月の石/羊を数える
ヘッダー画像に仕込んだ掌編
月の石
月の石を手に入れた。
行商人の男曰く、大変貴重な品物であるらしい。今なら百万円のところ特別に一万円でお譲りしますと言われつい買ってしまったのだが、まさか騙されてやいないかと今更になって思う。しげしげと眺めてみても、ううむ、……ただの石ころにしか思えない。昔々とある宇宙飛行士が月から持ち帰ってきた石であるのだと男は語っていたが、そういえば月というのはどの辺にある星なのだろう。俺の古いスマホでも調べられるかな。起動すると、おっと、天気アプリを表示したままだった。
『地球歴二○二年-魚期-三十二日の天気は――』
羊を数える
羊を数える事にした。
眠れないのである。明日も仕事だというのに、眠ろうとすればするほど眠気は遠ざかっていく。もはや羊に頼るしかない。羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹、羊が四匹「メェ」羊が五匹、羊が六匹「メェメェ」羊が「メェー」「メェーメェー」「メメメメェー」うるさいな! なんだ? この鳴き声は、どうやら外から聞こえてくる。羊だ。家の外に羊の群れがいる。「メェ」うるさいな眠れないだろう。怒る俺に羊達は近付いて、俺をもこもこの毛に沈めていく。というところで目が覚めた、というオチだと思っただろう?
現実なんだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?