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令和6年度の診療報酬のあれこれ ~もるげんよもやま話~

医療者の方なら気が気でない、来年度の診療報酬改定。
具体的な内容がとうとう解禁されました。

とりあえず仕事の収入源なので、分からないなりに調べてみました。
全部は見切れないので、精神科関連だけですけれどね。



通院精神療法、減算

精神科関連での最大の注目ポイントは通院精神療法(通精)の減算です。

⑤ 通院・在宅精神療法の見直し 及び早期診療体制充実加算の新設 P622

診療報酬の点数は1点=10円の計算です。
つまり、1回の診察だけで3000円前後の診察料を徴収できていました。
今回、通精の初診は値上がりしましたが、30分未満の部分、つまり日常診療でもっとも使用される部分が値下がりになりました。
SNSの精神科界隈でもどよめきが走っています。
特に指定医という資格がない場合、315点が290点、つまり25点分の減算となります。驚異の10%オフです。

通精は日本精神医療において「5分診察」の温床ともいうべきシステムです。
長時間の診察よりも短時間で数を回した方が利益が出る(むしろそうしないと経営できない)ため、挨拶と薬を出して終わり、なんて揶揄されます。
厚労省としては、指定医がない医師による精神療法を厳しくしつつ、回転率を上げろ、ということなのでしょう。5分診察は当分、無くならさそうですし、なんなら3分診察にまで圧縮されそうです。
もし本当に「5分診察」をやめるならば、30分未満とか言うよくわからないシステムではなく、もう少し分刻みにするとかするべきかなあ、とか思います。

一方で「早期発見及び症状評価に十分な診察を行う体制のある医療機関」である場合には加算が取れます。
どのような枠組みになるかは不明ですが、おそらく指定医を目指す専攻医を育てる施設にはインセンティブを与える、ということでしょう。

児童加算の見直し

児童関連は下記のカウンセリングもありますが、多職種連携による加算が取れるようになりました。

⑥ 児童思春期支援指導加算の新設 P625

児童精神を専門としている自分としては、この加算はかなり大きいと思います。
届け出や多職種の介入が必要ですが、その場合には1000点(10000円)が取れるのは、児童関連にリソースを入れたい我々にとって非常にありがたいです。
ただし、届け出を出していない場合のもともとの児童加算は減算となっているので、厚労省としては「専門的な人たちに集約し、一方で非専門に適当な診察はさせない」という方針なのでしょうか。
嬉しいことではありましが、児童精神科は今でも待ちが多いのでその点が気がかりではあります。

小児とトラウマのカウンセリング

今回の改定の特色の一つに、公認心理師による加算が増えました。
1つは児童に関するもので、これはもともとあります。
これの見直しで、大幅な増収となりました。

⑨ 小児特定疾患カウンセリング料の見直し P143

もう1つはトラウマに関するものです。
これは新設ですが、月2回250点を取れます。

⑦ 心理支援加算の新設 P628

心理関連はあまり詳しくはないのですが、基本的には不遇でした。
児童、トラウマは精神科ではホットトピックスであり、ニーズの高さもあります。
また、精神科内での仕事分業という点でも、今後はどんどん心理師が活躍できる場面が増えるのはいいことだと思います。

オンライン診療の重点化

オンライン診療についての記載が増えたのは今回の改定の大きなポイントでもありますが、精神科でも「情報通信機器を用いた通院精神療法」が点数としてとれるようになりました。

⑩ 情報通信機器を用いた通院精神療法に係る評価の新設  P146

いわゆるオンライン診療に重点を置き始めた、ということでしょう。
通精の30分未満がこれに変わるので、指定医だとよりおいしい、という感じですね。
一方で施設基準がどうなるか、などの詳しい条項次第な気もします。

他にも地域移行などの面で点数の変更などがありましたが、ちょっと大変なので今日はここまでです。

まとめ

児童とカウンセリング、オンラインが優遇

児童精神科へのアクセスが悪く、診察には半年も待たねばならないことが多い昨今、子供たちの精神科ニーズにどのように対応するかは急務です。
その意味で今回はかなりの優遇を受けた、と思います。
しかし、供給側を整備しなければならず、これは今後の課題と言えます。
また、小児科から児童精神に携わる先生方も多く、この先生方は神経発達症などには強い反面、自殺や自傷行為、統合失調症などをカバーできるのかという問題も生じています。
子供のメンタルヘルスをどのように守るのかは、現在の日本医療が抱える大きな問題である、と自分は考えており、少なくとも今回の改定は一歩前進と評価できそうです。

また、トラウマなどのカウンセリングを大きく評価し始めたのは、もしかしたら費用対効果を見たいのかもしれません。
今後はこの辺りの評価が進み、トラウマだけではなく認知行動療法などの精神療法がもう少し、行いやすくなるといいなあ、と思います。
同時に心理師さんの処遇が改善されないことには、これらのカウンセリングが十全に効果は発揮できないでしょう。

オンライン診療の優遇は時勢ですが、今後は処方の乱用などの問題がないか、が注目されます。
自分はオンライン診療はしないかなぁ、と思っていたのですが、これを見ているとできないと難しいかもしれません。

通精の減算はクリニックには痛い

30分未満通精減算はクリニックには非常に重いでしょう。
SNSで悲痛な叫びが至る所から湧いています。
一方で、指定医なしの通精減算は妥当ですし、指定医を目指す専攻医のために訓練施設には加算を出すのはちょうどいいバランス配分だと思います。
非指定医による通精は正直、淘汰されるべきですしね。
ただ、ある先生が「ディスチミア親和型のうつの患者など、長期的に見なければならない患者が診にくくなる」と言っていました。
この点はその通りだと思います。
そもそも論として通精というシステムがどのように診療報酬を担保しているのか、という問題もありまして、非常にややこしいところではあります。
いつかは避けて通れない「通精」問題ですが、ひとまず、いいさじ加減ではないかな、と思います。

専門性担保の問題

これは指定医の有無が診療報酬に影響していることの問題です。
そもそも精神科には「精神保健指定医」という行政上の資格と「精神科専門医」という医師の資格があります。
本来、専門性を担保するなら専門医が妥当ですが、なぜか診療報酬上、専門性を指定医に委ねているという現象が起きています。
指定医を専門性とすることが、本当に正しいのか。
そもそも通精を行う専門性はどのように保証されるべきであるか。
こういった問題が、表にはなっていませんが、精神科内では燻ぶっています。

心理師についても、その心理師が精神療法を行えるに足るスキルをもっているか、という問題があります。
アメリカでは精神療法のスペシャリストを名乗るには、超長時間の実践とスーパービジョン(上司への症例報告)が必要になります。
そういった厳しい訓練があり、アメリカでの精神療法のスペシャリティは担保されているのです。
翻って日本の精神科医や心理師は、どうなのでしょうか。
この問題は自分自身にも深くぶっ刺さっているのですが、常に考え続けなければならないと思います。
今回の改定ではこの辺りはあまり深く触っていないようですが、今後、決して避けては通れない問題でしょう。

以上、令和6年度の診療報酬改定をさらあっとみてきました。
いろいろ見ていると、新しい発見もありつつ、さて、自分はどのようにスキルを磨き、生き残ろうかなと考えてしまします。
一先ずは児童精神科医として、専門家を名乗れるように修行していきます。

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