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掌編

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ノンシリーズ掌編まとめ。
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2022年2月の記事一覧

コイの病

 コイの病なんです。一昔前は、そう言うと笑われた。馬鹿にされた。一部の医者でさえ、くだらないことを言ってからかうなと怒ったものだ。それほどに認知度の低い病であった。それが数年も経たぬ内に、一変した。コイの病なのか。それは大変だね。治ると、良いのだけれどね。誰もがそう心配をするようになった。それほどに、身近な問題となっていた。  コイの病にかかる人が、だんだんと増えていったのだ。いや、過去形では語弊があるか。だんだんと増えている。現在進行形で。  けれど効果的な治療法も薬も未だ

きりんの家

 私の家はきりんです。  玄関は右前足にあるので、蹄の扉を開けて入ります。するとはしごがあるので、昇って胴体部分まで行きます。はしごよりもエレベーターの設置されている方が一般的なのですが、この家は安さ優先で買ったものですから、まあ、この有様です。でも荷物を運ぶ用に、簡易的なエレベーターはついているんですよ。手動ですけど。  胴体部分に辿りつきました。喉が渇いているのでひとまずキッチンに行きましょう。うちの冷蔵庫は魚です。水槽で泳いでいる魚を呼びよせて、水面に出たところで背

Aストより三題噺「猫、雨、窓」

 暗闇の中、ざあざあ、ざあざあと音がする。  薄目を開ければ横になった棚が見え、視界がはっきりとして、ああ寝ていたのかと思い出す。  目をこすりながら体を起こした。正常な向きに戻った棚の上、飼い猫が体をまるめている。  その傍には窓。その外には雨。昼寝の前には晴れていたけど。  猫はぶるり、身体を震わす。寒いなら、こっちに来ればいいのに。  大方、まだ晴れている時、日の差し込む窓辺に寝転び。そのまま雨が降り、室温が下がっても、動くのが面倒でそのままそこにいるのだろう。  俺と

神様からの手紙

 ある日のことでした。森の中の小さな家で暮らすきつねに、手紙が送られてきたのです。手紙には、こう書かれてありました。     きつねへ。     大事な話がある。     月がのぼったら、タイジュの根元へ来てくれないか。     待っている。  最後には、こう書かれてありました。神、と。皆が敬い、そして憧れている、神様からの手紙でした。きつねは浮かれてしっぽを振ります。神様の姿は、今まで誰も見たことがない。けれど、おそらくはボクだけが会えるのだ。森の奥の奥にある、タイジュ