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2月15日 春一番名付けの日

 ざあっ、と強い風が吹き、幾つもの黒い影が空を駆け抜けていく。魔女だ。
 今日は、魔女の魔女による魔女の為の飛行レースの日。世界各地から集まってきた魔女達が、それぞれに箒やら絨毯やら鳥やらに乗ったり、自らの背に翼を生やしたりして、誰が一番速く空を飛べるか競っている。
 優勝者には、トロフィーと、“春一番”の称号が与えられるらしい。
 春のレースの一番だから春一番……という訳ではなくて、レースの成り立ちに関係する称号だと聞いた事があるのだが、ええと、なんだっけ。
「あらぁ、教えたじゃない、ハルイチの話。忘れちゃったの?」
 と、声をかけてきたのは私の祖母。まぁた勝手に私のモノローグ読んで……。あ、そう、祖母も魔女だ。腰を痛める前まではレースの常連で、春一番の称号を得た事もあるみたい。自慢げにトロフィーを見せつけられたのを思い出す。
「しょうがないわねぇ、また教えてあげる。今でこそ魔女同士で速さを競うレースになっているけれど、元々はハルイチと呼ばれた竜を追いかけるものだったのよ。このハルイチってのが、また悪戯者でねぇ……」
 祖母の長い話が、私の耳を風のように吹き抜けていく。

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