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#ひまコレ 冒頭書いてみたよこんな感じ?


「タイトル未定」


 東京へやってきたのは四度目だ。とはいっても、一度目は小学生のときで記憶はほとんどなく、二度目は中学校の修学旅行で東京ディズニーランドに行っただけ(ディズニーランドは東京じゃない、なんて言う人がいたが、冠に「東京」とついているのだから東京にカウントしていいはずだ)。
 三度目はほんの一ヶ月ほど前、高校受験のとき。母親と一緒に飛行機で羽田空港へ降り立ち、そこからタクシーでまっすぐ宿に向かった。
 というわけで、一人で東京へ来るのは初めてである。加えて、今回は新幹線だ。「東京駅」という場所に降り立ったのも初めてだ。
 というわけで、僕は今、東京駅の構内で一歩も動けず、立ち尽くしている。
「どうなってるんだ、これ……」
 とてつもなく人が多い。火曜日昼間なのにこんなに人がいるなんて、もしかして東京だけは今日は祝日なのだろうか。そもそも降り立ったホームが「十六番線」というのが意味不明だ。ホームなんてせいぜい四番までしかないはずだろう。それとも東京駅ならまさか十六番まであるのか。事前に調べたところによれば、このあと「JR中央線」に乗りかえればいいはずなのだが、それはどこだ。案内が多すぎて目がちかちかする。改札を一度出なければいけないのか、それとも出てはいけないのか。だいたい自分は今、どっちの方角を向いて立っているのか。
 急に後ろからどんとぶつかられた。いったい何度目だろう。大きなリュックを担いでいるのがいけないのかもしれない。そういえば、僕のようにしっかりリュックを両肩にかけている人をほとんど見ない。
 誰かに道を聞きたくても、みんなせかせか歩いている。駅員に聞けば、と思ったものの、列車遅れのアナウンスがあった影響か、改札のところに人が並んでいる。正直、その波をかき分けて尋ねる勇気はない。
 よし、と覚悟を決めた。
 こうして東京へ出てくるのだって、家族の反対を押し切り、自分自身の意志で決めたじゃないか。だったら東京での第一歩も、同じようにしよう。
 分からないならとにかく行ってみるか、と僕は、八重洲口(そもそも読み方が分からない)と書かれた改札から、駅の外へ出る。
 ……すぐ横に「中央線 一番線二番線」と書かれた反対向きの矢印があることにも気づかずに。
『十四時に○○駅の西口改札でお待ちしています』
 スマホの時計を見る。あと一駅で着くとはいえ、時間はとうとう十四時一分を指してしまった。待ち合わせの二十分前に着いて駅の周りを先に散策しようと思っていたのに。
「はあ」
 電車のドアにもたれ僕はため息を吐く。最悪だ。東京の高校に進学したい、と進路を決めたとき、僕は独り暮らしをするつもりだった。料理はできないし洗濯の仕方も分からないが、それでもきっと今の生活よりはマシだろう。だけどそれは不安だと両親は反対をした。結果、母方の叔父さんの奥さんの親友の弟、というとてつもなく遠い縁の人が高校の近くで下宿の管理人をしていることが分かり、そこならば、という話でまとまった。もちろん、一度も顔を合わせたことがない。その人と上手くやっていけなければ、きっと東京での生活は大変になってしまうだろう。なのに、しょっぱなから待ち合わせに遅れてしまうなんて。電話をしようにも、電車の中から掛けるわけにもいかない。
 電車は結局、十四時七分に駅に着いた。寄りかかっていたのとは反対のドアが開き、僕は走る。ちょうど目の前に改札があって、よし、と切符を出したところで僕は足を止めた。『東口改札』と書いてあるじゃないか、危ない危ない、昔から「二択で必ず間違うやつ」とよく言われていた。高校生になるからには、もうそう呼ばせないぞ。
 階段を小走りで降り、反対側のホームへ行った。西口改札、まちがいない。慎重に切符を改札に潜らせ、外に出た。駅前は小さなロータリーになっていて、左側に切符売り場がある。僕は左右をきょろきょろと見回したが、それらしい人はいない。
「――君?」
 声を掛けられて振り向き、びっくりした。黒いズボンに糊の効いた白いシャツ、黒のジャケット。ネクタイを締めていないこと、足元がスニーカーなことがビジネスマンらしくないぐらいで、服装はごく当たり前の会社員みたいな若い男性が立っていた。
 ――会社勤めができない人らしくってね、それで半分ニートみたいに下宿の管理人をしているんですって。
 そう聞かされていたから、正直、もっととっつきにくい人を想像していた。だが、今目の前にいる男性は、ふわっとした黒髪がかっこいいし体型だってスリムだ。その実態をまるで知らない、という前提で言うけれど、ホストです、と言われても僕は納得しただろう。
「もしかして、――さんですか?」
 はい、と――さんはうなずく。やっぱりこの人が、管理人らしい。
「遅くなってすみません」
「いいえ、一〇分ぐらいちっとも構いませんよ。東京の電車はよく遅れますから」
 声音が優しくてほっとする。こういう人となら、仲良くやっていけそうだ。
「それにしても、よく僕だって分かりましたね」
 僕は疑問を口にする。向こうだってこっちの顔は知らないはずだ。その問いに――さんは「切符」と答えた。
「東京の人は、ほとんどICカードを使うんです。あなたぐらいの年齢なら、一〇〇パーセント。でもあなたは、切符を使って改札を出た。東京へ出てきたばかりで、まだカードを持っていないんだろうな、と」
 まったくの図星だ。すると――さんは「あると便利ですよ、ICカード」と言って、商店街のほうに向かって歩き出す。
「ようこそ、――荘へ。案内します。ここから歩いて五分ぐらいですから」


ー続く(はず)ー

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