見出し画像

生命の誕生確率と多宇宙説×人間原理

宇宙が生命の誕生しえる物理的条件を持つ宇宙として生まれる確率も、
我々の宇宙、あるいは、地球で、生命が誕生する確率も、
生物が人間のような知性や意識を持つように進化する確率も、
現在分かっている範囲で考える限り、限りなくゼロに近いと思われます。

ですが、これらが現実に起こっていることを、科学的、合理的に解釈するには、多宇宙説と人間原理を組み合わせるしかないのではないか、というのがこの投稿のテーマです。


生命が発生しえる物理的宇宙となる確率


最初に、我々の宇宙が生命の誕生しえる物理的条件を備えた宇宙として生まれる確率について考えます。

この宇宙には、物理における基礎的な定数が多数存在します。

例えば、

光速C=299792458 m/s
万有引力定数G=6.67430(15)×10−11 N m2 kg−2
プランク定数 h=6.62607015×10−34 J⋅s
宇宙定数=1.38×10の−123乗(プランク単位)

などなどです。

基本定数以外にも、様々な定数が存在します。

これらの定数が、なぜこの数値であるのかという理由は、見いだせていません。
将来、定数の必然的な仕組みが見つかる期待もされていません。

また、例えば、複数種類存在する素粒子の質量のプロットは、統計学的にまったくランダムで、規則性が見つかりません。

電子の質量に対する比率を小さい方からあげると、次のようになります。

光子=0
グルーオン=0
ニュートリノ=10の−8乗未満だがゼロではない
電子=1
アップ・クオーク=8
ダウン・クオーク=16
ミューオン=207
ストレンジ・クオーク=293
チャーム・クオーク=2900
タウ・レプトン=3447
ボトム・クオーク=9200
Wボゾン=157000
Zボゾン=178000
トップ・クオーク=344000

こういった数ある定数などの一つでも違った値であると、宇宙の姿は変わります。
宇宙に原子が誕生し、銀河が誕生し、生命が誕生しえる環境となるには、極めて限られた条件が必要となります。

例えば、サー・マーティン・リースの計算によれば、ビッグバン1秒後の宇宙の相対密度Ωが、10の−15乗(一千兆分の一)ズレていたら、生命が発生できる環境となりませんでした。

また、宇宙定数は、10の−123乗(小数点以下123桁)ほどの小さい数値ですが、これがこのスケールから数桁ズレると、銀河が形成されません。

このように、我々の宇宙が生命の発生しえる条件を満たすためには、多数の定数が究めて狭い範囲で定まっていなければなりません。

多数の定数が関係しますし、定数の決まり方も不明なので、その確率を計算することはできませんが、「限りなくゼロに近い」ことは間違いないでしょう。

インフレーション多宇宙説


この事実を、科学的、合理的に、どう受け止めればよいでしょうか?

「限りなくゼロに近い」確率の事象が偶然起こった、という解釈は合理的ではありません。

神のような高度な知性が設計したとすれば、その知性はどうのようにして生まれたのか、という新たな問いが発生するので、この解釈も科学的ではありません。

唯一の回答は、「多宇宙説」と、一種の「人間原理」を組み合わせた解釈でしょう。

現在の宇宙誕生に関する定説では、宇宙誕生初期に真空エネルギーによって光速をはるかに超える速度での指数関数的な空間のインフレーションが起こりました。
そして、それが終わった後に、熱エネルギーによるビッグバンに移行しました。

このインフレーション宇宙論には様々なヴァージョンがありますが、その中の有力な説の一つは、アンドレイ・リンデらによるものです。

この説では、全体としてのインフレーションは終わらずに永久に続きます。
ですが、宇宙内の各部でインフレーションが終わって、そこに次々と個別の宇宙が形成されます。

つまり、インフレーションしている宇宙のあちこちで、量子的ゆらぎによって、空間のポテンシャル・エネルギーが落下し、インフレーションが終了(ビッグバーンへの移行)する空間が生まれます。
この領域は泡宇宙(ポケット宇宙)と呼ばれます。

それぞれの泡宇宙同士は、光速以上のスピードで遠ざかっています。
また、それぞれの泡宇宙は外からみれば有限ですが、内から見ると無限となります。
個々の泡宇宙の中においても、観測可能な領域はその一部となります。

インフレーションは永久に継続するので、無限に泡宇宙が生まれます。
現時点での泡宇宙の数は、無限であるか、限りなく無限に近いと考えられます。

そして、それぞれの泡宇宙は、空間のポテンシャル・エネルギーが異なれば、物理定数も異なります。

超弦理論によれば、この違いは、余剰次元(6次元空間)が折りたたまれる時の幾何学的構造の違いであり、これには10の500乗通りの種類が考えられます。

無限個の宇宙が存在しえるなら、10の500乗通り定数の組み合わせを持つ宇宙がすべて存在しえることになります。

であれば、その中に、生命が発生しえる条件を備えた宇宙は存在しえます。

つまり、無限個の宇宙が存在すれば、そして、物理的に可能であれば、どんな確率の少ない出来事も、どこかの宇宙で起こります。
そして、我々の宇宙は、その生命が発生しえる条件を備えた宇宙に当たるのです。


人間原理


ただ、我々の宇宙に限定すれば、これが生命が発生しえる条件を備えている確率は、やはり、「限りなくゼロに近い」確率であることは変わりません。

ですが、そもそも、意識を持つ知的生命が存在する宇宙でなければ、このような疑問も生まれません。
つまり、我々が存在しているとということは、最初から生命の発生の条件を備えた宇宙にいることが前提になっているので、その確率が小さいからおかしい、という考え方を持つことがおかしいのです。

この考え方は、「人間原理」的です。

「人間原理」というのは、簡単に言えば、「物理法則は生命や意識の存在を可能にするようにできている」といった考え方ですが、様々なヴァリエーションがあります。

神のような高度な知性が人間が存在しえるように設計したというような考え方や、物理法則は生命や意識の発生にとって理想的にできているというような考え方もあります。
これらは科学的ではありません。

ですが、現実に、人間のような知的意識を持つ生命が存在するのだから、物理法則がそれを可能とするようにできているという事実は、否定しようがありません。

この「多宇宙説」と「人間原理」を組み合わせる解釈は、この宇宙が生命の発生しえる条件を備えていることを、科学的、合理的に解釈する唯一の方法ではないでしょうか。

この解釈を空論のように感じる人も多いと思いますが、レオナルド・サスキンドを含め、当代の優秀な物理学者の多くがこれを主張しています。
サスキンドは、当時の彼の在籍するスタンフォード大学の理論物理学者の全員が同意見であると書いています。


ノイマン型自己複製機械としての生物


次は、生物(生命)の発生する確率について考えますが、その前に生物の定義について考えましょう。

生物の定義には定説はなく、学者によって様々です。

また、地球の最初の生物、あるいは、最初の共通祖先がどのような生物であったかに関しても定説はありません。
現存のDNA型生物以外にも、RNA型生物、核酸としての遺伝子を持たない代謝型生物などの諸説があります。
地球の生命の誕生の場に関しても定説はなく、深海の熱水活動域、陸地温泉付近、あるいは、地球外などが候補とされています。

ただ、一般的には、生物は、膜を持ち、代謝機能を持ち、複製し、進化することが特徴とされます。

ですが、ここではネオ・ダーウィニズムを批判する中川豪が『生命の謎』で書いている定義を紹介します。
これは生物学者の発想にない論理的構造定義であり、現存生物の本質を捉えていて、本稿のテーマの観点からも興味深いと思えるからです。

彼によれば、生物とは、DNAとタンパク質で実現された「ノイマン型自己複製機械」です。
以下、この書を参考に、説明します。

ジョン・フォン・ノイマンは、ワトソン-クリックがDNAの分子構造を発見する前に、コンピュータ上(セルオートマトンの仮想空間上のモデル)で自己複製機械を考えました。
これによって、彼は、生物の自己複製システムの論理的構造を初めて解明しました。

ノイマンの考えた自己複製機械は、以下の4つの要素から構成されます。

A:設計図に基づく万能組み立て機械
B:設計図を複製する機械
C:A、Bを制御する機械
D:A、B、Cの設計図

現在の生命は、この4つの要素が、以下のものから構成されます。

A=RNAとタンパク質(リボゾームを中心とするタンパク質合成系)
B=DNAポリメラーゼを中心とするDNA複製系
C=細胞分裂を制御する様々なタンパク質
D=DNA

重要なのは、「ノイマン型自己複製機械」における複製は、鋳型に基づくものではなく、設計図に基づくものだという点です。

設計図からの本体の組み立てには、遺伝コードに基づく情報処理が伴います。
これは物理化学法則によるものではなく、任意に決められたものであり、この情報は意味や機能を持ちます。

これは、物理・化学法則による規則的な自己組織化とは異なりますし、情報処理を伴わない鋳型による自己複製とも異なります。

ですから、現存する生物が生まれる仕組みや確率は、単純な自己組織化や鋳型による自己複製が生まれる仕組みや確率とは異なります。

生物の誕生について考察している生物学者の多くは、この違いを理解しているとは言えません。

例えば、自己組織化に関しては、「カオスの縁」や「散逸構造」といったアイディアが出されていますが、それらだけでは「ノイマン型自己複製機械」のような情報処理システムを持った生物を生み出せません。


さらに考えておかなければいけないのは、実際の生物は、「ノイマン型自己複製機械」であるだけではなく、材料の調達、エネルギーの利用、修復、問題解決も行うスーパー機械であるということです。

生命が発生する確率


現在の生物学の定説では、生物は偶然に生まれ、偶然の突然変異と、競争環境による必然性のある自然選択によって進化したと考えています。

ですが、生命発生のプロセスや仕組みについても、生物進化のプロセスや仕組みについても、控えめに言っても十分には解明されているとは言えません。
それどころか、私は、ほとんど解明されていないと思っています。

生命の発生の確率については、ほとんどありえない偶然によるものと考える人もいれば、条件さえ整えばかなり必然的であったろうと考える人もいます。
ですが、後者の考え方をしている人で、その具体的な仕組みを語った人はいないと思います。

生命発生までの化学的なプロセスは「化学進化」と呼ばれます。

『利己的な遺伝子』や『盲目の時計職人』で有名なリチャード・ドーキンスは、化学進化にも「自然選択」が働くという極端な考え方をしていますが、現実的で具体的なその仕組みは説明されているとは思えません。

将来、化学進化による生物誕生の仕組みが見つかる可能性もありますが、そういったものは存在しないかもしれません。

現在、分かっている範囲で考えるかぎりは、以下で説明するように、生物は「限りなくゼロに近い」確率の偶然で生まれたと考えるしかありません。


現在の生物は、すべて核酸のDNAを遺伝情報とし、それを核酸のRNAやタンパク質の酵素を使って複製しています。
(DNAを持たず自己複製できないウィルスなどを生物とみなさないとして。)

生物は、数万種類のタンパク質を利用していますが、タンパク質は20種類のアミノ酸が数百ほどの結合したものです。
タンパク質が自然にできる仕組みは見つかっていませんし、人工的にも合成されておらず、偶然の結合でできる可能性は「限りなくゼロに近い」のです。

核酸(DNAとRNA)は、多数のヌクレオチドが結合したものです。
核酸も自然にできる仕組みは見つかっていませんし、人工的にも合成されておらず、偶然の結合でできる可能性は「限りなくゼロに近い」のです。
ヌクレオチドの構成要素である糖、塩基、リン酸すら十分にはできません。
特に、DNAの材料となるデオキシリボースは生成しにくく、自然にできることは考えられていません。

また、現在の生物が自己複製を行うDNA・タンパク質系は、全体が揃っていて機能するシステムであり、これが段階的に生まれる仕組みは見つかっていません。

そして、現在の生物はすべて細胞を単位としていますが、細胞は、DNA・タンパク質系以外にも、代謝系、膜系から構成され、全体が揃っていて機能するシステムであり、これが段階的に進化して生まれる仕組みは見つかっていません。

このように、細胞を持ち、情報処理と自己複製を行う生物が偶然に生まれる確率は、「限りなくゼロに近い」ものとなります。


確率の試算


その確率を計算した例を2つ紹介します。

1981年に、天文学者のフレッド・ホイルは、一つの恒星系で、単純な単細胞生物に必要な酵素が全て作られる確率は10の40000乗分の1と計算し、それが偶然に起こると考えることはナンセンスであると発表しました。

彼は、これを「廃材置き場の上を竜巻が通過した後で、ボーイング747ジェット機が出来上がっているのと同じような確率」と表現しました。

我々の観測可能宇宙の中の恒星の数は10の22乗個なので、この中で生命が発生する確率は、「限りなくゼロに近い」ものとなります。


次の計算は、「RNAワールド仮説」に基づくものです。

現在の生物は、遺伝情報はDNAが担い、組立にはタンパク質の酵素が必要ですが、その酵素はDNAから作られます。
このDNAと酵素が相互前提する複雑なシステムがいかに作られたか不明です。

ですが、RNAは一つでその2つの機能を持つため、最初の生命はRNAから始まったとするのが「RNAワールド仮説」です。

一昨年、天文学者の戸谷友則がRNA型生命が誕生する確率を計算しました。
彼の計算によれば、一つの恒星系で、ヌクレオチドがランダムに結合し、生命誕生に必要な長さ(40単位)の情報配列を持つRNAが偶然に生成される確率は10の39乗分の1となります。
ホイルの計算した確率に比べると、極めて桁違いに大きな確率です。

ですが、先に書いたように、観測可能宇宙の中の恒星の数は10の22乗個なので、この中で生命が発生する確率は「きわめてゼロに近い」ものとなります。

ところが、戸谷は、観測可能な範囲外のこの宇宙全体には10の178乗個の恒星があるという可能性があると想定して、これを含めると、生命が発生しえると考えます。
ちなみに、彼はインフレーション説を前提にしていますが、多数の泡宇宙は考えていません。

ですが、戸谷が考えたのは、あくまでもRNA生命の発生確率であり、それがDNA生命に進化する確率を考えていません。

「RNAワールド仮説」には、触媒活性が低い、複製ミスが多い、RNAの短いものほど早く複製されるので自然選択が働かないといった問題があります。

また、RNAによる生物から斬新的・段階的な進化でDNA型の「ノイマン型自己複製機械」としての生物は生まれないでしょう。

ですから、未知の仕組みが見つからない限り、RNA生物からDNA生物が誕生する確率は、「限りなくゼロに近い」でしょう。

とすれば、我々の宇宙全体で生命が発生する確率も、「限りなくゼロに近い」ものとなるでしょう。


ですが、先に書いたような、「多宇宙説×人間原理」で解釈することも可能です。
つまり、「確率が限りなくゼロに近い」としても、無限の泡宇宙が存在するなら、どこかで必ず生命が発生するはずだし、それが我々のいる宇宙、惑星でも不思議はないと。

先に書いたように、この宇宙が生命の発生する物理的条件を備えていることに関しては、物理学者はその未知の仕組みが見つかる可能性がありそうには思えませんでした。
そのため、「多宇宙説×人間原理」の解釈が複数の学者から主張されました。

ですが、生物の誕生に関しては、多くの生物学者は、その未知の仕組みが見つかるという可能性を楽観的に信じています。
これは、科学者として、他に選択肢がないと思っているからでしょう。
生物学者は、多宇宙説を真剣に考えたことがないでしょうし、そもそも物理学者のように常識を超えた発想に親しんでいません。

知的生物に進化する確率


では、人間のような知性と意識を持つ生物への進化が起こる確率はどうでしょう。

定説となっている進化論(ネオ・ダーウィニズム)では、進化は遺伝子の偶然の突然変異と自然選択によって起こります。

ですが、ダーウィンは次のように語っています。

「どんなものであれ、多数の継続的な軽微備な変化によっては生まれ得ない複雑な器官の存在が証明されうるならが、私の学説は絶対的に成り立たなくなってしまうであろう。」

つまり、ダーウィニズムでは、進化は少しずつの斬新的な変化の蓄積で起こるものです。
これは、鼻が徐々に伸びていくといった単純な小進化は説明できますが、突然に複雑で大きな変化が生まれる大進化は説明できません。

つまり、相互に関係した構成要素からなる、複雑な器官や行動様式の発生は、斬新的な蓄積では説明できないことを、ダーウィン自身が認めています。

実際、生物の分類体系の上位のカテゴリーの誕生に関わるような大進化は、化石からも、突如として、移行形態なく現れます。
短期では、偶然による斬新的な進化が起こり得ません。

生物の誕生の場合と同様、多くの生物学者は、大進化の未知の仕組みが見つかるという可能性を楽観的に信じています。
これも、科学者として、他に選択肢がないと思っているからでしょう。

中立説(遺伝子浮遊)、DNAの水平移動、小集団による進化、競争種の滅亡後の競争の存在しない環境での進化、外適応(器官が進化の途中で別の機能を獲得する)など、いくつかのアイディアが出されていますが、個々の具体的な大進化の仕組みは説明されていません。

現在、分かっている範囲で考える限り、相互依存的な構成要素を持つ複雑な器官や行動様式を持つ進化は、どれもが「限りなくゼロに近い」確率でしか起こりません。

ですから、知性や意識を持つ生物進化が起こる確率は、その計算は困難ですが、現在、分かっている範囲で考えると、「限りなくゼロに近い」ことは間違いないでしょう。

ですが、「限りなくゼロに近い」としても、ゼロではないので、これも「多宇宙説×人間原理」では解釈できることにはなります。


・参考

『宇宙のランドスケープ』レオナルド・サスキンド
『パラレルワールド』ミチオ・カク
『隠れていた宇宙』ブライアン・グリーン
『生命の謎』中川豪



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?