいくつもあるように感じたが、若い人もシニアの人も見て十分に楽しめ、またそれぞれに何かを感じ取れる作品だと思う。
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