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とある朝の光景

 珍しく、休日だっていうのに早い時間に目が覚めた。
 布団から出ないまま、枕元のスマホに手をのばして時間を確認して、用事もないし二度寝してもいいなと思いながら、ふと、体にかかる重みに気付く。
 俺は体を横向きにして寝るタイプなんだが、その状態で、背中に何かよりかかっているなという感覚があるんだ。いや、幽霊とかじゃない。
 これはまるで、冬場のクツだ。
 あ、いや、靴じゃなく。クツってのは実家で飼われている猫の名前で。くつしたを履いているみたいな足の模様からクツシタって名前になったんだが、だんだんと短く呼ばれるようになって、最終的にクツで定着したのである。
 そんなクツは、寒い冬場にだけ、人にぴったりとくっついて眠る。
 だからつまり、今俺の傍に猫がいるような、そんな感覚があるという訳。
 でもそんな訳がない。クツは実家にいるのだし、実家を出た俺が暮らしているこのアパートに猫はいない。いない筈だ。
 そっと体を動かして、自分の背中側にいるものを、見た。
 羊だった。
 猫じゃなくて羊だった。もしかして野良猫でも入り込んだかなと思ったら目の前にいるのはどう見ても羊だった。しかしサイズは羊にしては小さい、それこそちょうど猫くらいの大きさだ。子羊だとこんくらいなのかな? どうなんだ?
 いやなんで羊がいるんだよ……。
 もしかしてこれ、あれか? 夢か? 寝直したら消えるかな。いやでも、夢の中で寝直すって何か変だな。そんな事を思っている内に俺は二度寝していた。
 二度目から覚めると、羊は相変わらず俺の背中側で寝ていた。
 いるなぁ……羊……。現実だったわ。これは……通報? 保健所でいいんだっけ。でも通報……する前に……ちょっと触ってみたい。羊。だってテレビでもネットでもなく生で見たの初めてなんだよ羊。おそるおそる、小さな羊にそっと触れる。
 あ。すげえ。手触りが、手触りが良い……。
 ……………………このアパートってペット大丈夫だっけ?

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