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第0話 異道にある店

 タカシくんの家の近くに、イドウがひとつあります。
 
 移動? いえ、異道ですよ。
 異道……え? 知りませんか? 知らない事はないでしょう。異世界に通じている道の事ですよ。ほら……暗い夜道とかトンネルとか、歩いている内に気がついたら、自分の住む世界と似ているけれどどこか違う場所……異世界に辿り着いているって事がよくあるでしょう? それで、ほら、そういう異世界に通じる道の内、向こう側に通じたり通じなかったりする不安定な道ではなくて、いつ通っても異世界に行ける、安定した道が特に「異道」と呼ばれ、異世界への出入りに活用されている……という話を……小学校辺りで習いますよね? 習わなかった? ……地域差とか世代の違いとかですかね? 私は確か小学生の時に授業で聞いたと思うんですけれど。
 まあ、でも、貴方も異世界に行った事くらいあるでしょう。その際に貴方がどんな形状の道を通っているかは知りませんが、とにかく道は通っているでしょう?
 ……異世界に行った事がない? 存在も知らない? え、あの、だからその異世界ですよ、普通に、ほら、こっちの世界とすごくよく似ているけれどちょっとだけ違う向こう側の話ですよ。通貨も文化も言語もほとんどが同じだけれど少し違う、ほら、たとえば向こうには魔法があってこっちにはないとか。でもやっぱりほとんどは同じなんですよね、同じ宗教があって、同じ病気があって、同じ料理があって。
 え? 異世界にもコロナとかあるのかって?
 コ……ロナ……あー、わかったわかった太陽のアレですね!? ええ、そうですね、そういう天体もほとんど変わりませんよ。
 ……病気の方のコロナ? 病気の方……。すみません私病気にそこまで詳しいとかではないので、ちょっと風邪とかインフルだとかのメジャーな病名しかわかりませんごめんなさい……。でもこっちにある病気なら向こうにもあると思いますけど多分。コロナカ? いや本当わかりません貴方病気詳しいですね!?
 っていうか、えーと、何の話してましたっけ……。
 
 あっ、そうそう、タカシくんの話ですよ!
 小学生のタカシくん。彼の家の近くには、異道がひとつあります。異道ですから、それは勿論異世界に繋がっている訳ですけども。
 タカシくんは異世界に用事がある訳ではありません。
 でも、タカシくんは異道によく行きます。
 異道自体に用があるのです。
 正確に言えば、異道の途中にあるお店に用があるのです。
 
 タカシくんの家の近くの異道。その入り口は、鳥居です。神社でも何でもない普通の空き地に、何故か鳥居だけがぽつんと立っているのですが……。ええ、その鳥居をくぐると、異道へと繋がっているのです。あ、ちなみにこの鳥居は真ん中を通っても問題ありませんからね。神様がいる訳でもない、ただの空き地ですから。……いない筈ですよ、あんなところに神様なんて……。
 ええ、そう、それで、異道ですね。異道というのは実に様々な形状がありますが、そこの異道はまっすぐな石畳の道です。太さは……まあそうですね、鳥居の幅と同じくらいですよ。
 それでね。そこの異道は、道の両脇に、幾つかお店が並んでいるのですよね。
 タカシくんのお目当ては、その中のひとつ。
 
 月山文庫、という名前の、本屋さんです。
 
 異世界に続く異道の……ちょうど真ん中の辺りですね。その辺りに建っています。
 ちなみに道を挟んだ向かい側には喫茶店が建っていますから、月山文庫で何か本を買って、向かいの店でお茶をしながら読書するのも良いですね。まあ、タカシくんは月山文庫の店内で漫画を立ち読みするか、買って家でごろごろしながら読むか、ですけれど。あ、でもたまにおばあちゃんを連れて行って喫茶店でケーキを奢らせていた事もありましたタカシくん。ありましたありました。ケーキいいですよね。なんだか食べたくなっちゃったな。あの喫茶店、営業時間何時から何時までだっけ……。
 
 え? なんの話か? ケーキの話では?
 あっ、月山文庫の話でしたっけ。
 えー、まあ、そうですね。
 月山文庫についての詳しい話は、またの機会に。
 私ちょっと、甘い物食べてきますので。
 それでは。
 
 また次回。

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