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神秘主義

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主に自分の書いたブログから転載、編集した文章ですが、NOTEオリジナルな文章もあります。
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神秘主義とは

「神秘主義思想史」に書いた記事を転載します。 最初に、「神秘主義」とはどういうものなのか、簡単に説明しておきましょう。 人間の意識や世界にはいくつもの層(階層性)があるというのが、基本的な考え方です。 意識と世界の層は対応していて、意識が深い層(高い層)に入るに従って、それに対応した世界が見えてきます。 そして、表面的な層(低い層)の心や存在は、より深い層(高い層)が原因になって作られていると考えます。 つまり、日常意識や日常世界とは別の次元に、より本質的な価値創造性が

光の神秘主義2:インド、エジプト、プラトン主義、ユダヤ・キリスト教

前編「光の神秘主義1:有史以前、イラン」に続く後編です。 当稿では、ヒンドゥー教、仏教(密教)、古代とヘレニズム期のエジプト、プラトン主義、キリスト教のギリシャ正教のヘシュカズム、ユダヤ教神秘主義のカバラ、西洋魔術の黄金の夜明け団などの、「光の神秘主義」についてまとめます。 古代インド、ヒンドゥー教 古代インドの「ヴェーダ」の奥義書「ウパニシャッド」の哲人、ヤージニャヴァルキヤは、ブラフマン=アートマン=光、と主張しています。 そして、太陽の光が5色の微粒子として、ア

光の神秘主義1:有史以前とイラン

前回の投稿は、神秘主義的な神話における「鏡像」に関するテーマでしたが、その中で、意識の根源的な動きとしての「光」のヴィジョンについて触れました。 それで、今回は、「光の神秘主義」に関して書いてみたくなりました。 「光の神秘主義」というのは、至高神や根源神を、あるいは、意識の根源や極限を、無限の光、流出する光などとして体験するような神秘主義思想です。 その体験を哲学化したものは「光の形而上学」と呼ばれることもあります。 当稿は、古今東西の「光の神秘主義」の歴史というか、全体

グノーシス主義神話の2段階の鏡像の比喩

「ヨハネのアポクリュフォン」で述べられる神話に、2段階の「鏡像(似像)」の比喩が語られます。 この文献は、ナグ・ハマディ文書に含まれる、セツ派のグノーシス主義の文献です。 中沢新一は、その1段階目について、ラカンの鏡像段階を表現するものと解釈しています。 ですが、私は、これは間違いで、鏡像段階と結びつけることができるのは、2段階目だと思います。 本稿はこのことについて書きます。 その際、ヘルメス文書「ポイマンドレース」における2段階の「鏡像」の神話や、仏教やゾクチェンにお

象徴の3つのレベル、体系と実践

前稿の中で、象徴の3つ種類について、短く私論を書きました。 本稿では、これについて、神秘主義思想や密教の、実践や理論・体系を、例をあげながら考えてみます。 本投稿では、3つの象徴レベルを、1)表象的象徴、2)秘儀的象徴、3)合一的象徴と呼びかえます。 かなり長めの投稿になりました。 3つの象徴レベル まず、前稿では、以下のようなことを書きました。 「象徴」というこの言葉は、分野によって、人によって、様々な意味で使われます。 「象徴」は、言語が持つ比喩の働きから生まれ

神秘主義哲学の階層論

「神秘主義思想史」に書いた文章を転載します。 神秘主義思想にとって、存在や意識の「階層」は、基本となるテーマです。 古今東西の神秘主義哲学の階層に関する思想を大雑把に紹介しつつ、大胆に解釈します。 形相的な階層論 ギリシャ哲学を代表するプラトン、アリストテレスらの階層論の特徴は、「形相性(形・本質)」を基準にすることです。 それは、現代人から見れば、人間に至る進化論的な階層とも一致し、また、人間の成長(個体発生)の階層とも一致します。 プラトンがピタゴラス主義から

3つのレベルの意識と瞑想

意識の3つのレベルという観点から、それぞれのレベルの意識を変えるプロセス、方法についてまとめます。 具体的な部分では、仏教、人智学、プロセス指向心理学の理論と実践について触れます。 意識の三つのレベル この稿では、意識に「合理的意識」、「夢的意識」、「直観意識」という3つのレベルがあるという図式で考えます。 この3つのレベルの意識の大まかな特徴は、思考の観点からは、「論理的/連想的/直観(直感)的」です。 それぞれの意識で使用されている重要な要素は、「概念的言語/象

インドと中国の霊的身体論の比較

インドのタントラ(ヒンドゥー・タントラ、後期密教)には、霊的身体論と、それに基づく瞑想法(ハタ・ヨガ、究竟次第)があります。 プラーナ、ナーディー、チャクラなどを含む霊的身体論と、クンダリニー・ヨガやピンダグラーハなどの行法です。 一方、中国の道教の仙道にも、それに似たものがあります。 気、経絡、丹田などを含む気の身体論と、周天法などの内丹法の行法です。 両者の間の共通点と相違点を簡単にまとめて、見てみましょう。 プラーナ/気の階層 インドでも中国でも、物質より微

神秘主義的思想の宇宙論における創造・進化・帰還

「神秘主義思想史」に書いた記事を少し編集して転載します。 神秘主義的な思想は、宇宙の「創造」と「進化」、原初の神的存在への「帰一」を、様々な宇宙論的時間(宇宙の始まりから終わりまで)モデルとして語ってきました。 このプロセスは、「下降」と「上昇」、あるいは、「流出」と「帰還」、「内化」と「進化」など、様々な表現で語られてきました。 また、このプロセスは、一回限りとされる場合もあれば、周期的に繰り返す場合もあり、また、入れ子状の構造になっている場合もあります。 そして、

象徴体系のシステム比較

「象徴」は非常に抽象的で未知の何ものか、言葉にできない力のようなものを指し示し、それを意識の中に働かせることができます。 それは自然の諸力と意識・無意識の諸作用の両方を同時に指し示し、動かします。 伝統文化や神秘主義思想は、宇宙の構造を「象徴体系」という形で捉えることが多くあります。 概念による論理的な記述ではなく、神話のような神格的存在の物語でもなく、象徴間の直接的な関係性のみで示すのです。 象徴体系は、宇宙の原型でもあり、パンテオンでもあり、暦や方位を現わすためにも使

プロティノス(新プラトン主義)の神秘主義哲学

「神秘主義思想史」に書いた2つの文章をまとめて編集しました。 プロティノスの哲学は、オリエント・ヨーロッパの神秘主義哲学の原型となりました。 彼の哲学が、イスラム哲学、キリスト教神学、ルネサンス思想、神智学、人智学などに与えた影響は絶大です。 新プラトン主義の代表的な哲学者であるプロティノス(205年頃-270年頃)は、エジプトに生まれ、アレキサンドリアでアンモニオスの弟子となりました。 彼は、ペルシャ、インドには行くことはかないませんでしたが、オリエントの様々な神秘

井筒俊彦の東洋哲学

「神秘主義思想史」に書いた文章を転載します。 井筒俊彦は、近代日本の最大の思想家であり、世界で最も有名な日本の哲学者の一人であり、現代的な意味で、プロティノス、イブン・アラビーらを継承する神秘哲学者であると言っても過言ではありません。 一般に、井筒は、イスラム哲学の専門家として知られていますが、彼は、言語哲学者として、「意味」が消滅し、「意味」が生まれる深層意識における神秘体験を焦点にして、哲学、宗教、言語学、詩学、文学、文化人類学などの領域を越えた研究を行いました。

グノーシス主義の思想と神話

「神秘主義思想史」に書いた文章を転載します。 ローマ時代には、アレキサンドリアやエルサレムをはじめとして、多くの都市、民族がローマに従属したこともあって、反ローマ的、反体制的な神秘主義思想であるグノーシス主義が生まれました。 このページでは、グノーシス主義の思想、神話などの特徴を総論としてまとめます。 グノーシス派の思想・神話は多様ですので、あくまでも、典型的と思える例を中心にします。 個々の詳細に関しては、別ページをご参照ください。 グノーシス主義の反宇宙論と三層

ヘルメス主義とその復活

「神秘主義思想史」に書いた文書のいくつかをまとめ編集して掲載します。 ヘルメス主義とは ヘレニズム~ローマ期の地中海世界最大の文化都市だったエジプトのアレキサンドリアでは、ヘルメス・トリスメギストス(ギリシャとエジプトの言葉と学問の神が習合したヘルメス=トート神)による啓示という形で、『ヘルメス文書』と総称される多数の書が書かれました。 「ヘルメス選集」の「ポイマンドレース」や、「アスクレピオス」などが代表書で、ナグ・ハマディ文書の一部も含みます。 ヘルメス文書の多くは