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セルフ・カウンセリング

「世界の瞑想法」に書いた文章を転載します。


何か感情的な問題を抱えている場合には、瞑想をうまく進めることができません。

強い感情的な問題を抱えていると、忙しく何かをしている時は忘れていますが、ちょっとした合間があると、それが思い出されます。

瞑想をしようとしている時にも、その問題が思い出され、集中する、リラックスすることができなくなります。

こんな時には、瞑想法ではありませんが、セルフ・カウンセリングの技術を使うと、問題を解決する、もしくは、軽減することができるかもしれません。

瞑想の障害対策の方法として紹介しますが、もちろん、それ以外にも使えます。

ただし、紹介するのは、瞑想に関わる方法ではなく、心理療法の分野に属する方法です。

これは、カール・ロジャーズの「クライアント中心療法」をもとにしたカウンセリングの方法を、一人二役で、自分自身に向けて使う方法です。

ただ、後半では、「クライアント中心療法」とは異なる、より積極的に変化を促す方法も紹介します。

通常、カウンセリングは、カウンセラーがクライアント(相談者)に対して行うものですが、セルフ・ウンセリングでは、一人の自分がカウンセラー(聞き役)になり、もう一人の自分が相談者(告白役)になるという方法です。

もともと、「クライアント中心療法」のカウンセリングは、相談者が、一人で自分自身と対話しているように感じさせることを意図したものです。

ですから、セフル・カウンセリングができるなら、それにこしたことはないと思います。

「クライアント中心療法」のカウンセリングの本質は、一言で言えば、「良い聞き役」になることです。

分析したり、助言したり、批判をせず、ただ、聞いて、それが自然なことだと、受け入れるのです。

これによって、相談者も、自分自身の感情を、意識して、それを受け入れて、自然に感情を表し、体験します。

泣きたい思いの時は、泣き、怒りたい思いの時は、怒ります。

セルフ・カウンセリングにおいても、本質は同じです。

告白役の自分が、あるがままの自分の気持ちを、言葉にして語ります。

それに対して、聞き役としての自分が、「そう思うのは当然だよ」と、共感して言葉を返します。

告白役の自分は、その感情を抑えずに、十分に表現します。

泣いたり、怒ったりしてもいいわけです。

これを、ひとり芝居のように行います。

原因を探したり、解決策を探ったりせず、自分自身の心に気づき、それを充分に受けとめることで、やがて自然に自ら解決法を見出すように促すのです。

あるいは、問題は解決されずとも、距離を置くことができるようになって、感情的に反応せずに客観的に向かい合えるように心を成長させます。

一般に、仏教の瞑想の「対治」の方法では、空観の瞑想を使って、感情を落ち着かせようとします。

つまり、問題の原因からなくそうとするわけですが、現実的には簡単ではありません。

仏教では、「クライアント中心療法」のような方法を、「同治」と表現します。

「対治」と「同治」の方法を併用するのがいいでしょう。

カウンセラーが「良い聞き役」として求められる基本的な態度には、次の4つあります。

1 受容:相談者の判断・感情・行動を、無条件に受け入れる
2 共感:相談者に興味を持ち、その人の世界に入り込んで、自分のことのように感じる
3 一致:カウンセラーが、嘘をつかず、自分自身が感じている感情を正直に表現する
4 存在:無心(変性意識)の状態で、内なる直観を重視して向き合う

2、3、4は、セルフ・カウンセリングの場合は、あまり問題にならないと思いますが、現在の自身の本当の感情を、直感的に感じながら、自分に正直に行えば良いでしょう。

聞き役の自分は、具体的には、次のように語ります。

告白役の自分が語る内容の、特に感情に関わる部分に関して、「…なんですね」と、「オウム返し」するように確認します。

告白役の自分が感じている感情に向かい、それを鏡のように反射して返し、それを意識させることが目的です。

また、「オウム返し」だけではなく、明快な表現に「言い換え」たり、「要約」もします。

時には「質問」も重要です。

「それはいつ頃からだろう?」、「周囲の人の反応はどうだろう?」といった質問によって、状況に対する理解を深めます。

ただ、「どうして?」という質問は、原因を探るものなので、避けます。

「クライアント中心療法」のカウンセリングは、自発的な成長、解決を期待するもので、「非介入的」な方法です。

ですが、より解決に向かって前向きになれるように導くような、「介入的」、「解決的」な方法もあります。

ミルトン・エリクソンの心理療法の影響を受けたいくつかの方法です。

例えば、リチャード・バンドラーらが開発した「神経言語プログラミング(NLP)」と呼ばれる方法だったり、これと似ているのですが、ビル・オハンロンの「可能性療法」、「解決志向アプローチ」、「ブリーフ・セラピー」などと呼ばれる方法です。

これらの方法では、次のように、告白役の語った内容に対して、質問や返答、誘導を行います。

・「~できない」→「~できなかったんですね」(過去形にする)
・「いつも~できない」→「できないこともあるんですね」(断定を限定する)
・「~できない」→「いつもですか?」(断定を限定する)
・「~がダメだ」→「でも、~はいいですね」(肯定的な部分を探す)
・「~がダメだ」→「ダメたと思ったんですね」(断定を主観に相対化する)
・「~しないといけない」→「そうしないとどうなりますか?」(義務を疑う)
・「~をしてはならない」→「そうするとどうなりますか?」(禁止を疑う)
・「どうして~できないないんだろう」→「できたとしたらどうなりますか?」(理由ではなく、目標イメージを描く)

などです。

これらは、単なる聞き役から、前を向かせる、開かせる役へと、少し重心を移しています。

ここに書いた方法は、一度行えば良いというものではありません。

必要に応じて、随時行う必要があるでしょう。

最初に書いたように、強い感情を伴う問題は、しばしば、フラッシュバックのように思い出されます。

その都度、その問題、感情を避けるのではなく、それに向かい合って対処することが必要です。



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