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第1話 タカシくんとトモくんと、月山文庫

 春。
 出会いの季節。
 タカシくんの通う小学校に、転校生がやってきました。
 その子の名前は、トモくん。
 タカシくんとトモくんは、出会ってすぐに仲良くなりました。なんとも不思議なのですが、初対面の筈なのに、ふたりとも、ずっと前から友達であったような気がするのです。具体的に言いますと、この春……二〇二三年の春に初めて出会った筈なのに何故だか、少なくとも数年前の冬頃には既に友達であったような、そんな気がどうもするのでした。不思議ですね。
 さて、タカシくんは、トモくんにいろんな事を教えてあげました。学校の事、町の事、自分の事、自分のよく行くお店の事。
「僕ん家の近くに異道があってさ、そこに月山文庫って本屋があんの。よく僕そこで漫画立ち読みしたりしてる」
「異道……にあるって、何、異道の入り口の近くって事? それとも異世界側?」
「ん? えっとだから、異道にあるんだって。あ、待って、描くわ」
 タカシくんはノートを取り出すと、鉛筆でかりかりと図を描いていきます。

「入り口が鳥居でさ、そこをくぐったら道がグーっと続いてる訳よ。石の道。石畳。で、道の両脇に店がこうやって並んでてさあ。この辺にあんのが月山文庫。んで」
「え、待って異道だろ? こんな商店街みたいな感じなの?」
 トモくんは驚いた様子でタカシくんを見ます。タカシくんもきょとんとした様子でトモくんを見てから、「うん」と返して頷きます。
「トモんとこって異道なかったの?」
「あったよ、あったけどこんなんじゃないし」
 トモくんが転校前に住んでいた街にあったのは、もっとずっと形の違う異道であるようなのでした。
「俺んとこのはあれよ。古いトンネルに入ったら草むらに出てさ、その草むらが異道なんだけど、俺よりもでかい草がぼうぼう生えてる中をな、張られてるロープを頼りに進んでいくんだよ。ずーっと歩いて行くと、異世界に辿り着くって、そういう」
「楽しそうじゃん」
「たーのしくねぇよー。こういう店とか何もないし。一回ロープから離れてどこまで行けるか試した事はあるんだけどさ、どこまで行っても本当に草しかなくて。異世界に行って帰るだけの普通の道!」
 不満そうな声を上げたトモくんは、それから「で?」と続けました。
「そのー……月山文庫だっけ。本屋があんの?」
「そうそう。見た目は小さめの本屋なんだけどさ、中は広いんだよ。そこで僕漫画を買ったり立ち読みしたり座り読みしたりしてる訳。あ、床じゃないよ椅子とか置いてあるからあそこ。後イベントスペースとかある」
「イベントスペース? 何それ」
「この間行った時はちょうど絵本の朗読会やってた。僕ちらっとしか見てないから、内容はわかんないけど。だからそういう朗読会とかいろいろやってるスペース」
「ふーん。そこ漫画っていっぱい置いてある?」
「わりかし」
「……行ってみようかな」
「んじゃ僕が案内してやるよ!」
 こうしてタカシくんとトモくんは、一緒にお出かけをする約束をしたのでした。

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