「月に笑う」木原音瀬 上巻

「灰の月」の前日譚ですが、私はこちらを後に読みました。
主人公の路彦が、長尾健太という同級生からイジメられている話から始まるのですが、この健太というのがすっごいクズで最低で最高です。

健太君、関東連合の見立真一が中学生の頃に似ている気がします。見立に会った事無いけど。
見立もまた、中学生の頃に金持ちの家の息子をカツアゲしてたんですよね。
そして妙に陰湿な所がまた、似てる気がするなあ。

健太は表立った不良少年ではありません。表の顔は教師・生徒の人望厚く、運動も勉強もそつなくこなす、そこそこの優等生。こういう所がまた、中学時代の見立に似ている。

健太のカツアゲ方法がこれまた独特で、300円を奢った後6千円要求します。

お前は高利貸し屋かww?!

高利貸しはあらかじめ負債者に、倍の金額取る事を提示しているのだから、まだ良心的とすら思えるこの行動。

健太君には素質がある。彼は立派な半グレになれるだろう。

まさか、この健太君と路彦君がどうにかなるって設定か?!主人公カップルの片方がこうもクズいBLって珍しいな!

健太に6千円要求された路彦ですが、カツアゲされ過ぎて、もうお金がありません。路彦の家は金持ちですが、彼はドラ息子ではないので、際限無く小遣いを与えられるわけではないのです。
なので正直にそう言いました。それでボコボコにされてたんですが、通りがかりのちょっと年上の兄ちゃんが助けてくれました。彼の名は信二。

この信二と路彦がどうにかなるみたいです。
そりゃそうですよね…いくら何でも、健太は無いかー。ちょっと残念。
木原先生、健太のスピンオフをお願いします!お願いします!

18歳の信二は高校中退の中卒で、暴力団組員。もちろん下っ端の使い走り。
暴力団というのは一次団体、二次団体という風にピラミッド型の上下関係となっております。信二の所属する組織は最底辺で、おまけにテキ屋しかシノギが無い。
信二の主な仕事は商品の仕入れやタコ焼き焼いたりする事で、つまり暴力団組員にもかかわらず、犯罪で金稼いだ事が無い様子。
カタギの健太君は中坊にして恐喝で稼いでいるのに…
当然、信二は金回りも悪そう。おまけに同居している兄貴分からは、しょっちゅうDVされています。
建設業界とかで働いた方が、まだかなり待遇良いんじゃないかな…と思うんですが、子供の頃に唯一真剣に話を聞いてくれたのがそこの組長だけだったそうで、その恩義からこの組織にしがみついているそうです。

なんか、この時点で信二が裏社会に向いてない気がしてくる。
彼は裏社会なんかに来たら、良いように利用されてぼろ雑巾のように捨てられるタイプですよ、きっと。

そんな裏社会に不向きな信二ですから、路彦と住む世界が違うにもかかわらず意気投合。
ファーストフード店に入ったり、缶ジュースを飲みながら雑談したりと距離を縮め、仲良くなっていきます。
他の友人も一緒に花火やったり、海行ったり、バイトしたり…青春だなあ。
BLでもありますが、ブラザーフッドでもありブロマンスとも言える二人の関係がとても良い。

大塚ひかり「ヤバいBL日本史」でBLのキモは妄想力と述べられているのですが、今作のブラザーフッドであったりブロマンスであったり性愛を明確にしていない曖昧な所には、それがあるような気がしました。

信二の所属する組がとうとう潰れました。これを期に、彼はカタギになった方が良いんじゃないかな。幸い組員の仕事と言えば、テキ屋ぐらいしかやってないし…彼は裏社会に向いてないよね。人が良すぎるし、けっこうナイーブですから。

しかし自分を客観視できない信二は暴力団として生きる道を選び、組長に紹介してもらった東京の大手組織に移る事にします。
紹介先はおそらく2次団体とされる本橋組、「灰の月」の主人公である惣一が組長の組織ですね。この頃の惣一は未だ猿山の大将でした。
そして早乙女、やっぱり薬で頭をやられてたんだな。


暴力団組員とはいえ、これまではテキ屋しかやってこなかった信二でしたが、上京してからは美人局をやるようになっていました。しかしその一方で、犯罪で金を稼ぐ本橋組の在り方に戸惑いを感じる事も。

そして東京の大学に進学した路彦と、恋人なのか友達なのか分からない曖昧な関係を続けている。こういう事をわざわざ考えてこだわる辺りが、信二はナイーブですね。
というか信二の設定って「地元最高!」なのに、犯罪で金稼いだ事無いのすごいね。暴力団とか嘘でしょ、ってくらい純朴少年だ。
テキ屋を生業とする暴力団て確かに居るわけですが、やはり貧乏を余儀なくされるので若い人が居着くというのはなかなか無いでしょう。


治安の良い田舎だったのかな。なんせ地元の暴力団が、テキ屋ぐらいしかシノギ持ってないからね。かといって、半グレもいなさそうだし。健太君は既に立派な半グレだと思いますが…













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