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ウイルスで死ぬのではない 生まれてきたから死ぬのだ

本願寺からポスターが届きました

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浄土真宗本願寺派では,「本願寺新報」という宗門の新聞があり,月3回発行されています。私の所属しているお寺でも定期購読しております。このポスターは,本願寺新報の7月1日号に印刷されていたものです(本願寺派の公式webページから,データがダウンロードできます)。みなさんはこのポスターをご覧になって,どうお感じになるでしょうか?

お聖教をひらく

このポスターの文章の出典は,浄土真宗を爆発的に全国に広め,「中興の祖」といわれた蓮如上人のお手紙です。浄土真宗の教えの重要な点をお示しになったもので,「御文章(ごぶんしょう)」や「御文(おふみ)」と呼ばれています。

当時このごろ,ことのほか疫癘とてひと死去す。これさらに疫癘によりて初めて死するにはあらず。生れはじめしよりして定まれる定業なり。さのみふかくおどろくまじきことなり。しかれども,今の自分にあたりて死去するときは,さもありぬべきようにみなひとおもへり。これまことに道理ぞかし。(略) (本願寺出版社「浄土真宗聖典(註釈版第二版)」1181頁)

ポスターの「ウイルスで死ぬのではない 生まれてきたから死ぬのだ いまさら驚くことか…」という文章は,このお手紙を引用したものと考えられます。蓮如上人やこのポスターを作成された方には大変失礼かもしれませんが,私は「ウイルスで死ぬのではない」「生まれてきたから死ぬのだ」ともに半分正解で半分間違っていると考えています。

直接的原因と間接的原因

仏教を開かれたお釈迦様は,「因縁生起(いんねんしょうき)」という真理を明らかにされました。ちぢめて「縁起(えんぎ)」とも呼ばれています。因縁生起とは,あらゆるものは因(直接的原因・原因)と縁(間接的原因・条件)が相互に関わりあってはじめて存在し,なにひとつ単独で存在しているものはなく,他とのかかわりの中に成立しているということです(「得度習礼教本」を参考にしました)

京都で学んでいたころ,先生が因縁生起の話を花にたとえて教えてくださいました。「花が咲く」という結果(仏教では,原因の因に対して「果」(か)といいます)で考えてみると,「因」すなわち原因は植物の種にあたります。しかし,種がそのあたりに転がっているだけでは花は咲きません。種が成長するための土,水,栄養,日光など,さまざまな条件「縁」が整ってはじめて花を咲かせることができます。

「死ぬ」ことが結果だとしたら,確かに「生まれてきたこと」は死の「原因」といえるかもしれません。生まれてこなければ死ぬことは100%ありません。しかし,生まれたことだけで死が成立するのなら,この世に生まれてきた赤ちゃんはただちに死ななければならないことになります。他にさまざまな条件がそろわなければ,死は成り立ちません。それがウイルスなどによって生じた病気である人もいらっしゃるでしょうし,突然事故に襲われる方もおられることと思います。同じウイルスに感染しても,症状が出なかったり,病院の方の治療やケアを受け,闘病して病気から回復される方もいらっしゃいます。死の直接的原因はだれもが共通していますが,間接的原因は人それぞれだと考えられます。

蓮如上人は私の考えているようなことは重々承知の上でこのお手紙をお書きになったと想像します。おそらく,私の根性が曲がっているか,ただ単に勉強不足なのだろうと思います。

御文章は全部で80通以上ある

蓮如上人がご門徒の方に書かれたお手紙「御文章」「御文」は80通以上が現存しており,今でも読むことができます。今回ポスターに引用された「疫癘章(えきれいしょう)」「疫癘の御文(えきれいのおふみ)」は日常的に用いるお経本にはほとんど掲載されておらず,本願寺の法要で拝読されることはありません。「よく見つけたなあ…」というのが私の率直な印象です(もちろん,僧籍をいただいた者なら知識としては知っておく必要があると思います)。

ポスターの後半部分の,「生きて 死ぬ いのちを 生きている」ことが伝えたいのなら,私は他の御文章やお聖教を参考にすると思います。「○○で死ぬのではない,生まれてきたから死ぬのだ」はきわどい表現であると言わざるを得ません。

まとめ

・「ウイルスで死ぬのではない」「生まれてきたから死ぬのだ」はどちらも半分正解で半分間違っている
・死が結果だとしたら,直接的原因は生まれてきたことで,ウイルスは間接的原因にあたると考えられる
・「生まれてきたこと」という直接的原因はだれもが共通しているが,間接的原因は人それぞれ

以上,本願寺のポスターを拝見して感じたことを書かせていただきました。ご本山からはこの他にも数種類ポスターが出ていますが,限られた情報量で,わかりやすくインパクトのある表現をすることの難しさを痛感します。文字が少ないだけにいろいろな受け取り方ができてしまいます。私の勉強不足でゆがんだ解釈をしてしまっている点も多々あることと存じます。お気づきになったこと等がございましたら,コメント欄にお書きいただけますと大変嬉しく思います。最後までお読みいただき,ありがとうございました。

※こちらのnoteでも,同様の内容について書かせていただいております。

合掌

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