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魔術タロットの歴史1:遊戯タロット、占術タロット

一般の人にとって、タロットと言えば、占いの道具であって、胡散臭いものでしょう。
それが魔術の道具でもあると聞けば、さらに胡散臭さが増し増しになるでしょう。

証拠が残っている事実から判断すると、タロットは15Cの北イタリアで、遊戯用のカードとして生まれました。

その後、18Cにフランスで占いに使わるようになり、さらにその後、19-20Cにイギリスで魔術に使われるようになりました。
それに応じて、タロットの絵柄とその象徴的な意味は変えられてきました。
魔術タロットは、改変され、創造され続けていると言えます。

最近では、カウンセリングや瞑想にも使われます。

「魔術タロットの歴史」は、4本の投稿を予定しています。
本稿は、魔術タロットの前史としての遊戯タロット、占術タロットの歴史とそのカードの意味について簡単に紹介します。

タロットは各地で多様に展開してきましたが、個人的な関心からピックアップするものであることを断っておきます。

*用語
・タロット・カード:大アルカナ(22枚)+小アルカナ(14×4枚)で構成。「アルカナ」は魔術タロットで使われる言葉で「秘密」の意味。
・大アルカナ:元々は「トリオンフィ(トランプ、日本語の意訳で「切り札」)」と呼ばれていた。
・小アルカナ:ナンバー・カード(10×4枚)+コート・カード(4×4枚)で構成。元々は単独で遊戯(プレイング)カードだった
・コート・カード:王、女王、騎士、見習い(ペイジ)のなど4種で構成。
・ナンバー・カード:1(エース)から10までで構成。
・スート:小アルカナのマークの種類で、剣、杯、棒、金貨(ペンタクル)など4種で構成。


遊戯タロットの歴史


まず、遊戯タロット誕生までの歴史歴経緯をまとめます。


・古代ギリシャ時代
プラトンが「国家」で4つの枢要徳、「智恵」、「勇気」、「節制」、「正義」を語る。
これがキリスト教時代の西洋にも伝わり、後に3つがタロットのテーマとして取り上げられることになる。

・古代ローマ時代
詩人オウィディウスが「変身物語」を発表。
ギリシャ・ローマ神話の登場人物が、様々なものに変身していく逸話集で、後にタロットのいくつかの絵柄の元ネタになる。

・1352年
フランチェスカ・ペトラルカが「トリオンフィ(凱旋)」を発表。
「愛」、「純潔」、「死」、「名声」、「時」、「永遠」という6つのテーマを古代ギリシャ・ローマの精神とともに叙事詩にしたもので、後のものが前のものを打ち倒して凱旋するという物語。
その後、これに挿絵がつけられ、それが絵画や日用品のテーマや、実際の凱旋車(山車)の見世物として広がる。
さらに、6つのテーマを越えてローマ神話の神などもそれらに加えて描かれるようになった。
後のものほど強いというのは、遊戯カードの切り札に適合するコンセプトであるため、後にこれらがタロットのテーマの元ネタになる。

・13C頃
トルコで遊戯用のマルムーク・カードが作られる。
現存するヨーロッパの遊戯カード、タロットの小アルカナの原型と考えられる。
プレイング・カードは、中国発、イラン経由でトルコに至ったものと推測されている。

・14C
ヨーロッパで遊戯カードが作られる。
ゲームにはトリック・タイキングと呼ばれる種類があり、これは一番強いカードを出した人がプレイされているカードを総取りし、最終的に取得したカードの合計点数で勝負を決める。
基本として、ナンバー・カードは数が大きいほど強く、コート・カードはそれより強い。

・15Cの前半
イタリアのミラノ公のヴィンスコンティ家が、現存する最古のタロットのいくつかのパックを製作する。
大アルカナは、遊戯カードに、より強い切り札として追加されたもので、「トリオンフィ」のテーマから広がっていた当時の様々なテーマを集めて作られたと推測される。
そのため、大アルカナは「トリオンフィ」と呼ばれた。

・16C初頭
タロットが「タロッキ」と呼ばれるようになる。
「タロッキ」は、「偽造」、「偽物」といった意味と思われるが、なぜ、そう呼ばれるようになったのかは、諸説があり、分かっていない。
例えば、「印刷されもので手書きではない」とか、「簡素版で豪華版ではない」とか、「ペトラルカの「トリオンフィ」に対応するものではない」などの説がある。


初期の遊戯タロットの内容


先に書いたように、大アルカナには順番(番号1-21)があり、後の方が切り札として強くなります。
ただし、「愚者」のカードは、最弱ですが、最強にもなりうるババ的カードです。

ヴィスコンティ家のタロットの標準的な構成の、番号、タイトル、絵柄、意味は、以下のよう通りと推測されます。

ただし、カードに番号やタイトルは描かれておらず、ゲームの参加者は、教養としてそれを知っていました。


・身分のカード

0 愚者:正しくは「狂人」、絵は森の中で放浪生活を送る人
1 奇術師:絵はコップに球を入れて動かして球の場所を当てさせる手品師、騙す技術でお金を稼ぐ人
2 女教皇:ボッカチオの「名婦列伝」に掲載されている男装して教皇になった伝説のヨハンナがモデル、ウソを隠している聖職者なので皇帝より弱い場所にある
3 女帝:国を守る女帝、平和をもたらす、盾に書かれた黒い鷲は威厳を示す
4  皇帝:権力の象徴であるレガリアを持つ、帽子に書かれた黒い鷲は威厳を示す
5  教皇:ヴィスコンティ家の紋章が描かれているので教皇になったテオバルドが描かれている、信仰や善を意味する

・人生に必要な事項のカード

6 恋人:人間は恋に囚われるので身分カードより強い、恋は盲目的に偶然に起こる
7 凱旋車:勝利の凱旋車、勝利が女性名詞なので女性が乗る、女性が手にするインプレーザのモットーは「善き正しさに」
8 正義:枢要徳の一つ、正しい裁きを表現し、馬に乗る眼球のない騎士は戦争が正義を見失うことを表現する(後のマルセイユ版では9に)
9 時:ペトラルカの「トリオンフィ」のテーマの一つ、老人は時があっという間に過ぎることと経験の蓄積を表現する(後のマルセイユ版では「隠者」として8に)
10 幸運の車輪:運は変化しやすい、そのため逃さずに掴む必要があることを表現する
11 力(剛毅):枢要徳の一つ、ライオンはヘラクレスの偉業に由来する、力は困難を受け入れる力でもあることを表現する
12 吊るされた男:絵は最後の審判で地獄に送られる人、どうしようもない状態を表現する
13 死:死は逃れることができないが、最期の審判を待つことの始まりでもあることを表現する
14 節制:枢要徳の一つ、絵はワインと水を適度に混ぜて節約することを表現する、スカートの星は天を示す
15 悪魔:絵の悪魔は強欲を表現する
16 塔:「神の家」、「悪魔の家」とも呼ばれ、堕落、天使が来ない状態を描き、危険を表現する

・キリスト教とギリシャ・ローマの神に関わるカード

17 星:知らせの星、吉兆
18 月:絵は月と狩猟の女神ディアナ、薄暗がりは未熟を表現する、「変身物語」のディアナの裸を見た狩人のアクタイオンが鹿に変えられ狩猟犬に殺される話が元ネタ
19 太陽:絵は太陽神アポロの子、縞模様の布は未熟の象徴、「変身物語」の太陽神の子の少年パエトンが、太陽を運ぶ馬車を乗りこなそうとして失敗して死んでしまうという物語が元ネタ、自分の能力を超えることをしてはいけないことを表現
20 審判:最後の審判

・総括のカード

21 世界:永遠に繁栄する世界、子供は次世代の象徴


ヴィンスコンティ家のスフォルツァ版タロット


占術タロットの歴史


タロットが占術用に使われるようになり、占術専用のカードが作られるまでの歴史的経緯をごく簡潔にまとめます。


・1540年
ヴェネツィアのフランチェスコ・マルコリーノ・ダ・フォルリが、サイコロ占いを元にした、最古の遊戯カードの占いの書を出版。

・1770年
パリで占い師のエテイヤが、初めて遊戯カードの1枚1枚の正逆位置の意味を解説した遊戯カード占いの本「ミスター***によるカードのパックとそれの使用を楽しむ方法」を出版。

・1781年
学者のクール・ド・ジュブランが、著作「原始世界」を出版。
ここで、タロットの古代エジプト起源、大アルカナは21から遡って天地創造の物語を描いている、ジプシーがタロットをヨーロッパに持ちこんだ、などを主張。
また、この書には、ド・メレによるエッセイ「タロットにつての調査と、タロット・カードを使った占いについて」が含まれていて、エジプト人はタロットで占いを行っていて、カードの合計ナンバーで答えを出したと主張。
このエッセイは、タロットの占術化のきっかけになった。

・1783-5年
エテイヤが「タロットと呼ばれるカードのパックで楽しむ方法」を発売。
ジュブラン、メレの主張を受けたもので、現代につながるタロット占い方法の原型となる。
大アルカナがヘルメス文書「ポイマンドレース」の宇宙創造過程に対応すると主張。
カードの順番を下記のように、「教皇」から始まるオリジナルなものにしたる。
また、1-12番に12宮を順に対応させた。

1:教皇
2:太陽
3:月
4:星
5:世界
6:女帝
7:皇帝
8:女教皇
9:正義
10:節制
11:剛毅
12:吊るされた男
13:恋人
14:悪魔
15:奇術師
16:審判
17:死
18:隠者
19:神の家
20:運命の輪
21:戦車
0:愚者

・1789年
エテイヤが古代エジプト式というオリジナルのタロット・カードを発売。
史上初の占い専用のタロット・カードとなる。
カードの順番は6⇔7を交換しただけだが、タイトルのほとんどを下記のように変更する。

また、小アルカナは、22から77までの数が振られ、ナンバー・カードにはタイトルがつけられた。
また、コインのカードに惑星を対応させた。

1:教皇→男性の質問者
2:太陽→啓蒙
3:月 →意見/水
4:星 →損失/空気
5:世界→旅/地
6:皇帝→昼/夜
7:女帝→支持
8:女教皇→女性の質問者
9:正義
10:節制
11:剛毅
12:賢明
13:恋人→結婚
14:悪魔→偉大な力
15:奇術師→病気
16:審判
17:死 →死すべき宿命
18:隠者→裏切り者
19:神の家→悲惨/勾留
20:運命の輪→運命
21:戦車→不和
0:愚者→愚行

エテイヤのタロット


*主要参考書
・香月光「ヴィスコンティ・タロット 600年前に描かれた「思想」と「教訓」」(説話社)
・伊藤龍一「タロット大全」(紀伊國屋書店)


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