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月山文庫まだまだ改装中

「まぁだ、改装してるかなー、っと」
 タカシくんは、ある日おつかいに行く途中、ちょっと思い立って月山文庫の様子を見に行く事にしました。
 月山文庫とはタカシくんがよく通っている書店なのですが、最近は改装工事中という事で閉店しているのです。営業再開したらまた、漫画を立ち読みしたいなぁ。そう考えているタカシくん。
 さて、店の前まで行ってみると。

 べりっ、べりべり、べりっ!

 何の音かって?
 店の体(店の壁、といっても良いかもしれませんが、月山文庫の外観は大きな羊なので、体と呼ぶ方がしっくりきます)についている扉を女性ふたりがべりべり剥がしている音です。
 ええ、そう、まるでシールを剥がすように、扉が剥がされているのです。
 べりべりべりっ!
 そうして綺麗に剥がされた扉が、地面にそっと置かれました。
 不思議なのは、店の体(壁)の、たった今まで扉のあった場所に、どんな穴も開いていない事です。だってあの扉は飾りではなくて、店の中に通じている出入り口なのに……あそこをくぐっていつもタカシくんは月山文庫に入っているのに……扉を外せば、扉の形をした何もない空間が、穴が、残る筈ではないですか。
 でもそこにはただ、白い体(壁)があるばかり。
 扉を剥がしたふたりの女性は、額の汗をぬぐったり肩を回したり伸びをしたりして、それからちょっとした会話をしていました。よく見ればタカシくんはそのふたりを知っていました。ここの店長さんと、そのお友達です。
「あー、良かった。綺麗に取れたね」
「これで、この扉ともお別れだねえ、とびらちゃん。こうなってみるとさみしいねえ」
「大分接続も悪くなっていたから、仕方ないよ。営業中にトラブルが起こるとよくないから、いつも開けっ放しにしてたくらいだし。……で、うつろちゃん、どうする? 新しいドアの到着少し遅れるって。中で待ってる?」
「そだねえ、じゃあ顔で待ってよっか。あ、ねえ、お茶しよお茶。この前さ、面白い茶葉を……」
 ふたりは話しながら、店の顔部分へ……外観が羊の形をしている月山文庫の、羊の顔の形をした部分へと、近付いていきました。
 すると、あくびでもするように、羊が(店が)口を大きく開けて、とびらちゃんとうつろちゃんがその中に入っていくのでした。
「…………変わった店だなあ……」
 タカシくんは、そう呟きます。今まで何度も通ってきた店なのに、まだまだ知らない事が多いようにタカシくんには思えるのでした。

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