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おかわり

「どうして俺がお前を守り続けていたかってそんなのだってお前あんなに死にやすいんじゃ脆すぎて使い物にならないからに決まってんだろお前」
 僕の目の前には巨大な、僕の背丈よりもずっと大きな真っ黒い芋虫がいて、芋虫は僕のよく知る声で僕に話しかけてくる。
 芋虫の顔には木の洞みたいな歪な口が開いていて、さっきから、さっきからずっと僕を、その口で食べようとしてくる。
 食べられたくなんかない。だから必死に逃げ回っていたけれど無理だった。芋虫は僕をどこまでも追い続け追い続け追い続け僕は逃げ続けている内に階段を転げ落ち、おそらくは足を骨折してしまったらしい、ズキンズキンと激しい痛みで、動けない。
「僕……を……食べるん……ですか……」
「だからそう言ってるだろうがお前、お前さ、変わんねえよな馬鹿なところ俺なんかを信じちゃう馬鹿なところがさ本当お前のそういうところ」
 そういうところが、俺には、足らなかったんだ。
 と、言って。芋虫は、僕を、ばくりと食べた。
 芋虫の中は、真っ暗で、何も……何も……何も見えない……。
 ただ、ただ、息苦しさだけが、僕をじわじわと押し潰していく。
 くるしい。
 くる
   し

 く



 ひとりの男が食われ、後にはただ芋虫だけが残った。
 ひとりの男を丸呑みした芋虫はそれでもまだ腹が減ってしかたがない。足りない。まだ足りない。芋虫はのそのそと動き出す。もっと食べたい。もっと欲しい。ご飯がもっとね欲しいんだママおれねぇもっといっぱい食べるよだからママ、ママ。
 おかわりちょうだい。
 おかわり、おかわりどこかな。ご飯どこかな。
 芋虫は巨大な体でずるずると這い回りながら食べられる物を探す。食べられる者を探している。
 やがて芋虫はあなたを見つける。

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