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自称未来人

 2000年頃の事である。
 未来人を名乗る男がいた。
 男の話には妙な信憑性があり、勿論彼を疑う者もいたが、信じる者も数多くいた。
 男は「タイムマシンが故障して未来に帰れなくなった」「すぐ戻るつもりで遡行届も出していないから救助が来ない」と言い、この時代に家も金もないと主張。そこで男を信じる有志の者達で生活費や物資、住む場所を提供し、彼を支援した。男はそのお礼として、未来の話を人々に語って聞かせた。
 男の語る話は面白く、人々は喜んで彼を支援し続けていた。数年間の間は。
 
 男の評判が地に落ちるきっかけとなったのは、2006年。
 この年、惑星の定義が見直され、冥王星が惑星から外され、準惑星となった。
 それが問題であった。未来人を名乗る男は、冥王星を「惑星」と呼んでいたのだ。未来から来たのが事実なら、何故冥王星が準惑星となった事を知らないのか。
「待ってくれ。確かに俺は天体に関して詳しくはないけど、太陽系の惑星ぐらいなら学校で習った。冥王星は確かに惑星の仲間だった筈だ。準惑星じゃない」
 男は必死にそう主張したが、彼を支援していた人々は、次々に手のひらを返した。
「冥王星が惑星だったのは、もう過去の話だ。お前は未来人なんだろ?」
「学校で習うような事も知らないなんて、お前の話はでたらめだったんだな」
「どうせ今まで語った事は全部嘘だったんだろう」
「皆を騙しやがって。金返せ」
 その後、男は人々の前から姿を消した。
 支援を失ってどこかで野垂れ死んだか、あるいは隠れて細々と生きているか。
 男の行方は誰も知らない。
 
 
 
 2106年の事である。
 この年、惑星の定義が改めて見直され、冥王星は再び惑星となった。

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