羊が一匹

　ふわあぁ。
　あ、どうもどうも、突然ですが貴方は眠れていますか？　私はどうにも眠気はあるのに眠れなくてですね、こうして夜の街を歩いている訳ですよ。
　ああ、いいえ、これは気分転換の散歩でもないですし、軽い運動をして良い睡眠をとろうとしているのでもありません。ほら、羊。羊を探しているんですよ。
　羊が一匹、羊が二匹。眠れない時に羊を数えるのは定番でしょう？　でもね困った事に、肝心の羊がいなければ数える事もできないじゃないですか。だから、こうして街の中で羊を探しているのです。
　街に羊なんかいるのかって？　いますよぉ、そりゃあ。
　あ！
　あ、ほら、ほら、いたじゃないですか早速そこに。
　そこですよ、あの電柱の陰、私の指さしている先、わかります？　ああそうですね夜の羊は見辛いからわかりにくいかもしれません、よぉく、よおく見てくださいね、ほら夜の闇に紛れて羊がひっそりと立っているじゃあないですか。
　全然見えない？　おかしいなあ、ほらだって確かに最初はぼやけていましたけれどだんだんとはっきりしてきたじゃないですか羊の輪郭がくっきりとほら。
　羊が一匹！
　よぉし、一匹数えましたよ。睡眠に一歩近付きました。
　え？　あっ？
　ちょっと今日は順調ですよ!?　二匹目！　もう二匹目を見つけちゃった！　えっ、またわからないんですか？　あっちですよ。あそこの住宅の庭の木の枝の上に乗っているのが見えるでしょ？　ね？　……見えない？　ほら葉っぱと一緒に揺れている。
　まあいいや、羊が二匹！
　いやー、今日は……今日はホントにすごいや、三匹目まで……。見てください空に羊がいますよ、三匹目だ、そうですよその雲、えっいや羊みたいな形の雲じゃなくてその中に隠れている本物の羊の方ですよ！　ああ、四匹目が向こうの横断歩道に！　ほらこっち！　え？　赤信号？　信号じゃなくてほら横断歩道に四匹目が（衝突音）