ファム・ファタールの美しさに魅せられて・・・「薄氷の殺人」ディアオ・イーナン監督
先日、「鵞鳥湖の夜」を観て、ディアオ・イーナン監督を初めて知った。
ディアオ・イーナン監督が、その前の2014年に制作し、ベルリン映画祭で金熊賞を獲得した「薄氷の殺人」、こちらも映像美が冴えわたる予告編!!
ワクワクしながら、拝見しました!!
1999年から2005年、中国各地の石炭工場で、バラバラ死体が相次いで発見される。
最初の死体は、とあるクリーニング店で働く、女性ウー(グイ・ルンメイさん)の夫。
その後、ウーに関わった男性が次々に同じ手口でバラバラ死体となって発見される・・・。
この映画は「鵞鳥湖の夜」以上に、フィルムノワールと言いますか、サスペンスの要素が強いストーリーなので、「#ネタバレ」タグを付けておきます!!
そもそも、ボク自身は、推理小説の最後の犯人を知っていても、全く意に介さずそのストーリーを楽しめるタイプの人間なので、どの程度書いちゃったら、「ネタバレ」になってしまうのかしら?
しかし、この映画、ちゃんと事件が解決されるんですね!
事件に対して、犯人がわかり、動機も解明されていく。。。
当たり前じゃないか!!
って、、、ボクが、最近、そういう解りやすいストーリーを観ていなかった、と言いますか、謎が謎のまま、ラストシーンになり、「あとは観客の想像にお任せします!!」みたいな、不親切な?難解な?映画に、ボクが慣れ過ぎてしまったのか、、、
「薄氷の殺人」において、犯人と事件に至る動機が解明されるところは、非常にスッキリ!後味も良くご覧いただけます!!笑
事件のトリック自体は、詳しくは映画を観て欲しいが、ちょっと不可思議で謎めいていて、なかなか面白い。
フィルムノワールらしく、ほとんどが夜の暗闇の中、そして、ディアオ・イーナン監督独特の、映像美をじっくり見せた後、突然スピード感を持って物語が進行したり、緩急つけたテンポで描かれる。
前半で、警察が美容院に踏み込んで、突発的に銃撃になる部分や、中盤、トリックが暴かれて、犯人が逃げるシーンの描き方など、ぼんやりと映像美に魅かれて、会話とストーリーをちゃんと追っていないと、「あれ?今、誰が死んだんだっけ??」と、わからなくなってくるかもしれない。
うーん、もしかすると、その「事件の謎」に対する、推理と「サスペンス」に期待感を持ちすぎると、逆に犯人が判明する部分や、その動機の解明は、あっけなくて、もの足りないのかもしれないなぁ。
あくまでその「事件」は、美しき女性ウーの人間性を描くための「きっかけ」に過ぎないのかもしれない。
ウーを演じるグイ・ルンメイさんは、めちゃくちゃ美しい!!
最初の夫の死体が発見された時は、夏、グイ・ルンメイさんの美しいおみ足を少しだけ拝見できる。
後半の季節は、冬。
グイ・ルンメイさんは、終始厚着である。
しかし、タートルネックのセーターが体のラインをより強調していて、下品にエロくない艶めかしさがある!!
誘うつもりのない、無意識のエロチック・・・!!??
それから、凍てつく寒さに、鼻と頬が赤くなった姿・・・
うーん!!かわいいぞ!!!
いや、ボクも含めて、お馬鹿な男性たちが魅了されてしまうのは、その美しさの中に、一見して見える、薄幸な、弱さ、はかなさ、だと思う。
ボクも最初は、何故、こんなに美しい彼女が、(まぁ、表向きいろいろ事情はあるにせよ)本当に、どうしようもないクリーニング屋の主人や、スケート場で知り合った男性、更には、自分を追っている、ダメなおっさんと化した、元刑事ジャン(リャオ・ファンさん)まで、最終的に全て受け入れてしまうのか??
ウーとジャンは、観覧車の中で・・・ダメダメダメダメ!!
そりゃないよ!!
うーん、許されざる「恋」としてのギリギリの緊張感を描くのならば、このシーンはやりすぎ!!!
ジャンには、元刑事としての使命感を持って、そこはもう少し葛藤してほしかった!!!
と、ボクは、思ったわけです。
当初、執拗にウーの姿を追うジャンは、事件で同僚を失い、傷を負った元刑事としての使命感と、美しき重要参考人ウーへの興味本位から「許されざる恋」が芽生え始めてしまった、ダメなおっさん、動機は約半分半分。。。
ジャンは、ウーの手を握ろうとしても握れない、腰に手を回そうとしても回せない。。。グッとこらえて、手をグー、チョキ、パー・・・ここは、「恋」としては、非常に秀逸な描き方だと思いました!!
ドキドキ!!!!
しかし、ディアオ・イーナン監督は、許されざる「恋」を描きたいわけではなかった。。。
ドイツロマン派ではないのです!!
中国のリアリズム!!そこにはあるのは、甘い無限の憧憬ではなく、恐怖!
全てを受け入れておいて、その相手を殺させることで、愛の強さを確かめる!!
それが、ある意味、ウーの「自己認識」の方法なのかもしれない。。。
うーん、「弱さ」を武器にして、実は(本人は自覚していないかもしれないけれども)自分が一番「強い」立場であることを望んでいる・・・恐ろしいと言えば恐ろしい!!
正にこれぞ「魔性」の女、ファム・ファタール!!
ある意味、サイコパスの一種かもしれません。
美しきウーが、いかなる理由で、このようなファム・ファタールとなったのか・・・もちろんそこまで描かれていませんが。
元刑事ジャンは、冒頭で描かれた通り、やはり、ダメな男の一人でしかなかった・・・
事件の全容を解明した元刑事ジャンを殺して、ウーに愛を証明する者はいません。
一見すると、「恐怖」に打ち勝って、ウーを「征服」した最後の勇者になった、とも見えますが、既に、ジャンは、現実社会から転げ落ちた存在。。。
ジャンは、元刑事としての「勝利」ではなく、ウーに恋に落ちてしまう、完全な「敗北」を悟ったのではないか?
そんなことを深読みさせられるラストシーンでした。
暗いフィルムノワールなシーンが続いた後だけに、ラストが非常に爽快。
それに、鉄道好き、はたらく自動車好きとしても、石炭採掘場から、発電所と思われる貯炭場まで、中国規格の巨大ダンプトラックや、石炭貨物列車、それに、グイ・ルンメイさんが乗る、中国の粗末なローカル線など、見どころたくさんの映画です。
あと、ディアオ・イーナン監督独特の、場違いな挿入歌!!
今回は欧陽菲菲でやってくれました!!
うーん、「鵞鳥湖の夜」より、ボクとしては「薄氷の殺人」の方が好きかな。。。
イケメンよりも、ダメなおっさん、グイ・ルンメイさんは、ショートカットよりもボブ・・・
ただ、どちらかが好きなら、どちらもハマるはず!!
みなさま是非ご覧くださいませ!!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?