西アフリカのヒーリング・ドラム
「シャーマンと伝統文化の智恵の道」に書いた文章を転載します。
西アフリカの音楽家(ドラマー)は、ヒーラー(呪医)です。
音楽家は、患者を即興的に踊らせながら、診断し、ドラミングによって治療します。
以下、マリのパーカッショニスト、ヤヤ・ジャロの「アフリカの智慧、癒しの音」を参照して、西アフリカのヒーリング・ドラムについて紹介します。
<マリの音楽とダンス>
世界の多くの伝統的な文化では、音楽は単なる娯楽ではなく、個人の表現でもありません。
特定の場面で、それに応じた音楽が、宗教的、社会的、儀礼的、呪術的な目的を持って演奏されます。
音楽は、自然や精霊に影響を与えるものなので、場違い、時違いに音楽を演奏することは、許されません。
マリ(西アフリカ)でも、必要な時に、それに適した音楽(リズム)が演奏され、ダンスを踊ります。
マリでは、音楽は、労働に敬意を表す、共同体を祝福する、個人の存在を確認する、精神病を予防する、目に見えない世界と交流する、猛獣のなだめるため、雨を降らせるため、妊娠させるため…などなどのために演奏されます。
職業ごとにも、固有のリズムとダンスがあります。
中でも狩猟者のリズムとダンスは、素早く、奇妙なものです。
もちろん、儀礼ごと、そのプロセス、次第ごとにリズムとダンスがあります。
例えば、葬式の時には、遺体の移動時の音楽、埋葬時の音楽、埋葬後の音楽…などなどがあります。
成人儀礼でも、特別な楽器を作り、特別なリズムとダンス(入会のダンス)を学びます。
そのリズムとダンスは、自分が長老になって加入者に教えるまで、演奏することはありません。
人々がダンスをすると、そこに必ず精霊達がやって来ると考えます。
そして、精霊達が一緒に踊ると、トランスを伴ったダンスになります。
トランスに入れるためのリズムと、平常に戻すためのリズムがあります。
トランス状態になると、予言などを行うこともあります。
<ヒーリング・ドラム>
マリ(西アフリカ)では、音楽家(ドラマー)はヒーラー(呪医)です。
ヒーラーにとって、音楽は、目に見えない世界を媒介し、人間と環境との調和を回復させる存在です。
特に、バラフォンは、見えない世界の楽器であり、水と風の要素に関わる楽器です。
音楽家の見習いは、最初の1年間は、聴く訓練だけをします。
新しいリズムを学ぶことは、人格のより高い段階の音楽を伝授されることです。
ヒーラーとしての音楽家は、踊り手がダンスするのを見ながら、そのダンスに合う音を即興で演奏します。
演奏しながら、踊り手のダンスを細かく観察して、その人の精神の不調を発見します。
患者の内面に同調して、ふさわしいリズムを見つけて、そのリズムによって治療をします。
2人のドラマーがいると、それぞれが踊り手の上半身と下半身に対応して演奏します。
また、太鼓は胴体に、ベルは頭に共鳴します。
ドラマーは、踊り手の体の特定の部位に向けて音を送ることができます。
そして、リズムによって、その場所の治療します。
ヒーラーとしての音楽家は、人体組織や邪悪な精霊に関する知識が必要です。
病気に精霊が関わっている場合は、その精霊に相応しいリズムを演奏することで、その精霊を追い出します。
治療の対象は、個人とは限りません。
伝統的な文化では、個人の精神の異常は、共同体の異常と一体と考えられることもあります。一時的に異常になる人間は、共同体にメッセージを伝えるために先祖が選んだ人間だと考えられることもあります。
その場合は、個人の健康の回復には共同体の健康の回復が必要とされます。
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