山女(映画)

民俗学的な話の中でも、遠野物語の舞台でもある寒村、人身御供、村八分、間引きといったとくに私の好きな部類がピンポイントで出ていた映画。

加えて幻想的な映像や音楽が不気味な諸設定に合っている。

しかし、不気味な設定のわりに見ていて暗い気持ちにならない。というのも、主人公の凛が山女となるまでがけっこう早く、テンポが良い。

これがダラダラと、凛一家が虐げられる映像が無駄に垂れ流しという作りであったら「感動ポルノかよ」とうんざりしたと思うが。
結末も痛快で解放感がある。

主人公の凛は、先代が盗みの罪を犯した事から、村中から蔑まれる家に産まれた娘。
彼女の一家は田畑を没収され、死者や間引かれた赤子の埋葬といった汚れ仕事とされるものを担当し、日銭を得ている。
家族仲は別に悪くないのだが、都合の悪い人間を切り捨てる程度に絆は浅い。まあ、それだけいっぱいいっぱいな一家という事なのだけれど。

そして挙句の果て、凛は村を助けるためという名目で人身御供に選ばれてしまう。

立場の弱い者の犠牲の上に、自分たちの生活上の便利さを追求する姿というのは、現代にも通じる姿だと思います。
外国人技能実習制度とか、分かり易い例ですよね。

しかしこの映画は、踏みにじられ利用され「可哀そうね」という話にはならない。
凛が度々語っていた山の女神様、盗人の女神によって彼女は救われる。

恐れおののく村人たち、姉を探す弟を振り返りもせず、凛は山へ帰っていった。
村も家族も捨て、彼女はアウトサイダーとして生きる道を選んだ。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?