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婚約指輪をめぐる攻防

婚約指輪は、条件を決めて夫と私2人で選んだ。それが夫の希望でもあったし、私の希望でもあった。

そりゃあ、「私は何も知らない状態で、彼が突然ひざをついて箱をパカっとしたら、まさに欲しかった理想の指輪が出てきた」というのが最高だけど、こだわりの強いマキシマリストにそれは起こり得ない。「サプライズ」と「理想の指輪」、どちらも欲しいというのは無理である。


ここで自分の頭の中だけで作り上げてきた理想を押し付けても、相手にとっては「いや知らんがな」だろう。大切な人との関係がこじれること間違いなしなので、希望条件がある場合はそれとなくではなく、はっきりと希望を伝えることが重要だ。

ということで、箱パカへの憧れは早々に捨て、私は彼に共有する自分の希望条件を決めた。それがこちら。

「ノーブランド、ファンシーシェイプ(ラウンドブリリアントカット以外)、大きめカラット(出来れば0.5ct以上)」

こだわりポイントを解説しよう。

ノーブランド…ブランド名に興味なし。ブランド料にお金を払いたくない。
ファンシーシェイプ…丸より四角の方が好き。エメラルドカットやクッションシェイプあたりが良い。
大きめカラット…単純に大きい石が好み。よく「大きさ VS 質」みたいな論争をみるが、ダイヤの質を表す4Cに「カラット」が含まれていることからも分かるように、大きさ込みで質だと考えるのでカラットも重要。

この理想通りの指輪を買いに行った話の前に、私と夫の間に「理想の婚約指輪」についての共通認識が形成されるまでの話をしよう。これこそが、婚約指輪選びで最も重要なプロセスだからだ。

当時、私たちはお金がなかった。ふたりとも社会人を一旦やめて海外大学院に留学し、それから帰ってきてまた働き始めたタイミングだった。社会人時代に少しは潤っていた銀行口座は、海外留学という超強火の火炎放射によって一面焼け野原、瀕死の口座を蘇生しようと二人ともせっせと働いている段階だったのだ。

お金はなかったが、それでも彼は婚約指輪を買うものだと考えていたし、私ももらいたいと思っていた。それは周囲の影響が大きい。両親はもちろんのこと、特にアラサーともなると彼の友人たちがプロポーズするようになり、どこでどういうものを買ったという話をしていたようなのだ。

さて、この「男同士で情報交換」というのが厄介だった。彼がここで仕入れてきた情報によると、友人たちが選んでいるのは、

「ティファニーなどの海外ブランド、0.4ct、60万円程度」

ということが判明した。前述の通り、これは私の希望条件とは相反するものである。しかし、彼にとってほぼ唯一の婚約指輪に関する情報源がここなのだ。このままいくと当然、彼の友人たちを参考に、似たようなスペックの指輪を買ってきてしまう可能性が高いと不安になった。

そして「あ、このままだと希望の指輪にならないな」と決定打となったのが、アメリカ・ワシントンDCにあるスミソニアン博物館での出来事である。

スミソニアン博物館は、45カラットのブルーダイヤであり、呪われたダイヤとしても有名な「ホープダイヤモンド」が展示されている博物館である。ここに私は彼と二人で訪れていた。ホープダイヤモンドの他にもたくさんの鉱物や宝石を展示していて、その内のひとつに0.1カラットから徐々に大きくなっていくダイアモンドスケールあった。

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↑こういうやつ。(出典:With Clarity)

そのスケールを二人で並んで見ていると、隣で彼がこういった。

「やっぱり0.4カラットくらいが一番かわいいね」

反射的に私はこう答えた。

「いや、ダイヤに可愛さは求めない」

多少気まずい間が流れる。しかしこの機を逃がすまいと、私は畳みかけるように彼に伝えた。ダイヤに求めるのは可愛さではなく「美しさと崇高さ」であること、希望のダイヤの形や大きさがあること。私たちはその頃すでに結婚の話をしていたので、婚約指輪について話すことも問題なく、はっきりと要望を伝えても問題ない関係性だった。ここで婚約指輪について話す機会が設けられたことで、彼からも「買う時は一緒に選びたい」という希望が聞けた。

ここで冒頭に繋がるわけだが、こうしたやりとりを乗り越えて、私にも彼にも「婚約指輪は一緒に選ぶ」という認識が形成されたのだ

晴れて共通認識を持つことが出来た私たちは、理想の指輪を求めて、東京の宝石問屋街である御徒町へと向かった。御徒町には、高級ブランド店で扱っていないような多種多様なダイヤモンドを扱っている(もちろん色石もたくさんある)。欲しいものが分からず訪れると、何を買ったらよいか分からないまま彷徨い続ける羽目になる魔境だが、私たちのように求める条件がはっきりしている人にとっては豊富な在庫から選べる夢の国である。

私たちは宝飾店を何軒か周り、希望条件に合致するダイヤを見せてもらった。何軒目かに入ったお店で見せてもらったダイヤを見た瞬間、隣で夫が小さく「おっ」と呟いた。それは今までダイヤを見せてもらった時とは、明らかに違う反応だった。ダイヤよりも先に夫の反応を見て、俄然興味を惹かれた私も、夫に続いてそのダイヤを眺めてみた。

それは一目見ただけで深く吸い込まれるそうになるほど、澄んだ氷面もしくは鏡のような透明感がある美しいダイヤだった。一般的なラウンドブリリアントカットのようにギラギラ輝くわけではなく、光を湛えたような静謐な美しさをもっていた。これで決まりだ、と思った。そのダイヤ自体を気に入ったのはもちろんだが、私としては何より「夫も気に入っている」というのが存外大事だった。これは自分でも意外なポイントだったが、これだけ好きなものがはっきりしていて自己主張の強い私でも、婚約指輪という一世一代のギフト選択の際には、「センチメンタル」要素というのも大きな部分を占めることを学んだ。

こうして自分も夫も納得のいく婚約指輪を手に入れたわけだが、婚約指輪はもらってから結婚した今に至るまで、ほぼ毎日つけている。外出する際はどこであろうとかならず、そして家の中でも結構つけている。

日本人は「婚約指輪をもらっても、結婚後したらほぼつけない」らしい。確かに周囲を見渡しても、婚約指輪を日常的につけている女性はほぼ見たことがない。「特別な機会に取っておきたい」、「日常生活を送るのに邪魔」等、各人の理由があるだろう。それでも私はつける。なぜなら大好きだから。毎日テンションが上がるから。夫も嬉しそうだから。

ちなみに私は自分の婚約指輪が大好きだが、友人や他者の婚約指輪を見るのも好きだ。十人十色でその人の個性が出るし、それを選ぶまでのストーリーを聞くのも楽しい。アラサーも佳境に入り周囲の結婚ラッシュも落ちついてきたため、最近は周囲で婚約指輪お披露目がめっきり減った。これを読んで引き出しに大事にしまわれた婚約指輪を思い出したそこのあなた、次の休みにはぜひそれを着けてお出かけしてください。それをつけて電車に乗った時、つり革を掴んだあなたの左手を横目に眺める女がいたら、それはおそらく私です。

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・愛用歴:5年

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