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左幸子監督、主演「遠い一本の道」~よくぞ残してくれた!超リアルな鉄道映画~

左幸子監督、主演、1977年の映画「遠い一本の道」を観ました!

国鉄労働組合全面協力!


国鉄労働組合(国労)全面協力!!
・・・と聞くと、何やら政治臭プンプン!!・・・共産主義アレルギーのある方にとっては、眉をしかめるのかもしれませんが、
いやいや、しかし!!
そんな政治色を抜きにして、、、

とりあえず、鉄道マニアのみなさまは、絶対観てほしい!!

北の大地を走る石炭貨物列車
雪の中、貨物列車を子供たちが追いかける

いやぁ、北の大地を走る蒸気機関車の素晴らしいカメラワークの数々!!
そして正に現場に入り込んだからこそ描ける、数々の鉄道車両と豪華キャストとの共演!!

入換される貨物列車に井川比佐志さんとその子供が手を振る

こんなん、泣いてしまうわ!!

しかし、鉄道マニアでないみなさまには、、、
うーん、正直、まぁ鉄道が好きじゃないと、かなりハードコアな内容かもしれないけれど、、、
それでも、やっぱり、観て欲しい!!

よくぞ、1970年代に、日本の、国鉄の、リアルな姿を残してくれた!!
政治臭も含め、鉄道労働現場の記録映像として、十二分に価値がある映画だと思います。

いやぁ、まず、「国鉄労働組合」全面協力じゃないと撮れない、実際の国鉄機関車、貨物列車等をふんだんに使ったリアルで迫力のある「鉄道現場」の映像の数々!

ちなみに、日本の蒸気機関車(SL)の観光、保存以外の定期運行は、1976年3月、この映画の舞台となった、北海道追分駅での入換運用を最後に終了しました。
正に日本の蒸気機関車による最後の運用、この時を逃しては撮ることができない、「鉄道」の姿を捉えた貴重な映画である。

貨物列車マニアでもあるボクの垂涎ものの好物でもある、操車場の貨物列車入換え風景。

貨物列車入換

先日、川崎市民ミュージアムにて「鉄道操車場物語」という企画展を拝見してきたのですが、

操車場(ヤード)による貨物列車入換も、国鉄末期の1984年(昭和59年)2月で廃止されます。

同時期に、東映は「新幹線大爆破」(1975年)、

東宝は「動脈列島」(1974年)、

そして、松竹は、以前ボクがこのnoteにも書いた「皇帝のいない八月」、

国鉄を舞台にしたパニック映画を、これだけ各映画会社が連作しながら、残念ながらパニック映画という趣旨もあり、国鉄は協力を拒んで、各社ともにリアルに再現したセットや、ミニチュア、他の私鉄各社に協力を仰いで、撮影していた。
しかも、東映が「新幹線大爆破」で、新幹線を爆破しちゃった(実際は危機一髪助かるんだけど)ために、国鉄本部は、怒り心頭!!
「国鉄は今後一切の映画協力はしない!!」と宣言させちゃっていたような状況・・・。

もちろん、この「遠い一本の道」は、パニック映画ではないのだけれど、まぁ、実際のところ当時、国労のストライキ等、非常にナーバスで戦々恐々だった国鉄本部に、ここまでリアルな鉄道現場の記録映画を撮りたいと申し出ても、断固、許可は下りなかっただろうと推測される。

それを、国鉄内部の、国鉄本部と対立していた組織である「国鉄労働組合」に協力を仰ぐことで、ここまで国鉄労働現場をリアルに描き、後世に残すことができたのは、結果として良かったと思う。

労働運動は遠くなりにけり~労働争議より「追分」の町を描いて欲しかった~

しかし、、、いくら「国鉄労働組合」全面協力といっても、今、改めてこの「遠い一本の道」を観て、鉄道車両へのビラ貼りや、「マル生」などを克明に描いても、ボクも正直なところ、リアルタイムではないので、正直、厳しく評すると、映画として現代には通じない部分もあるかなぁ、と思う。
もし、当時の国鉄労働組合の状況について、詳しく知りたい人がいれば、国鉄による「マル生」運動と、国労による「スト権奪還スト」、さらに、そんな国鉄の状況に対して乗客である国民の怒りが爆発した1973年の「上尾事件」等を勉強して、この映画を観ることをオススメする。
(・・・って、そこまでして観よう思う人はどれくらいいるのでしょうか・・・)

まぁ、国労組合員の肉声や実際の家族の出演、「マル生」の現場再現など、フィクションでありながらドキュメンタリータッチを色濃く反映した「遠い一本の道」は、リアルに時代を反映した映画になり、もちろんそれは価値あることだと思いますが、ここからは、以前「皇帝のいない八月」のnoteでも書かせていただいた、ボクの勝手な「遠い一本の道」ムーニー版!?ストーリーを書かせていただきますと、、、

労働争議について克明に描くよりも、「追分」という鉄道によって発展した町の持つ意味をもう少し描いたらどうだったのか、と思う。

国労闘争、列車へのアジビラ貼りのシーン

古今東西、労働争議の場面が出てくる映画はたくさんある。
しかし、その中で、ボクが個人的に「労働争議」を「あっさり」、共産主義アレルギーの人も拒否感無く観られる程度に描いた映画として思い起こすのは、ミケランジェロ=アントニオーニ監督の「赤い砂漠」である。

まぁ、ボクが大好きで何回も観た映画なのですがw
正に、イタリアの労働争議の場面から、話が始まるのですが、モニカ・ヴィッティ演じる主人公の、その後の「社会」に対するメタファーとして「労働争議」が描かれているので、もちろん、社会から浮遊するように、しかし、リアリティを持って描かれている。

嗚呼、「赤い砂漠」は、ボクが非常に思い入れのある映画で、最近モニカ・ヴィッティも亡くなって、

書き始めると長くなるのでこのくらいにしておくが、何が言いたいかというと、映画において当時の労働争議を描くことは、当時のリアルさを追求する上で必要不可欠だと思う。

「遠い一本の道」で労働争議を描いたこともボクとしては非常に評価するのだが、しかし、労働争議を克明に描き過ぎた!ということである。

「マル生運動」風景

うーん、「マル生運動」の風景・・・って言われても、まぁ、リアルに描くことも必要ですが、絵的にも地味だし・・・現代では、鉄道マニアでも「マル生」と言われても知らない人がほとんどでしょう。。。

それより、「追分駅」のある追分の町に関する知識である。
ボクは鉄道マニアだから知っていたのだが、少し書かせていただくと、追分駅の成り立ちと切り離せないのが、北海道最大の炭鉱「夕張炭鉱」である。追分は、夕張に通じる石勝線(=旧夕張線)と室蘭本線のターミナル駅であり、夕張炭鉱からの石炭を全国に送り出す最初の拠点として、貨物ヤードや蒸気機関車の給炭、給水をする機関区が置かれ、その町自体が「鉄道城下町」として発展した歴史を持っている。
それゆえに、1970年代、政府のエネルギー転換政策のあおりをモロに被って、夕張炭鉱の閉山、衰退による貨物列車の減少、エネルギー転換による蒸気機関車のディーゼルへの近代化、効率化、人員削減による追分の町自体の衰退を全国でも随一に象徴的に被ったのである。
それゆえに1970年代、「追分」では、全国でも最も激しい国鉄労働争議に発展し、国鉄職員を中心とする町の住人を二分する騒ぎになったそうである。

うーん、そんな時代背景を詳しく知っていればこそ、この「遠い一本の道」は「追分」を舞台に選んだのだと思うが、まぁ、映画の中で多少は描かれていたのだが、追分を含めて、もっと「石炭」や「夕張炭鉱」にスポットを当てても良かったのかなぁ、とも思った。
まぁ、さらに鉄道マニア的に申し上げると、夕張炭鉱の末端部分は、北炭夕張鉄道や三菱大夕張鉄道をはじめとする運炭私鉄が担っていたので、そこまで描くと「国鉄は、まだマシだ!単横労働者や末端私鉄で働く労働者はどうなるんだ!!」と、話はさらにややこしくなるのかな・・・
しかし、ネタバレするので詳しく書かないけれど、長崎のラストシーンが映画として一貫性を持って、説得力が増して、さらに印象深いものになるのではなかろうかとも思うわけである。

山田洋次監督「家族」と逆ルートを辿る豪華キャスト!

この映画を観るならば、是非とも山田洋次監督の名作「家族」を観て欲しい!

何といっても「家族」と同じく主演男優は井川比佐志さんである!!
前半の見事なちゃぶ台返し!!

ちゃぶ台返し!!

国鉄労働組合全面協力の下で、負けない豪華キャストで「家族」と逆ルートを辿る一家の物語。
もちろん、山田洋次監督の「家族」は、倍賞千恵子さんが気丈ながらもかわいらしいことも含めて魅力的なのですが、「遠い一本の道」も負けてはいません!
この作品が唯一の監督作品となった主演の左幸子さんは、今村昌平監督の「にっぽん昆虫記」で体当たりの演技で主演を熱演!

「モノ申す女優」としてプロダクションに所属せず、一匹狼を貫いた実力女優!

内職の織機(昔、ボクの家にもあったなぁ)を井川比佐志さんにひっくり返される
お金持ちの家に保険セールス・・・

この映画でも、監督と兼任でありながら、内職や保険セールスをしながら二人の子供を育て、労働争議で炊き出しをする姿を、リアリティを持って演じ切る!!

とはいえ、前半は、リアリティを追及して救いの無い物語なのかと思いきや、旅が進むにつれて悲しい事態が巻き起こる山田洋次監督の「家族」と比較して、「ひかりは西へ!」未来を象徴する新幹線に乗って、幸せを予感させるラストには、救いがある物語だったのかな、とも思います。

杉の苗木に頬ずりする市毛良枝さん!かわいい!!

明るい長女を演じる市毛良枝さんや、

長塚京三さん、ロン毛で渋くて若い!

その幸せな結末に至るキーマンとして、長塚京三さん!
この長塚京三さんの働く営林署を、国鉄で働く井川比佐志さんが訪ねて、「仕事に誇りを持つ」二人が、ただただ無言で見つめあうシーン!!

娘の父親として、ただ黙って見つめる
営林署で働く長塚京三さん

現代日本の林業の衰退を見ると、営林署という職場についてもいろいろ考えさせられちゃいますが・・・

左幸子監督が女性であるがゆえに撮ることができた、何とも当時の男性らしい、理想的な演出なのではないだろうか。

むかし気質の保線作業長に名優殿山泰司さん!

いい顔してます!
井川比佐志さんと殿山泰司さん!素晴らしいツーショット
「JNR」のヘルメット姿も似合います!
そして、名優と鉄道の共演!!

そして、単純に近代化を喜ぶ上司役に大滝秀治さん!

楽天的な上司役、大滝秀治さん。こういう上司、いたなぁw
西田敏行さんも仲人役でゲスト出演!

リアリティを追及するだけの映画化と思いきや、この豪華キャストの名演によって、ラストの解放感へと誘ってくれる!

「ひかりは西へ!」新幹線に乗る井川比佐志さんと左幸子さん

(ボクもこの映画に取り込まれている!?まぁ、そこが国鉄労働組合全面協力の狙いなのかもしれませんが・・・)

熱い時代が終わってしまった・・・

大雨による土砂崩落現場を始発列車までに復旧させて万歳!!

実は、ボクはこの映画「遠い一本の道」について、小学校時代に近所のレンタルビデオ屋で、単純に鉄道趣味だけで「おっ!鉄道を撮った映画だ!!」と思って存在を知ってはいた。しかし、その時にはレンタルもせず、観ないままだった。

恐らく小学生当時のボクが観ても、蒸気機関車が走る当時の鉄道情景に今ほど感じ入ったとは思えないし、「労働争議」なんて理解できるハスも無いから、この映画についてほとんど理解できなかったことだろう。

その後、ボクは「遠い一本の道」のタイトルを忘れてしまい、何度か出演者やビデオ時代のパッケージを手掛かりに検索してみたのだが、芳しい結果は得られなかった。
この映画自体2021年になるまでDVD化もされず、多くの人の中で長らく忘れられた作品になってしまっていたのではなかろうか?

ボクとしては、1960年代の音楽やファッションから、学生運動に興味を持った。
日本の思想にとって、学生運動が終わりを遂げた、1969年~70年を一つの節目として捉えている。
日本人の大多数が、思想を失い、理想も失い、当面の秩序と引き換えに、思考停止したと言っても過言ではないと思っている。

学生運動が終結した後も、強い意志を持って戦い続けた1970年代から国鉄末期の労働争議は、結果としては、顧客である国民を敵に回し、顧客である荷主離れをもたらし、鉄道貨物の衰退、赤字ローカル線の廃止、徹底した近代化と合理化をもたらし、国鉄の分割民営化という末路に至るのである。

少し過激に申し上げると、ボクは三公社五現業は、再国有化すべし!!」ともうっすら思っている。
決して共産主義に傾倒したわけではない。もし、現代社会から検証するとすれば、多くの人が民営化によってもたらされた利点を語ることだろう。

だが、しかし!!
ボクの長らくの社会人経験、資本主義営利企業営業職サラリーマンとしての苦い生活を通した「労働」に対する思いと、ノスタルジアとしての憧憬の意味も含めてであるが、学生運動、労働争議を経て、どうしてこうも日本は、「闘ったのに何も得られなかった」という無力感ばかり残る結果になるのだろう。
決してその主張は間違っていなかったと思うし、その労働現場に対して、「仕事」に対しては、個々の熱意があったと思っている。
しかし、結果として、自分たちの首を絞める結果に至ったことに、本当に涙が出てくるのだ。
失われた10年は、30年になり、50年になり、もはや日本は取り返しのつかないところまで来ているのではないだろうか?

線路の保線一筋30年
井川比佐志さんは「一路」と書く

そんな時代だからこそ、この映画「遠い一本の道」が残してくれた記録を、もう一度多くの人に観てもらいたいと思う。


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