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マジパン思い出話第六回 佐藤麗奈という存在

※本稿は、当時の炎上事件について、かなり踏み込んだ内容になっています。できるだけ客観的に取り上げることを心がけていますが、ご不快に思われる方がいらっしゃったら大変申し訳ございません。

 順調そのもののマジカル・パンチラインの歩みに初めて影が差したのは、前稿にて紹介した様々な展開の真っ最中、2017年1月12日のことでした。
 佐藤麗奈の裏垢流出。そんな記事がまとめサイトに掲載され、拡散してしまったのです。
 以前から佐藤さんには妙なアンチアカウントが粘着していて、裏垢を匂わせるようなツイートを繰り返していました。それが、ただの裏アカウントであれば、そこまで炎上しなかったでしょう。しかしそこには、本人のものと推察されるアイコスが写っていました。未成年喫煙ではないか、と大きな問題になったのです。
 それに対し、運営がとったのは、逃げずに堂々と説明する、という方法でした。以下が、当時の運営がそれに対し発表した内容です。

 裏アカウントは事実であること、アイコスは母親のものであること。それを認めたうえで佐藤さん本人も謝罪し、あっさり炎上は鎮火したように思えました。さすが我らがマジパン運営、よくぞ誠実に対処した、とファンは喝采を送ったものです。
 しかし、結果としてこれは、最悪の判断となりました。
 2月11日、さらなる流出が起こり、再び炎上してしまったのです。
 未成年飲酒や喫煙を匂わせるツイートに加え、Rの法則の後輩への文句、出演中のめざましテレビへの愚痴など、その内容は生々しいものでした。ずっと粘着していた「さとれなアンチ」は、諦めていなかったのです。いやむしろ、前回見事に鎮火されたのを根に持ち、逆襲の機会を窺っていたのでしょう。
 しかもそれは、最悪なタイミングを狙ったものでした。FitsのCMが始まり、定期公演も真っ最中。佐藤さんの責任を問い、脱退や謹慎などの措置をとることはできません。かといって、一度裏アカウントを認めた以上、根も葉もないものと全否定することも難しい。炎上から逃げずに認めるという堂々としたやり方が、まちがっていたとは思いません。しかしそれが結果として、強く自らの身を縛ることになってしまったのです。
 佐藤さんは、その直後にあったAbemaの番組を「体調不良」で欠席しました。また、よりにもよって結成一周年記念として行われたAKIBAカルチャーズ劇場での定期公演も同じく体調不良で出ることができませんでした。
 アイドル経験一年の四人で、どうパフォーマンスをするのか。結果として選択されたのは、佐藤さんのパートを誰も歌わず、四人がそれぞれのパートを全力でパフォーマンスする、というものでした。マジパンのライブは口パクでないのはもちろん被せもなしなので、佐藤さんのパートはただ伴奏だけが流れます。それは「今ここにはいないけれど、たしかにリーダーはいる」という、四人の悲愴な覚悟であったようにも思います。
 このとき、恐ろしいほどの覚醒をみせたのが、小山リーナでした。
 マジカル・パンチラインは5人ですから、半々でパートが分かれるときは2:3になります。基本的に2を担当するのは、ベテランの佐藤さん、四人の中でもっとも歌が上手い小山さんでした。つまり、佐藤さんがいないため、半々のパートがそのまま小山ソロになったのです。
 しかし小山さんは、それらをすべて、ひとつのミスもなく見事に歌いこなしました。中には、後の四人時代になってもそのまま小山さんのソロパートとなった箇所もあるほどです(「万理一空 Rising Fire!」など)。
 これは今でも変わらないことですが、小山さんは歌手としては、堅実なタイプです。ダンスの体力や最後までクオリティーを落とさないことを念頭に、8~9割の力で丁寧に歌います。安全マージンをしっかりとった堅実な運転をするタイプ、と言えるでしょう。
 しかし唯一、このときだけはちがいました。安全マージンなど知ったこっちゃないとばかりに全力でアクセルを踏み、にも関わらずノーミスで走りきる。そのパフォーマンスには、凄みすらありました。それでいて、ダンスはキレがあり、あのビジュアルです。そこでふと、我に返ります。彼女、十三歳だよな、と。
 彼女が歌姫として覚醒したターニングポイントが、あのときのライブであることは疑いの余地がありません。未だにあの日を越えるエモーショナルなライブは見たことがない、と言えるほどです。小山さんだけに限らず、佐藤さんの、マジパンのピンチは、結果として他の四人の成長を促したとも言えるでしょう。

 以上が、当時起こった事実関係をそのまま並べたものです。以下は、あくまで筆者による推測である、と断ったうえで、実際になにが起こったのか、事件をどう捉えるべきかについて考察していこうと思います。
 まず、裏アカウントについて。これは事実であると認めざるをえません。個人的に、アイドルがプライベートアカウントを持つことは否定しませんし、そこに多少の愚痴があるのは許容範囲でしょう。しかし、飲酒・喫煙疑惑はまずかった。明確に吸っていた、飲んでいた証拠があるわけではありませんが、かなり黒に近いグレー、と言わざるをえないでしょう。
 元来、BOXはその手のスキャンダルに非常に厳しい事務所です。その少し前、ハコイリムスメの菅沼もにかが、お酒の入ったビニール袋を持って同年代のタレントと歩いているところをフライデーされ、謹慎からの脱退となりました。BOXとしては、佐藤さんにも同様の措置をとるつもりだったのかもしれません。しかし、Fitsという大きな仕事に穴を空けるわけにはいかなかった、というのが実情ではないでしょうか。
 とはいえ、ここで擁護として一点だけ強調しておきたいのは「ファンへの悪口」「メンバーへの悪口」は一切なかった、ということです。そういうものがあれば執拗なさとれなアンチが黙っているはずがありませんから、本当になかったのでしょう。裏垢ですら、悪く言っていなかった。その事実は、メンバーやファンにとって大きな救いとなったことでしょう。
 また、二度に渡る炎上で、佐藤さんは心身ともに非常に大きなダメージを受けました。体調不良による休養は口実である反面、実際にステージに立てる状態ではなかったのもたしかです。一度目の炎上の直後のトークショーで、一度はステージに上がるも涙がこらえ切れず袖に下がってしまう、ということもあったと記憶しています。
 そこまで大きなダメージを受けた理由は、信頼している友人に裏切られたから、ではないでしょうか。社交的に見えて実際は他人に心を開くことの少ない彼女は、本当に信頼している友人だけにアカウントのフォローを許していたのでしょう。それが、何度アカウントを作り直しても流出してしまった。信頼していると思っていた誰かが、執拗に自分を攻撃し続ける。十代の女性にとって、非常に大きなショックであることは言うまでもありません。
 さらにこの事件は、マジパンの運営にも微妙な変化をもたらしました。一度目の流出のさい、おそらくシマムラ氏が主導して、佐藤さんから話を聞き、あの堂々とした対応を選択したのだと思います。しかしそれは、第二の流出という最悪な結果を招いてしまった。おそらくその責任なのでしょう、しばらくシマムラ氏はマジパンの担当を外されていたようです。
 また、定期公演の最終回のタイトルは「レナとアスガールのローブ」でした。あくまで推測ですが、この定期公演で新衣装及び次のリリースの発表を予定していたのではないでしょうか。しかしそれも、大幅にずれ込んでしまうこととなりました。
 スキャンダル以降、ポニーキャニオンがマジカル・パンチラインにかける熱量が、微妙に翳ったような気がしています。それが後に、ポニーキャニオンとの契約終了に繋がった面もあるのかもしれません。

 佐藤麗奈という存在について、思うことを。
 彼女がいなければ、マジカル・パンチラインは存在しませんでした。しかし、彼女の脇の甘さが、快調に走っていたグループの足を挫く石になったのもまた事実です。功罪両面において大きな影響力を及ぼしてしまった、というべきでしょうか。
 しかし、それでも僕は、彼女のことが憎めません。
 あのスキャンダルさえなければもっと売れていたのでは、という思いはあります。しかし僕はどうしても、彼女のことを批難する気にはなれません。理と情の両方から、その理由を考えてみようと思います。
 佐藤麗奈はたしかに裏アカウントを持っていましたし、スキャンダル以前にもちらほら悪い噂も聞こえてきていました。しかし、逆に言えばその「なにかやっていそうな怪しい感じ」もまた、彼女の魅力のひとつであったのです。
 ここまでマジパンの魅力を語ってきた中で、大ベテラン佐藤麗奈とフレッシュな新メンバーのギャップ、というワードが何度か出てきました。佐藤麗奈の、ひとつまちがえばスキャンダルを起こしかねない怪しげな魅力は、他にはないマジパンの大きな武器だったのです。佐藤麗奈が優等生であれば、スキャンダルはなかったでしょう。しかし同時に、もっとつまらないグループになっていたのではないでしょうか。ホームランバッターにとっての三振と同じようなもので、それはトレードオフの関係にあったと言えます。
 ホームランか、三振か。フルスイングした結果、三振のほうが先に来てしまった。しかも、致命的な場面で。それを僕は「もっと無難なスイングをすべきだった」と責める気にはなれません。なぜなら、僕は彼女の(マジパンの)豪快なフルスイングに魅力を覚え、応援していたのですから。怪しげな魅力に惹かれてファンになったのに、実際に怪しいことをしていたからファンを辞める、というのは、筋ではない。あくまで個人的な見解ですが、僕はそう思っています。
 ただ、そういう「理」での説明はあくまで付け足しで、本分は「情」のほうかもしれません。
 アイドリング!!!において彼女は「わがままな末っ子キャラ」でした。圧倒的なアイドル性とビジュアルを持つ反面、歌割が少ないと嘆き、衣装はピンクがいいと先輩に取り替えてもらい、レッスンがしんどいと愚痴を言い。正直に言って、ほとんどすべての!!!ファンが思ったことでしょう。彼女がリーダーなんて不安だ、と。
 しかし彼女は、そういう僕らの予想を裏切り、見事にリーダー役を務め上げたのです。
 アイドリング!!!はよくも悪くも体育会系なところがあり、意外と上下関係がしっかりしています。先輩が後輩を指導し、新たな後輩が入ればそれが代替わりしていく。彼女はアイドリング!!!の中ではもっとも後輩で、下が加入することなく解散を迎えてしまいましたが、その美風はマジパンという新たなグループで生かされることになりました。
 そうは言っても、彼女は後輩をバチバチ指導するタイプではありません。見守ってくれる先輩も一緒に叱ってくれる同期もいません。特に中学生組に対しては、どう接していいか分からなかったのでしょう。最初のころはレッスンもなあなあだったそうです。しかし途中で、これではいけないと思い、メンバーをきつく叱ったそうです。
 そのとき、体の後ろに回していた手が震えていた、と彼女は言います。
 メンバーはこぞって「麗奈ちゃんは目がいくつもある、よく見てくれる」「まちがったところは叱ってくれるし頑張ったところは褒めてくれる」と言いました。沖口さんは親友として彼女を頼り、浅野さんはのちに「辛いときに電話で相談に乗ってくれた」と語っています。
 結成から半年ほど経ったころだったでしょうか。インスタグラムに投稿した彼女の言葉が印象に残っています。曰く、グループ内であれば推し変しても構わない、と。当時のマジパンは、さとれなファンが圧倒的多数でした。しかし、それではグループとして上に行けない。そのためであれば、自分のファンが減ってもいいから他のメンバーのファンが増えてほしい、と。
 そこに、アイドリング!!!ファンが知っている、わがまま娘のさとれなはいませんでした。
 好きなことを頑張る。ある意味それは、当然のことなんです。好きだから、頑張れるに決まっている。
 本当にえらいのは、好きなことを実現するために、好きではないことを頑張る、ではないでしょうか。
 後輩を叱るのも、自分のファンが推し変するのも、目立つ場面を他のメンバーに譲るのも、明らかに彼女の「好きなこと」ではありません。しかし彼女は、苦手であるそれらを、めちゃくちゃ頑張っていた。
 そういう人を否定することは、僕にはできません。多少のヤンチャはあったでしょう。脇の甘さも欠点です。しかし、十代の少女が欠点を完璧になくすことができるとも思っていません。
 メンバーやファンの前で時折見せる、くしゃっとした油断した笑顔が好きでした。推しというわけではありません。しかし彼女はやっぱり、僕にとって特別なアイドルなのでしょう。

 およそ一ヶ月の休養を経て、佐藤麗奈はマジカル・パンチラインに復帰しました。その後はスキャンダルもなく、元の五人でこれまでと変わらない航海へと再び漕ぎ出したように見えましたが、そこに一抹の影が付きまとうようになってしまったのは否定できません。

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