バリアフリー小史(3)

1.2 障害の医学モデルと社会モデル
 20世紀には、障害はその人の身体的(あるいは知的・精神的)な機能の欠如等に由来するものと捉えていた。そこで、治療やリハビリテーションによって、その人が機能を回復しあるいは福祉用具等によって機能を向上することで、「社会参加」が実現する(逆に言えば、それが十分でなければ社会に受け容れられない)とするものである。これを、「医学モデル」あるいは「個人モデル」という。1980年に刊行されたWHOの国際障害分類(ICIDH)は、この考えに沿って、障害についてその人の何らかの「機能障害」によって「能力障害」が引き起こされ、その結果「社会的不利」が生ずるという、いわば直線的なモデルを示していた。
 2001年、これにかわるものとして国際生活機能分類(ICF)が採択された。起点は「健康状態」となり、国際障害分類の「疾患・変調」ではなく、中立的な評価となっている。そしてそれによってもたらされるものを「心身機能・身体構造」、「活動」、「参加」とこれも中立的な用語が用いられ、それらが双方向の矢印で結ばれる表現となった。そして国際障害分類と国際生活機能分類からの大きな変化は、そこに「個人因子」と「環境因子」を書き加えたことである。
 すなわち、その人個人の何らかの機能制約に加え、環境が「障害」をもたらすということを、国際生活機能分類が明らかにしているのである。このことから、国際生活機能分類は「社会モデル」とよばれている。

1.3 障壁の類型
 ここで、改めて障壁の類型について触れておこう。
 1974年の「バリアフリーデザイン報告書」の緒言では、
「物理的障壁、公共建築物、住宅、交通、教会、社会生活センターその他地域の施設といった場所でわれわれが作りだしたもの。
 社会的障壁、正常ということに関してわれわれが条件づけてきた状態とかなり異なっている人々に対する、われわれの受け取り方。」
 とされている。本文中では、聴覚障害者、視覚障害者等を対象とした障壁除去に言及されているものの、本報告書では主に段差解消や通路幅等の「本来の意味」での物理的障壁の除去がテーマとなっている。なお、「第6章交通機関における障壁」では、「このステートメントが適切に守られれば、<老人、障害者うば車などを捺す人>など、公共交通機関を利用したいと思ってもそれが困難なすべての人にとって、おおいに貢献するであろう。設計がよくなったり、サービスが改善されることにより、すべての人々にとってもより使いやすくなるであろう」との指摘があり、その後の「社会モデル」に通じる考え方の萌芽がみられる。
 日本国内では、国連・障害者の十年を契機に策定した「障害者対策に関する新長期計画」(平成5年3月・障害者対策推進本部)において「障害者を取り巻く社会環境においては、交通機関、建築物等における物理的障壁、資格制限等による制度的な障壁、点字や手話サービスの欠如による文化・情報面の障壁、障害者を庇護されるべき存在としてとらえる等の意識上の障壁がある」と指摘し、障壁を4つの類型に分類している。これは、その後の社会モデルに連なる考え方であり、また、このように整理されることで障壁除去(バリアフリー化)が系統立てて進められるようになった。

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