30秒ストーリー『断定口調』
「ねえ見て。彼氏がこの動画、おすすめしてくれたの。
『お前の洋服センスはもうダメだ!』だって。
これを観て、もっとおしゃれになれってことなのかな」
「いやいや、ちょっと待ってよ。その動画、誰がやってるの?」
「え?知らない。たぶんアパレルの人とか、デザイナーとか。
もちろん服に詳しい人でしょ」
「そんなことないよ見てごらん。この人、ただの生成回数かせぎだよ。
服の素材も全然わかってない。
ほらここ、レーヨンとポリエステルを一緒にしてる」
「あ、ほんとだ。でも細かいことはいいじゃん。
いいこと言ってるよ?〈オシャレは人生、妥協するな!〉だって!」
「ダメだよダメ!こんなのに洗脳されないで!
こうやって強い口調で言われると、思わず信じちゃうよね。
でもこれはよく使われる手口なんだ。
相手を最初に不安にさせて、そのあとに根拠のない結論を押し付ける。
絶対にそれが正しい、それ以外は不正解っていう口調でね。
すると見ている人は不安を解消しようと、言われたことを信じてしまう。
信じると、迷いがなくなって気持ちがすっきりするからね。
そしてそのすっきりした気分を味わいたくて、また動画を見てしまう」
「なるほど、確かにそうかも」
「だから強い断定口調が使われてるやつには気をつけて」
「うん、そうする」
「それに……君は何を着ていても、とてもきれいだと僕は思ってるし」
「おしい。そこは断定口調で言って欲しかった」
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