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『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』尾形真理子 「女子会に参加できる」

このnoteは、本の内容をまだその本を読んでない人に対してカッコよく語る、という設定で書いています。なのでこの文章のままあなたも、お友達、後輩、恋人に本を語れます。 文学を上手く使ってカッコよく生きてください。

『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』尾形真理子

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○以下会話

■タイトルから伝わる魅力

 「女性の心がわかる本か。そうだな、そしたら尾形真理子の『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』がオススメかな。

この本は何と言ってもタイトルが魅力的だよね。「試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。」確実に女性に向けたタイトルだけど、男である僕でさえも僕の中にある女性ホルモンが「分かるわ〜」って叫んでるよ。

著者の尾形さんは博報堂のコピーライターをしていた方で、このタイトルは元々ルミネの広告コピーとして作られたものなんだ。このコピーを元にして書かれた小説が、今回の『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』なんだよ。

小説って一般的にタイトルだけで中身が面白いかどうか判断するのが難しいんだ。例えば「檸檬」とか「火花」とか「ノルウェイの森」とか「こころ」とか、単にタイトルだけ見ても「これはきっと面白い小説だな」とは思えないんだよね。なぜか単語だけとか、結構シンプルなものが多いよね。タイトルに凝るのはカッコ悪いってイメージがあるのかな。

でもこの『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』というタイトルは、元々ルミネのキャッチコピーに使われてたくらいだから、すごい魅力的なんだよ。このキャッチコピーを考えた人が書いた文章が面白くない訳ないんだ。だから、この本は珍しくタイトルの面白さと中身の面白さが一致してる小説なんだよ。

■自信を自家発電できない人への小説

ストーリーとしては、恋に悩みを抱える大人の女性達が、渋谷区神南にあるセレクトショップに訪れて、試着室の鏡の前で、自分の気持ちを見つめ直す話なんだ。

作者が30代の女性ということもあって、20代の甘い恋愛を通過してきたアラサー女性の、現実的だけど期待を捨てていない大人な恋愛模様が描かれているんだよ。

タイトルからも分かる通り、広告屋さんの尾形さんは、女性の心理をぐわっと握るのが得意だと思うんだ。自分に向けて言ってくれてるようで、少し自己肯定感をあげてくれて、だけどそれが煽りすぎてない、ほのかな甘さ。その力が小説でも発揮されているんだよ。

小説は5つのショートストーリーから出来ていて、違った境遇を抱えた5人の主人公がそれぞれセレクトショップに訪れる構成なんだ。その主人公達は、①マンネリに悩むメイコ②不倫関係に苦しむクミ③同僚に恋するチヒロ④元カレの結婚式のスピーチを任されたアユミ⑤クリエイティブな彼に憧れるマサコという5人なんだ。

彼女らの共通点は、前に進めないでいること。この悩みを抱えた彼女らが、セレクトショップを訪れて、店員さんのアドバイスで試着している内に、新しい洋服と、店員さんの言葉と、鏡に映る新しい服を着てる自分に後押しされて、新たな一歩を踏み出すんだ。

実際にインタビューでも「自信を自家発電できない人」に向けてコピーを書いているって語っていて、まさにそういった女性に向けた小説なんだよ。

■女子会に参加

僕個人としては、こういった現代の女性の恋愛を描いた小説は、今まであまり読んだことなかったんだ。というのも、他人の、しかも虚構の恋愛模様に関心がないし、女性の恋愛感情に共感出来ないだろうと思ってたし、主人公に選ばれる大衆的な女性像を好きになれなかったし、何だか全体的に興味がなかったんだよ。

だけど初めてど真ん中の恋愛小説を読んでみて、「これはこれで面白いな」って感じたんだ。その面白いと思ったポイントは、「主人公の心の声」なんだ。

単に著者の尾形さん特有のものかも知れないけれど、僕が普段読む小説より、主人公達の心の声が漏れ出ている印象を受けたんだよ。男性の僕には気付けない、女性達の心の声が描かれていて、まるで夜な夜な、昼な昼な、繰り広げられる女子会に参加しているようなんだ。

現状の恋に悩みを抱える主人公達は、小説の中でその不満を打ち明けてくれるんだよ。「家も職場も友達も恋人も全部地元で済ませて飽きたりしないのか」「愚痴ってしまうのは申し訳ないけれど、大変だねと共感してもらえるだけで心が軽くなることもあるのに」「お酒を飲んだ後に必ずラーメンを食べたがるのも嫌だった」。

もちろん女性全員の意見ではないけれど、女性の心理をつかんできた名コピーライターが描いた女性のセリフは、ピシャッと言い当てられた感覚になるんだよね。

だから僕にとってこの本は、小説という形を取りながら、ビジネス書のように気づきを与えてくれる本だったんだ。」


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