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掌編

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ノンシリーズ掌編まとめ。
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2024年7月の記事一覧

パパはいつも寝てる

 パパはいつも寝てる。  それにすっごく臭い。  ハエがいっぱいパパの周りを飛んでいる。    ママは帰ってこない。  お友達の男の人と遊びに行ってて、まだ帰ってこない。    ぼくはお腹がすいている。  ママが置いてってくれたパンは、もう食べ終わっちゃった。  のどが渇いたら水道の水を飲みなさいって言われてるけど、お腹がすいた時も水を飲んでいいのかな。ママに聞かないとわからないや。でもママはまだ帰ってこない。    チャイムが鳴る。  知らない人の声とか、大家さんの声とかが

南雲屋探偵事務所はなんでもやる 番外編 幕間

はじめに  この作品は小説『南雲屋探偵事務所はなんでもやる』の番外編です。  時系列としては三話と四話の間の話となります。   重ねて  上記の『南雲屋~』は架空の小説です。  三話も四話も一話も二話もないです。  この作品は、存在しない作品の番外編、という形で書いた実験小説となります。       番外編 幕間  血の臭いが充満する。  赤黒く染まった床。絹を裂くような悲鳴が、部屋に響く。夫人の声だ。  愛する夫の無残な死体をその目で見てしまった夫人の、慟哭。  そんな彼女

姉さんの心臓は林檎

 ふと思い立って姉さんの胸を切開すると、心臓がある筈の場所にはつやつやと輝く林檎が収められていた。  それはとても甘そうに見え、食べてみたくなって、切開に使ったナイフをそのまま動かし林檎を摘出しようとしたのだけれど。 「それ、とっちゃだめだよ」  と、姉さん本人から優しく制止された。  病院とは違って僕の家には麻酔がないので(メスもないが幸い食事用のナイフならあった)僕は姉さんを眠らせないまま切開したのだった。……今気付いたのだけど、睡眠薬って麻酔の代わりにならなかったろうか