24ページ読切漫画のネームの作り方(「セーフセックス」を例にして)
もう7年くらいは漫画を描いたり漫画の原作を描いたりして生活をしていますが、未だに漫画は難しすぎて結構な頻度で「漫画 描き方」とググってしまいます。
とはいえ、2022年に入ってから3本の読切漫画(うち2本は原作)を作って、雑誌などに載せてもらい、なるほど読切はこういう感じで描けばよいのかと感覚が分かってきました。しかしまた少し描かなかったら忘れてしまいそう……。
ということで、今回は読切漫画の原作を作るときに、何を考えて、どのように作っているかを簡単に説明してみようと思います。
備忘録的な意味合いもありますが、これから漫画や漫画原作を作りたい人・作ってるけど悩んでる人の参考になればいいなと思って書いています。偉そうにすいません!
こういうやり方もあるんだな、くらいに思って読んでいただけたら嬉しいです。
今回説明に使うのは、原作を担当した24ページの読切漫画『セーフセックス』です。(作画・岩浪れんじ先生)↓
※性描写あります(一般漫画誌に載せられる程度ですが、ご注意を)
この作品は週刊ヤングジャンプの2022年27号に掲載された比較的最近の作品ですし、上記リンク先の漫画サイト「となりのヤングジャンプ」や、「ヤンジャン!」アプリに掲載されているので、参照しやすいかと思います。
単純に自分でもとても好きな読切なので、漫画の作り方に興味がない方でも、是非この漫画だけ読んで帰ってください。
なお、私は漫画の原作をネーム形式で制作していますので、ネームを描くところまでの説明となります。
(ネームっていうのは漫画のコマ割りまで描いてある、漫画の下描きの下描きみたいなものです)
それでは説明していきます。
と、その前に……
はい、では漫画のネームの作り方を説明していきます。
ネームを作る工程
漫画を作ることになってからネームを作り上げるまでに、以下の工程を踏むことになります。
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Ⅰ 題材を決める
どんな事件が起きるか、誰が何するかを決めます。
Ⅱ 物語の目的を決める
この物語で登場人物は何をするのか、何をさせるのか決めます。
Ⅲ キャラクターを考える
物語の一言あらすじに沿って主要なキャラクターを考えます。
Ⅳ ストーリーを考える
①文字プロットを書く
セリフや状況を書き出し、簡単なプロットを作ります。
③ネームを作る
文字プロットを元にネームを書きます。完成!
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当たり前なんですけど絶対にこの順番でやんなきゃダメとかはないです。
キャラクターを最初に考えてから題材選んでもいいんです。
漫画つくるやり方の記事でこんなのと言うのもなんですが、やり方にこだわり過ぎてはいけません。我々は最後にネームを完成しさえすればよいのだから……。
ではこの漫画のネームを作っていきます。もう一度読んでおいてください。
Ⅰ 題材を決める
今は24pということ以外何も決まっていない状態なので、まずは題材を決めましょう。
ここで言う題材は「サッカーの話」「将棋の話」「魔法学校の話」とかだけではなく、サッカーの話だったら「サッカー部の部室がゾンビに囲まれた話」くらいの感じです。なんかTwitterで回ってくる漫画の第一話の紹介文みたいですね。でもほんとそんな感じで読者に伝わりやすく興味が持てそうなものを考えます。どこで(誰が)何をするかっていうのを決めると良い気がします。
描きたいものがある場合はそれを描けばいいんですが、描きたいものがないなら家族なり友人なりに「何描けばいいと思う?」って聞いて参考にしましょう。自分も全然思いつかなかったら編集さんに「何描けばいいですかね?」と聞きます。
でも、今回のように作画の作家さんが決まっている場合は、作家さんの絵を活かすことが出来る題材にしようというところから始めるといいかもです。
個人的に岩浪先生の絵は人間の裸が色っぽく描かれているところに魅力があると思うので、そういった絵がたくさん入りそうな題材を選びます。男女どちらの裸も描いてほしいので、それならカップルの話でしょうか?やっぱりセックスシーンになるのかな〜。
岩浪先生にどんなの描きたいか聞いたら明るい話がいいとのことでしたので、じゃあコメディかなと。前述の「コーポ・ア・コーポ」では生活描写がとても上手なので、日常の小さな事件を題材にするとなんかが合いそうな気がします。
カップルのセックスでの小さな事件か〜。
ということで「カップルがセックスしようとしたらコンドームがなかった話」にしてみよう!と決めます。
Ⅱ 物語の目的を決める
さっき決めた題材の中で、主人公が何を求めてどんな行動するのか、そしてその結果どうなるのかを決めていきましょう。
この物語が何を目的として何を語るかというところです。
「カップルがセックスしようとしたらコンドームがなかった話」というのは、ただの出来事を挙げているだけです。
この出来事に対して、主人公は何を求めてどんな行動をするのか。
その結果どうなるのか。これを決めることでやっと物語になります。
そして主人公の欲求が物語を引っ張っていきます。
ここでの主人公はカップルのどちらか、或いは二人ともが主人公となります。どっちかと言ったら彼氏なのかな?
まずは主人公が「何を欲しがるか」を決めましょう。
まあここでは普通に「コンドーム」ですよね。
続いて、「そのために何をするか」。
Amazonでコンドームを注文して今日は諦めて寝る、なんてこともあるでしょうが、それでは漫画にならないです。面白くなりそうなのは必死に部屋を探すとか、買い物に出かけるとかのより能動的な行動ですよね。
「コンドームを探し回る」にしておきます。
で、もう一個決めておきたいことがあります。
それは「その結果、主人公はどうなる?」です。
どうなる?のどう?はコンドームが見つかるか否かではなく、主人公の内面の変化です。
内面の変化を描くことで、主人公の物語として求心力が増すと思います。
コンドームを探しまわった結果、「二人の距離が縮まる」というのが分かりやすくドラマにもしやすそうですね。
よってこの漫画は
「カップルがセックスしようとしたらコンドームがなかったので、
コンドームを求めて探し回った結果、二人の距離が縮まる話」
として書いていくことになります。
この一行あらすじを指標としてお話を考えていきましょう。
Ⅲ キャラクターを考える
ここで主人公を中心としたメインキャラクターを設定します。
キャラクターを決めてから題材や物語の目的を考える人も多いとは思いますが、自分は物語の目的を決めてからキャラクターを導き出した方がやりやすい気がします。
ひとまずここらへんが一回キャラクターを掘り下げておくのに良いタイミングかとは思います。
一行あらすじから考えると、このカップルはあんまり婚姻中のイメージではないし、ゴムを探し回る元気な感じなんで、20代前半くらいの若いカップルかな?まだ付き合ってそれほど時間が経っていなくてお互いのことを知らない関係性であると考えます。
あとは単純な自分の好みを入れていきます。
彼女はギャル系がいいなとか彼氏は××(有名人)みたいな人がいいな、とかそんな感じ。所謂「陽キャ」がいいですね。
ぼんやり浮かんだら二人を頭の中で会話させてみたりします。
うーんなんか「女の子がいたずらっぽくて、男の子は少し情けない」のかなあ……。まあそんな感じの二人ですかね〜。
ここで名前やら細かい年齢やら二人の出会いやら考えていく人もいると思いますが、個人的にそういった作業が全然好きじゃないので自分の場合はやりません。
次のプロットを作る作業をしながら、同時にキャラクターを探っていくこともあるので、カッチリ決めなくてもいいかも。
ではいよいよ、具体的に物語を考えていく作業に入ります!
Ⅳ ストーリーを考える
具体的なストーリーへと組み立ててネームにしていきましょう。
プロットとネームについて
これからやる作業は、24ページ分の文字プロットを書いて……
それを元に、ネームを作るという作業です。
本来は24ページ分の文字プロットを全部書いてから、ネームを作る作業に移るのですが、これ以降は説明の都合上、文字プロットの段階でネームを載せて説明します。いつも文字プロットを作りながらすでに頭の中でコマは割っているので、やっていることは実はあんまり変わりません。
ストーリーを作る
「20代前半の陽キャカップルがセックスしようとしたらコンドームがなかったので、コンドームを求めて探し回った結果、二人の距離が縮まる話」
を24ページに収まるストーリーにしていきましょう。
ストーリーの考え方は基本的に
・クライマックス(一番描きたいシーン)から考えていく
・始まり(最初のシーン)から考えていく
のどちらかだと思うんですが、私は後者が多いです。
始まりを考える
ということで始まりを決めましょう。最初の2ページくらいの場面です。
読者がこれなんの話?ってなるのは避けたいので、とりあえずこの漫画の主人公は誰で、どんな話なのかは早めに伝えたいですね。じゃあカップルは一人ずつ出すより二人同時に登場させたほうがいいし、早めにゴムが無いのに気づいてほしいですね。……あーじゃあベッドシーンから始めますかね。雑誌に載ること考えると、1p目からベッドシーンで目を引くのは正しい戦略です。
ゴムがないってことはラブホテルではなくどっちかの部屋かな?ゴムが切れたのに気づかなかったのは、ベッドサイドに置きっぱなしじゃなくて引き出しの中に入れていたからかな?など、自動的に決まっていきますね。
そこで頭の中でコマを割りながら、1、2ページの文字プロットを書いていきます。↓これが実際に書いた文字プロットです。
あ、ここで漫画のタイトルが決まってますね。
文字プロットは自分だけに分かるように書いているので伝わらないとは思いますが、頭の中では↓こうなっています。
最初なので、頭の中でどう考えてコマを割ったのか、ちょっと丁寧に説明しますね。
1ページ1コマ
1ページ2コマ(3コマ)
1ページ4コマ、5コマ
2ページ1コマ
2ページ2コマ、3コマ
最初なので気合い入れて説明しましたが、どのページのどのコマも、漫然とコマを割るのではなく、しっかりと意味を持たせて割っていけるといいですね!
さて、最初の2ページは決まりました。
ここからページ順に考えていってもいいですが、ラストシーンを決めちゃったほうが物語にまとまりが出来るので、終わり方を考えます。
終わりを考える
終わりを考えていくわけですが、ここで大切なのは入り口と出口を一緒にするということです。
一貫したテーマやモチーフで話を作りましょう。よくあるのが一話の中で全く関係ない2つの話をやって全然関係ないラストシーンで終わるパターンです。これ、なんのor誰の話!?となります。
「昔々おじいさんが」で始まったら「おじいさんは幸せに暮らしましたとさ」で終わりましょう。
正直24pくらいの短い漫画だったら「最初と最後のページは同じ場所、同じキャラクターにする」くらい決めちゃっても良い気がする……。
今回でいうと「部屋にゴムがない状態」から始まったので、「部屋にゴムがある状態」にするとまとまりあるように思います。
入り口出口が一緒という観点だと「結局ゴムがない状態で部屋にいる」でも全然良いんですが、事件(=ゴムがない)を解決して終わった方がスッキリするんじゃないかな〜的な判断をしました。
この漫画のラストは「コンドームを手に入れてこれからセックスをしようとするところ」にしましょう。
考えたプロットがこちら。
一生懸命探したコンドームがまた無くなる、みたいないい落ちになりました。いたずらっぽい彼女のキャラクターも出てますね。こういうシーンを実際に思い描くことでキャラクターの理解が深まります。
これで始まりと終わりを決めることが出来ましたね。
いま物語の構造は簡単に図示するとこうなっているわけです。
次にこのなんやかんやを簡単なあらすじにしていく作業をします。
中盤の流れを考える。
始まりや終わりを考えたときと同じように、その間を埋めるなんやかんやを、まずはどんな流れになるかざっくり考えてみましょう。
もう一回確認しますが「20代前半の陽キャカップルがセックスしようとしたらコンドームがなかったので、コンドームを求めて探し回った結果、二人の距離が縮まる話」という話であることを忘れずに。
部屋でゴムがないところからスタートしてるので、まずは部屋の中を探す時間があるでしょう。
ラストでゴムを手に入れているのでどこかでゴムを見つけることになりますね。それが部屋の中でも良いんですが、それだとずっと絵が変わらないのでつまらないように思います。そこでゴムを買いにいかせることにします。夜道を二人で歩くのはエモくて良い気がします。物語は色々と障害が起きるのが面白いので、買い物に言ったのに色々とトラブルが起きることになりますね。
トラブルを乗り越えて二人の距離が縮まるという展開になりそうです。
ということは部屋にいるときから少し二人に距離があるような描写は必要かもしれないですが、基本的には仲がいいキャラクターイメージなので、彼氏が経験豊富そうな彼女に対して引け目を感じていたり嫉妬しちゃっていたりするくらいが良いかもしれないですね。可愛さやギャグにも出来るので。
そして最後はお店でちゃんと買って、めでたし、と。
これでざっくり流れは決まりました。
この作業をしながら、具体的なエピソードも思いつくと思います。それもちゃんとメモしておきましょう。
中盤を考える
もうほとんど出来たようなもんですよね(言い過ぎ)
ここから中盤のプロットを書いていきます。
もうこれ細かく説明すると大変なんで、頭の中でどう考えているかをモノローグ形式で書いてネームを貼りますね。
読みやすいように始まりと終わりのネームも改めて載せます。
1,2ページ
3,4,5ページ
6,7ページ
8,9ページ
10,11ページ
12,13ページ
14,15,16,17,18,19ページ
20,21ページ
22,23ページ
24ページ(終)
ということで、ネームの完成です!!!
これをPDFにして担当編集さんに送ります。
修正します
なんと担当編集さんから気になるところがあるとフィードバックがありました。
↑のネームは実は最終原稿と違うんですね。気づきました?
指摘された箇所とそれをネームの修正でどう解決するかを説明します。
・二人の関係が分かりづらい
初めて関係を持つ相手のようにも見えて、21pの「彼氏」という単語が出たときに「あっ付き合ってたんだ」となってしまうという点です。
確かにそのとおりですね。クライマックスのセリフで狙いと異なる感情をもたせてしまってはいけません。
ここは1ページ目のコマを修正して対処しました。
二人の関係性が分かりやすくなっています。
完成
以上でネームの完成です。
ここから掲載してもらえるかの会議が行われます。
岩浪さんが1ページ分ペン入れした原稿とキャラクターのカット1枚を、ネームに併せて提出する形です。
これで掲載が決まり、お金がもらえました。ハッピー。
最後に
いかがだったでしょうか。
長かったですよね。最後までお付き合いただきありがとうございます。
なにかしら参考になれば幸いです。
最後に今年描いた読切三本のリンクを貼っておきます。漫画は読まれてなんぼなので。
「セーフセックス」
繰り返しになりますが……。
「ぼくさつのやつ」
「セーフセックス」と同じく、岩浪さんと作った読切です。
こちらは原案を岩浪さんが考え、森がネーム構成を担当した少し異色の作品です。読んでください。
「私のカレーを作りなさい」
これは自分で作画もやった読切です。
それでは皆さん、楽しく漫画描きましょう!
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