仙腸関節障害に対する問診　発展と深堀り

◇note概要◇
文字数　：7,800文字
動画＋スライド：9
引用論文　：13

6件の病院を回って初めて仙腸関節障害と診断を受けて治療を始めることができたという方に出会ったことがある．レントゲンはもちろん，MRI，CT，造影，検査はいろいろやったが，原因不明で最終的には心療内科に紹介になったらしい．何の気なしに近くの整形外科を受診したら，日本仙腸関節研究会に所属する医師がみえ，診断に至ったというのだ．

私は理学療法士で，診断はできないが，疾患を疑うことはできる．そう，問診一つで．そんな気持ちで，前回の記事と今回の記事を書いた．

前回の記事

前回の記事はこれだ．

こちらの記事は仙腸関節スコアをベースとして簡便にスコア（採点）できるということを意識した問診内容だ．

そちらを読まれていない方もみえるだろうから，簡単に復習したい．

日本仙腸関節研究会 6 施設の共同研究において，
仙腸関節障害に特徴的な所見 10 項目を仙腸関節障害（62例）
腰椎椎間板ヘルニア， 腰部脊柱管狭窄症（計59例） とを比較した研究がある．

その中で作成されたのが，仙腸関節スコアである．

以下の6つの項目で合計9点，4点以上で仙腸関節が疑われるといったスコアだ．

前回の記事は，仙腸関節スコアのカットオフポイント　4/9点以上　で仙腸関節が疑わしいということをスクリーニングする程度の問診ととられてもらえればありがたい．

One finger test で PSIS 付近を指さす：3 点，
鼠径部痛：2 点，
椅子座位時疼痛： 1 点，
Newton テスト変法：1 点，
PSIS の圧痛：1 点，
仙結節靭帯の圧痛：1 点
の合計 9 点のスコアを作成した結果，
スコア 4 点以上で仙腸関節障害と腰椎椎間板ヘルニア， 腰部脊柱管狭窄症との鑑別の感度：0.9，特異度：0.86 と高い値になり， 鑑別に有用であると考察された．
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28204687/

問診の一例を挙げてみたい．

・「痛む所をご自分の人差し指で示せますか？」
　PSISを示すようであれば，3点だ
　すでに3/4点を獲得するわけだが，それほどまでにone finger testは有益ということだ．
　この問診で鼠径部の痛みを訴えるようならば，
　これでさらに2点でカットオフポイントの4点を超える．

初めは手掌全体で痛みを示すかもしれない．その際は，あえて一本の指でとお伝えしたほうがよい．

Konnoは，意識が集中され，疼痛領域を正確に示せるだろうと考察している．https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17530377/

・「どんな姿勢で痛みますか？」
　椅子に座っている時の痛みがあれば，1点だ．
　この座位時の痛みが上位腰椎や大腿後面のみにあるようなら話は別だ．
　あくまでも腰部骨盤領域に出現する時に加算する．
　運転中，ソファーに座っている時などの背もたれのある座位時はこのスコアでは除外する．

・「痛みがある時（座位時にも含む）どこが痛みますか？」
　PSIS辺り，坐骨結節周りを指差すようであれば，PSISや仙結節靭帯の圧痛が所見として得られるかもしれない．（各1点）これはそのままの姿勢で圧痛をとってもよいだろうが，腹臥位でもよいだろう．

ここまでは前回の記事の復習である．

仙腸関節スコアが発表された後の研究

仙腸関節スコアが発表された後に，下記のような研究も本邦で行われている．

外来の初診で，片側の腰殿部痛を有するすべての患者に対して仙腸関節スコアを用いた研究だ．
仙腸関節障害を抽出するために本スコアを用いた場合，
5点以上で感度は77.4%，特異度は 76.4%であった．https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6118337/

脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアとの鑑別のみでなく，"片側性の腰殿部痛"がある方においても一定の効果を発揮しそうだ．カットオフポイントを5点に上げるという条件はあるが，そこまで難しい話ではない．

追加する質問は４つ

今回は問診内容をさらに発展させていこうと考えてこの記事を書いてみた．

追加する問診は４つだ．それぞれPSISを中心に腰殿部痛が出現するようであれば，仙腸関節の関与が疑わしい．これは周りの整形外科医の話や経験則がもとになっている．

・動き始めの痛みはあるかどうか
・車の乗り降りでの痛みはあるかどうか．
・寝ているときの痛みがあるかどうか．
・寝返りをする時に痛みがあるかどうか．
・その他　特殊な例も紹介する．

引用論文は上記を含めて１３本だ．
主観を多めに記載している．
問診の深堀りというスタンスでご覧いただければ幸いだ．
それでは，いってみよう．