悪の才能

「別に、寂しくなんかないよ。これが普通なんだ。僕は今まで誰も信用したことがないし、誰にも信用されたことがない。愛されたことがないから愛したこともないし、人を尊重するとかされるってこともわからない、友情も、そんな概念は物語の主人公が描く夢でしかなくて、現実には存在しない。君たちから見れば僕は惨めでつらそうに見えるかもしれないが。僕は生まれてからずっとこうで、君たちの暮らしも知らない。人と信頼しあったり、対等な関係を持ったりってことを、話には聞く程度で体験したことがない。僕にはこれが普通なんだ」

クラス中が、しんと黙ってしまった。漫画なら「じゃあ、俺が最初の友達になってやるよ」と誰かが言うはずだが、見回しても目が合うたびに顔を逸らされ、そうだ、最初から「僕が」人を遠ざけているんだ。好かれないんじゃない、人との関係ってものに耐えられないんだ。

ああ、僕には、主人公より、悪役のほうが身近に感じられる。


(続く)

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