[寄稿] 『教育』2018年7月号 | 所得増なき成長というディストピア

『教育』2018年7月号に寄稿しました。

その一部を転載します。

デジタル革命と雇用の喪失
 「エコノミスト」誌のライアン・エイヴェントは、著書『デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか』(東洋経済新報社)で、「デジタル革命」が仕事を変質させ、労働力を余らせる(過剰化させる)と指摘します。その理由の第1は自動化です。AI(人工知能)の進歩に代表される情報処理技術の発達は、一部の職業の「機械」への代替を進めるからです。
 第2に、デジタル革命が進むことでグローバル化に拍車がかかり、先進国の雇用が喪失したことです。情報技術なくして、過去20年間に世界で広がったサプライチェーン(部品供給網)を先進国が管理することは不可能だったでしょう。また、もしこうした条件がなければ、中国をはじめとした新興諸国の成長はもっと遅かったはずです。
 第3は、スキルの高い労働者の生産性をテクノロジーが大きく押し上げたことで、以前なら大勢の人員を要した仕事がかれらだけでできるようになったことです。こうした自動化、グローバル化、スキルの高い少数の人の生産性の向上という3つのトレンドが重なって労働力の過剰化が進んでいます。
 しかも、エイヴェントは、将来の雇用の機会は、仕事を自動化するテクノロジーと労働力の過剰化によって制限されるだろうと予想します。また氏は、この2つの要因は、①高い生産性と高い給料、②自動化に対する抵抗力、③労働者の大量雇用の可能性の3つを同時に達成することはできないという「雇用のトリレンマ」につながるとも指摘します(3つの条件を同時に達成することはできないということ)。

所得増なき成長というディストピア
 ただ、雇用が失われ、一部の高技能者のみが富を獲得する経済は、長くはもたないということがこれまでの常識でした。なぜなら、多くの人が職を失ってしまうと、職業生活をつうじた新技術の発見や導入が滞り、結果として広い意味での技術進歩も低迷してしまうからです。つまり、技術進歩と労働力の増大は互いに補い合う関係にあると考えられてきました(補完性)。
 しかし、ダロン・アセモグル教授らの「ロボットと雇用」という2017年の論文は、労働力を代替する――雇用に取って代わってしまう――今日の技術進歩の特徴を踏まえるなら、経済が成長する下でも、労働者の所得が低迷し、所得格差が拡大する可能性があると指摘します。(…)

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