見出し画像

2月14日 バレンタインデー

 私の血液はチョコレートでできているのよ。
 彼女がそう発言した時、僕は当然ウソだと思ったのだけれど、彼女の手首の切り傷から流れ出た液体は確かに茶色く、甘かった。ミルクチョコの味がした。
 二月十四日、招かれた彼女の家の中、彼女の部屋の中、彼女のベッドの上で、僕は彼女の手首に口付けをして吸血鬼みたいに血を吸った。
「だけど、どうして君の血はこんなにも甘いの」
「血だけじゃないわ。私は全身が甘いの。あのね貴方にだけ教えてあげる。内緒よ。私の体はお菓子で作られているの。パパが私を作ったの」
 彼女の父親は昔、娘を事故で亡くしたのだという。その悲しみに耐えきれなかった彼は、娘の好きだったお菓子を材料に、娘を作り直す事にした。そうやって完成したのがつまり彼女である。そんな話を、聞かされた。
「でもね、私は結局失敗作だったのよ。見た目も、名前も、『パパの大事なあの子』と全部おんなじ。でも、私のマシュマロでできた脳みそには、『あの子』の記憶も、人格も、何も入っていないから。だから私はパパの娘になれないの」
 甘い甘いミルクチョコが、舌の上でなんだか少し苦くなった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?