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2月4日 西の日

 西を目指す事にした。
 故郷を出て、俺はひとり「ンメェ」じゃなかった、大羊とふたり、旅に出る。
 大羊を知らないか? あんたの住んでる辺りには居ないのか。大羊っていうのは、まあ名前のとおりにでっかい羊でな。緑色の毛が特徴的な種だ。うちの地方じゃあ、若者が大羊と一緒に旅をする風習があるんだよ。
 ……俺は若者って歳じゃないけどな。ずっとうちのじいさんの介護で忙しくてな、旅に出そびれてたんだよ。だけどそんなじいさんもついにくたばって、俺は介護から解放された。やっと、俺の旅が始まる。
「メェー」
 わかったわかった、俺達の旅な、俺達の。……俺達は、西へ向かう。
 じいさんがさ、生前、話してたんだよ。昔、まだ若かった頃、西の方へ旅をして、それでさ、なんか素晴らしい出会いをしたんだと。……詳しい事はわからないんだ。じいさんはもう長い事、頭がアレで。ろくに会話も成り立たないほどだったが、西に素晴らしい何かがあるって話は、きっと真実だって、俺は考えてるよ。
 それを見に行こうと思うんだよ。ふたりでさ。

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