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図書館

 僕は図書館に通っている。
 とはいっても本当の図書館じゃなくて、僕ん家の近所にある、本がいっぱいある家の事だ。いつでも勝手に入って自由に本を読んでいい、って、そこに住むおばさんに言われている。だからありがたく僕は毎日のように図書館(と呼んでいるその家)で読書をするし、ついでに勉強もする。
 僕は学校が苦手だ。いじめ、ってほどじゃないんだけど、クラスメイトとどうにもうまくいかなくて、教室にいるとだんだんお腹が痛くなるようになってきて、それでまあ不登校っていうか、そんな感じになっている。
 家も苦手だ。僕が学校に通えなくなってから、お母さんはわざわざパートの仕事を辞めて僕の面倒を見るようになった。ただ学校に通えないだけで、風邪の時みたいな看病なんて要らないのに。お母さんは僕を抱きしめながら「大丈夫よ」と囁く。
 それが、本当に、本当に、苦手だ。
 たまに様子を見にくる先生は、「優しいお母さんがいてくれて安心だ」なんて事を言う。確かに優しいと思うし、ニュースで見るような虐待とかのある家庭じゃなくて良かった筈なのに、なんでだろう、お母さんの優しさが僕はやっぱり苦手だ。
 なんか……息苦しくなる。なんでだろう。
 でも、図書館でだけは、楽に呼吸ができる。
 図書館は学校みたく賑やかじゃないし、お母さんもいない。
 僕以外にも、僕みたいな他人とうまくやれない子供が何人か来ているけど、基本皆静かに本を読んでいるだけだし、おばさんもたまにお茶やお菓子を出してくれる以外は僕らをほったらかしにしてくれる。お説教も、優しい言葉も、何もない。
 静かで、落ち着く。
 僕は図書館で本を読む。漫画とか小説とか写真集だとか棚にいろいろ並んでいる中から好きなのを選んで読む。たまに学校から出されているプリントをやったりする。わからない問題があっても、周りの誰かに聞いたりはしない。質問をする事で、この場所の静けさを、壊す事になったら嫌だから。
 ここは静かな図書館。静かに本を読み、静かに呼吸ができる、僕の居場所。

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