おしどり夫婦
おしどり夫婦と評判の二人がいる。
二人は幼馴染であった。幼少期から仲が良く、学生時代に交際し、卒業後少しして結婚した。子供はまだできないが、小さなアパートで二人幸せに暮らしている夫婦である。
おしどり夫婦である。
おしどり夫婦だと他人からは思われている。
愛し合って結婚したのだと思われている。そうではないのに。二人が結婚したのはただ、お互いの性格の為であった。
夫婦は二人とも、他人からのイメージを守りたいタイプなのである。
それはどういう事か。たとえばこういう事だ。
「料理が得意そうだね」と言われたので、ろくにしてもいなかった料理を猛練習する。
「甘い物食べなさそう」と言われたので、それまでよく食べていたケーキを避けるようになる。
「文芸部が似合う感じ」と言われたので、文芸部に入り、そして文芸部に入ったので読書を始める。読む本も自分のイメージに合うものを選ぶ。
「スポーツやってそう」と言われたので、スポーツを始める。野球かバスケかサッカーかそれ以外なのか具体的に指定されなかったのでとりあえずいろいろやってみて、サッカーがたまたま上手くできたのでサッカーを続ける。
「こんなイメージだね」と言われたので、そのイメージに合うように自分を変えていく。
そういう風に二人は生きてきたし、今もそのように生きている。
幼馴染の二人に対し、「仲が良い」というイメージを周囲は持っていた。だから二人は仲が良かった。「いつか付き合うのだろう」と思われていたから、付き合った。「そろそろ結婚か?」と誰かが言ったから……。
二人の人生は、他人のささいな言葉によって作られていく。
それを他人が知れば、きっと否定するだろう。だってその人の人生はその人のものであり、誰かのイメージに合わせる必要なんてある訳がない。誰かのささいな言葉の為に自分を犠牲にしてはいけない。もっと自由に生きるべきなのだ。本当に自分がしたい事をして、生きたいように生きるべきだ。
でも、二人は、もう、とっくに、生きたいように生きている。
他人からのイメージを守りたい。
二人とも、それが心からの願いであり、幸福なのだ。
美味しい物を食べたい、旅行がしたい、ずっと寝ていたい、友達百人つくりたい、一人で生きていきたい。皆それぞれ違った願いを持っている。こんな人生だったら幸福だと。
二人の場合はそれが、他人からのイメージを守る事であった。
自分を犠牲になどしていない。二人は互いに、確かに、自分の幸福の為に生きている。
「おしどり夫婦だよね」と言われるから、二人はおしどり夫婦でいる。
そうしたいから、そうしている。
そんな二人が共通の友人と食事をしている時の事であった。
「そういや知ってる? 最近テレビで見たんだけどさ、おしどり夫婦のおしどりって、本当はころころパートナー変えるんだって」
友人のささいな言葉。
二人は顔を見合わせた。
自分たちはおしどり夫婦として評判だ。
おしどり夫婦なのだから、であるならば、当然おしどりらしく生きなければ……。
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