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角川文庫 / 完全版社会人大学人見知り学部卒業見込 / 若林正恭 著

感想文


本書は実社会において言語化できない憤りを抱えて生きるすべての人々へ向けて書かれたひとつの人生指南である。一見すると、お笑い芸人が描くコメディ的社会風刺を装ったコラム集であるが、そこには明確な人間の成長と挫折、苦悩と葛藤、そして、その先に待つ救いへと昇華する過程が克明に記されている。
何故か人に馴染めない、世界に順応できない。そんな不器用な著者が様々な考えをもとに実践と反復を繰り返してたどり着いた答えには、昨今巷にあふれている自己啓発本の類とは比べ物にならない程の説得力がある。

抜粋


以下、本文より抜粋して紹介する。

ネガティブを潰すのはポジティブではない。没頭だ。

角川文庫 / 完全版社会人大学人見知り学部卒業見込 / 若林正恭 著 P142

ネガティブなことを考えたり、それで不安になってしまう原因は、そのようなことを考えてしまうほどの余暇があることだと著者は語る。そして、その対策として、雑念を介入させないよう、タスクをぎゅうぎゅうに詰め込んで、何かに没頭するのが良いとしている。


この世に存在する理由には二つあって。一つは何かをしているから存在していいということ。例えば、会社にいてちゃんと働いているからその会社に居ていいって思えるみたいなこと。二つ目は生まれてきたら、なんの理由も無くこの世界に存在していいということ。


角川文庫 / 完全版社会人大学人見知り学部卒業見込 / 若林正恭 著 P250

これはとあるおじいちゃん(詳細は伏せられている)と著者の対話の中で出てくる一節です。人はどうして働くのか、どうして生きているのか、認められないとどうして苦しむのか。そんな漠然とした苛立ちを、肩こりのひどい人のツボを解すみたいに、優しい言葉で安楽に促してくれる。
考え方の一つで、世界の見え方は変わる。目からウロコだ。


補足


本書にはリトルトゥースならご存じであろう人物、ハガキ職人であるツチヤタカユキ氏にまつわるエピソードがある。これは若林正恭外伝として必読の項である。いつもラジオで皆を笑わせていた彼のイメージ像とはかけ離れた真の姿がそこにある。



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