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マジパン思い出話第九回 ボス鳥の巣立ち

 年が明け2018年1月13日、再びマジパンが関西へライブに来てくれました。これまでのようなリリイベではなく「POMBASHI WHEEL2018」というライブハウスでのフェスです。ライブの一つ目は、もともとグランドキャバレーだったというバブリーな内装が特徴の味園ユニバース。近くの中華料理店で昼食を食べて会場に入ったら、店にスマホを忘れたことに気がつきました。舌打ちしつつ会場を出たところで、正面から超弩級の美少女が二人歩いてくるではありませんか。なんと、ちょうどひまわリーナの入りに遭遇できたのです。遠くからでも分かる芸能人オーラ、やばし。そして、スマホ忘れた自分、グッジョブ。

 ライブ後、そのまま会場内にて特典会がありました。待っている間、ふと沖口さんと目が合います。するとなんと、僕に向かって無言でカメラポーズをしてくるではありませんか!
 実はこの少し前、沖口さんがアイドルカメラ部に参加することが決まり、カメラ初心者の沖口さんの役に立つようカメラの仕組みや写真を撮るコツなどをまとめてツイートしていたのでした。

 沖口さんとの接触の際は、指が曲がるおじさんだよー、といつも言っていました。とはいえ、名前は名乗っていません。ツーショットも撮っていません。にも関わらず覚えていてくれるとは……。改めて、感謝の気持ちでいっぱいです。アイドル、すげえ。
 またこのころ、ランダムチェキが導入されていました。指名チェキより割安&美少女揃いで外れなしというお得感で、一枚購入。このとき初めて、清水さんとツーショットを撮りました(というより、浅野さん以外と撮るのが初)。
 ライブでは、佐藤さんのマイクの音が出なくなり、急遽沖口さんが自分のマイクを渡して対応したり、この日体調を崩していた沖口さんを、佐藤さんがフォローして水を渡したりと、チームワークの良さが窺えました。ああ、いいグループだなあ、と改めて実感したのを覚えています。この五人でこれからも進んでいくんだろう、と。
 しかし。
 3月16日、佐藤麗奈が、マジカル・パンチラインからの卒業を発表したのです。

 なぜ、佐藤麗奈は卒業を決断したのか。「アイドルはやり尽くした」「二十歳を前にして新しい道へ進むことにした」と本人は口にします。浅野さんはこれを「雛鳥ならぬボス鳥の巣立ち」と表現しました。
 しかし、本当に理由はそれだけなのか。実は一年前のスキャンダルが尾を引いており、FitsのCMが終わったのを待って卒業させたのではないかという疑念は拭えませんでした。また、特に最後の一年は、佐藤さんは腰に不調を抱えていました。省エネダンス、などと言われつつもパフォーマンスをこなしていましたが「新しい腰に取り替えたい」と本人が洩らしていたほどの痛みでした。身体的な限界も卒業を決めた理由のひとつなのかもしれません。
 個人的には、そういった全てが絡み合い「卒業」という決断になったのではないかと思っていますが、結局は推測の域を出ませんので、これ以上の言及は控えます。
 マジカル・パンチラインの新宿ReNYでの3rdワンマンライブが、卒業ライブの舞台となりました。実は、卒業発表前にすでに僕はライブのチケットを購入済みでした。とうとうひとつのライブのためだけに東京遠征を決めていたわけですが、このワンマンライブでなにかある、と虫が知らせたのかもしれません。
 4月8日、とうとうライブ当日がやってきました。詳しい感想は、そのときの呟きを見ていただくほうがいいでしょう。

 腰に痛みを抱えつつも佐藤さんは最後までパフォーマンスをやりきり、まさに五人時代の集大成と言える、華やかさと初々しさを兼ね備えた素晴らしいライブでした。特に言及しておきたいのが、アンコールでしょう。本編で持ち曲をほとんどやったので、アンコールでは佐藤さんチョイスのカバーを三曲歌いました。
 一曲目は、佐藤さん+清水さん、小山さんで、わーすたの「いぬねこ。青春真っ盛り」を。犬猫の耳をつけたひまわリーナの可愛いこと可愛いこと。二人のファンは「さとれな、よくぞこの曲を選んでくれた!」と快哉を送ったことでしょう。本家に負けない小山さんの歌唱力も素晴らしかったです。
 二曲目は、ベイビーレイズJAPANの「JUNP!」を佐藤、浅野、沖口の大人組でカバー。ポニーキャニオンの盟友であり、浅野さんの憧れであり、沖口さんと同じアイドリング!!!落選組が所属しており。そういった背景もあって、前曲とは打って変わり、エモーショナルで熱いパフォーマンスでした。
 最後に五人全員でカバーしたのが、アイドリング!!!の「さくらサンキュー」です。アイドリング!!!における卒業ソングで、今まで何人のメンバーをこの名曲で見送ってきたか。佐藤麗奈が、マジカル・パンチラインが歌う「さくらサンキュー」とともに卒業していく。長く応援しているファンほど、その光景に胸が熱くなったことでしょう(かくいう自分も、だらだら涙を流していました)。可愛い→エモい→名曲というバランスのよさ、ファンの気持ちがよく分かったチョイス。それこそ佐藤麗奈の佐藤麗奈たるゆえんでしょう。
 
 最後の挨拶にて、小山さんは堪えきれず、号泣しました。佐藤さんは、自分の「アイドル」の後継者として、小山さんを育てている節がありました。それを彼女も感じ取っていたのかもしれません。清水さんは、髪をばっさり切りショートボブでこの舞台に臨みました。きっと、彼女なりの決意だったのでしょう。浅野さんの「麗奈ちゃんが卒業しても、マジカル・パンチラインは佐藤麗奈が作ったグループに変わりはない」というコメントは、この日一番の名言だったのではないでしょうか。東京に一人で上京し、友人がおらず、当時は佐藤さんが唯一の親友であった沖口さんの「マジパンは卒業しても、友人として、優奈は麗奈のそばを離れるつもりはないから」というセリフは、「重すぎるカップルかよ!」と会場で笑いが起きました。

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 それぞれのメッセージのあと、最後は「パレードは続く」で締めます。まさに「マジカル・パンチラインのパレードはまだまだ続く」という思いのこもった一曲でした。

 ライブ後は、物販です。これが最後ということで、会場の外まで続くような長蛇の列ができました。僕は、浅野さん、佐藤さんとツーショットを撮り、小山さん、清水さん、沖口さんと個別握手で言葉を交わしました。こちらが、最初にして最後になった、佐藤さんとのツーショットです。

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 たっぷり二時間ライブをしたあと、特典会はなんと三時間を越えました。にもかかわらず、彼女らは最後まで笑顔でファンたちに対応していました。こんなにもファンを楽しませてくれるなんて、なんと素晴らしい「アイドル」なんだ、と感銘を覚えました。このとき感じた呟きが、こちらです。

 こうして、佐藤麗奈はマジカル・パンチラインを卒業しました。最近では佐藤さん在籍時代を知らない人も増えた(今やそれが過半数かもしれません)のですが、浅野さんが口にした通り「マジパンを作ったのが麗奈ちゃんなのは変わらない事実」でもあります。
 佐藤さんがマジカル・パンチラインにおいて果たした役割は非常に大きく、今もグループの特色として至るところに残っていると僕は思います。そのひとつは「アイドルらしさ」でしょう。
 先に述べたとおり、小山さんはアイドルとして、佐藤さんから大きな影響を受けていました。アイドリング!!!時代、佐藤さんは、握手会が1部、2部、3部と続くときは、必ず髪形を変えていました。後にゴールデンウィークにイベントが続いたとき、小山さんは全日ちがう髪型をしていたのです。ああ、受け継がれているな、と感じました。
 また、結成からファーストアルバムのリリイベが終わるまで、佐藤さんは自分以外の四人の髪型を固定しました。特に浅野さんは三つ編みに抵抗があったようですが、およそ半年間、すべてのイベントを同じ髪型で臨んだのです。これは、メンバーの個性を分かりやすくし、ファンに覚えてもらうためでした。佐藤さんがデザインした衣装も、常にメンバーカラーがはっきりしていました。「自分がやりたいこと」ではなく「ファンが望むこと」が分かっていたからこその手法でしょう。
 そういう意味では「ファン対応」こそ、佐藤さんから受け継がれたもっとも大きい美点なのかもしれません。握手会でどういう話をすればいいのか、ファンの名前を覚えるコツなど、佐藤さんは丁寧にメンバーに伝えていました。「ファン対応のよさ」は、今も誇れるマジパンの大きな武器のひとつです。
 それに加え、バラエティーでのトークスキルも、マジラジやマジテレを通じ大いに鍛えられました。いくつものアイドルのライブを見ていますが、マジパンほどMCのテンポがよく、ファンを飽きさせないトークができるアイドルはまずいません。沖口さんが滑れば周りがつっこみ、しゃべっていないメンバーがいれば話を振り。そういう連係プレーの見事さは、目立ちませんがマジパンの優れた点です。とにかく物怖じせずしゃべる、というバラエティー力(というより、タレント力と表現するほうがいいかもしれません)は、その後の「火曜the night」や「テレビで中国語」などでの活躍につながりました。
 懐古厨になるつもりはありません。佐藤麗奈の存在を知らず、今のマジカル・パンチラインを楽しむのは大いに結構なことです。しかし、我々初期からのファンは、今でも時折細かな部分に「佐藤麗奈の影」を見つけ、うれしい気持ちになります。
 歴史とは、積み重なっていくものです。どれだけ新しい時間が積みあがろうと、それはその下に土台があったからです。最新のマジカル・パンチラインを楽しみつつ、ほんの少し、その土台となったものにも思いをはせてほしい。きっと、そのほうがより今のマジカル・パンチラインを楽しめるから。より大きな感情をマジカル・パンチラインに対して抱けるから。
 佐藤さんのことだけでなく、それが、今回この記事を書いている動機でもあります。

 結成から二年二ヶ月、マジカル・パンチラインの五人時代は終わりを告げました。ボス鳥は、グループのリーダーとして、絶対的エースとして、実質プロデューサーとして、メンバーの手本として、広告塔として、矢面に立ち、責任を引き受け、メンバーを指導し、グループを支えてきました。2018年4月8日、大きすぎる役割を担っていたボス鳥は巣から旅立ち、ここから四羽のひな鳥たちの冒険が始まります。
 しかしその道のりは、このとき想像していた以上に厳しく、苦難に満ちたものだったのです。

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