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沈んでいく

 俺は、沈んでいく。
 水の中、ではない。ここは水の中ではない。俺は水に沈んでいる訳ではない。でもじゃあだったらここは一体どこだったろう。俺の周囲は白い。ただただ白い。まるで牛乳のような、夏の雲のような、真っ白な世界に俺はいる。ここはどこだ?
 自分の体がふわふわと浮いているような感覚がある。沈んでいると思うのに浮いているとも思っている。果たしてどちらが正解なのだろうか。俺はどうなっている?
 なんだか記憶が曖昧だ。沈む前の事が(あるいは浮く前の事が)よく思い出せないのだ。俺は何をしていたのだったっけ。どこにいたのだったっけ。
「  」
 誰かが俺を呼んだ。言葉自体は聞き取れなかったが、確かに自分を呼ぶ声なのだと何故か思った。声の方へ行こうと思った。泳ぐように体を動かし、前へ前へ進もうとする。ここは水の中ではないが、まるで水の中にいるように。
「  」
 また、声が聞こえた。
「メェ」
 鳴き声? 鳴き声か、これは。
 白い世界に、何かがいるのが見えた。あれは……羊、か。羊が、俺を見て、メェと鳴く。その声を聞いていると、なんだか、俺は眠気に襲われる。
 羊の声を聞くと眠くなるのだっけ? いや、羊を数えると、だろう。
 でもとにかく、眠い。
 瞼が重く沈んでいく。
 夢の世界へと沈んでいく。
 いや、これこそが夢じゃないのか? この、異様な空間。異様な体験。これは現実なのか、夢なのか、わからない、何もわからない、ただ俺の瞼はもう開かず、視界は真っ暗になってしまう。それでも真っ暗な中にまだ、白い毛並みの羊が見えた。
 羊はメェメェと鳴いている。
 その声を聞きながら、俺の
 
     意識は
 
         沈んで

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