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マジカル・パンチライン 6周年ライブ@新宿ReNY/ライブレポート

 ――アイドル、ってなんだろうな。
 ライブを見ながら、そんな疑問が脳裏に浮かびました。
 上手い歌を聞きたいならミュージシャンのライブに行くべきだし、音楽を楽しむなら生演奏のライブしかありえない。ダンスの美しさでも、K-POPやダンスグループには敵いません。
 じゃあ、アイドルでしか楽しめないもの、アイドルが他より勝っているものはいったいなんなんだろう。なぜ、そんな問いが浮かんだのか。それは、今日のマジパンの――いや、新体制以降ずっと――ライブが「アイドルど真ん中」だから、じゃないでしょうか。
 アイドルど真ん中のライブを今、自分は楽しんでいる。じゃあその「楽しい」の要因はなんなんだろうな。そんな風に思考が転がっていったのでしょう。

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 2022年、2月23日。グループ結成から6年、新体制になって丸1年という記念の日に、新宿ReNYにて催されたワンマンライブ。
 「キラハピ」「渚のサーフライダー」「あいわなびー」というライブの幕開けとなった三曲は、まさに「アイドルど真ん中」としか言いようがない曲でした。一年前からの新体制において初めて披露された曲であり、最初のデジタルシングルであり、プロデューサーを兼任することとなった沖口さんが掲げたグループコンセプト「キラハピ」というワードを冠した曲を一曲目に持ってくるのは、ベタといえばベタ。でも、期待を裏切らず王道で攻める姿勢こそ、アイドルであり、マジカル・パンチラインなのでしょう。

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 そういう意味で、続くブロックはそういう「アイドルの定番」を破る――とまでは言わないまでも、境界線をつんつんとつつくような四曲となりました。
 一曲目「Magical Zombie Night~いたずらしちゃうぞ~」はともかくも、ボカロっぽい、捻ったアレンジ、社会風刺的な歌詞の「やみー」、ファンキーなアレンジと遊び心たっぷりのステージングが楽しい「Spotlight」、しっとりとした大人の魅力を見せるパワーバラード「カルミア」
 王道だから、といって王道の曲だけを並べるのは、飽きてしまうもの。適度に毛色の異なる楽曲を挟むことで、より王道の良さが際立つ。真ん中のブロックにそういう楽曲を持ってくるのはアルバムの構成と同じだな――というこの文章を書いている今「あっ、アルバムの曲順そのままなのか」ということに気がつきました(撮りにくい曲が撮影可能ブロックに持って来られちゃったな、とライブ中は思っていたものの、こういう構成なら致し方ないか、と納得)。

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 というわけで王道ソングに戻り「くっりっすっまっすっ」「メロディーズ」とライブは続いていきます。そして、アルバムリード曲である「Shiny Shoes」。「キラハピ」とともに披露された曲は、「キラハピ」と並び今回のアルバムを象徴する曲となりました。だって、笑顔いっぱいで四方八方にキラキラの指差しレスを送りまくるなんて、アイドルそのものでしょう? そう考えると、昨年の五月にこの曲が披露されてから、すでにアルバムの全体像は思い描かれていたのだな、ということが分かります。
 沖口さんが、一プレイヤーに留まらず、プロデューサーとして、表現者として「これがアイドルだ!」と考えるものを詰め込んだのが、アルバム「キラハピ☆THE WORLD」であり、今回のライブなのだと。ももいろクローバーZに憧れた幼少期、アイドリング!!!のオーディションの最終選考まで残りながら落選した中学生時代、最後のチャンスと決めてマジパンのオーディションを受け、家族の元を離れ上京した十八歳の春。そして、それから六年間、アイドルとして積んだ様々な経験。
 それらを経て、いや、経たからこそたどり着いたのがこの「キラハピ」で満たされた世界なんだな、やっぱりアイドルは、ストーリーなんだ――そんなライブの前半を締めたのが、初めて沖口優奈が作詞に携わった「ずっと…」です。

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 率直に言って、歌詞として優れているわけではありません。タイトルも凡庸です。でも、いいんです。だってこれは、沖口さんの歌だから。いいとか悪いとかではないんです。誰よりも沖口さんが、自分の思いを込めて歌える歌。このアルバムのラストだからこそ、伝わる思い。

 ――いつかこの歌が思い出に変わる日まで

 その言葉は、いつか来る終わりを予感させます。しかし同時に「ずっと」とも歌っている。それは逆説的に「終わりなんて来させやしない、ずっと歌い続ける、アイドルでい続ける」という沖口さんの思いを表しているんじゃないかな、と感じました。
 振りは少なめで、しっかり歌を届けます。最後、ららら、と歌うメンバーをバックに、沖口さんはファンへの感謝と七年目への意欲を語りました。そういう歌なんだな、ということが伝わったパフォーマンスでした。

 ここでメンバーは、一度舞台袖へはけます。ブリッジとして、結成以来の楽曲とともに、グループの歴史を語る写真がめくられていきます。
 分かるわけですよ、全部。僕には。あああれはどこそこへ遠征したときのだ、あの写真はあのフェスのときのだ、と。
 音楽が止まります。
 歴代の懐かしい衣装を見にまとったメンバーが舞台袖から飛び出してきます。
 その瞬間、流れ出す「もう一度」のイントロ。
 正直に言いましょう。「ずっと…」はいいステージでした。感動しました。が「中には泣いているファンもいるだろうなあ」などと、一歩引いた位置から見ていたのも事実です。
 でもね。あれは、ずるい。このタイミングの「もう一度」は、ファンの涙腺を刺激するどころか、鷲掴みにして100点満点を鳴らす鐘みたいにぐわんぐわん揺らしにきてる。今日この日のために一年間披露してこなかったのだとすれば、その演出を考えた誰かに「参りました、ごめんなさい」と白旗をあげるしかない。
 「もう一度」の最大の見せ場と言えば、ラストの「もう一度」と叫ぶロングトーン。あれは、誰が引き継ぐのか。歌唱難易度の高い小山さんのパートは、宇佐美さんが引き継ぐことが多いのが現状です。しかし、その宇佐美さんは一つ前のパートを歌っている。
 そうか、沖口さんか、と。

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 純粋に、声の伸びや声量という意味では、劣るかもしれません。でも、いいんです。あれを歌うのにもっとも必要なものは「積み重ねた感情の重さ」なんです。掠れたって、途切れたっていい。沖口さんにしか出せない感情の重さが乗っかっていれば、それが正解なんだ、と。
 「もう一度」のロングトーンは、前体制が残した「もっとも重い宿題」だったように思います。新体制になって一年、その荷を解くことができた瞬間だったのではないでしょうか。いやそれは、アイドル側ではなくファン側が、かもしれません。沖口さんがあのロングトーンを聞かせたことによって、多くのファンが心に重く残していた前体制への思いを「思い出」の箱の中に移すことができたのではないか。そんな気がしてなりません。
 もう一度。意外と挫折の多いマジカル・パンチラインですから「いったい何度目の『もう一度』なんだ」と思われるかもしれません。でも、もう一度、ここからスタートする。そんな決意が感じられるステージでした。

 長くなったので、ここからは手短にまとめましょう。「もう一度」から立て続けに流れる「今日がまだ蒼くても」のなんとエモーショナルなこと。やはり、この二曲は僕にとって特別な曲なのでしょう。
 そしてそこから、宇佐美さんによるウクレレ伴奏の、アコースティックヴァージョンの「Melty kiss」へ。前体制の楽曲と新体制でのチャレンジが合わさった、素敵なステージでした(沖口さんのタンバリンも、可愛らしくてよかった)

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 さらにチャレンジとして、益田さんが中学時代以来の人前でのピアノ演奏となった「ハルイロ」。その姿勢と沖口さんの言葉に「アイドルとはチャレンジするものなんだ」と気づかされます。

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 そうは言ってもまだまだ未熟でレッスンが必要ですから、というわけで「小悪魔Lesson1・2・3♪」。アイドルの初々しさがコミカルに表現された良曲だな、と実感。で、この流れならまずまちがいなく次はこれ、という予感が当たった「108煩悩bomb」。CDの音源としても、とても好きな曲です。しかし、実際のパフォーマンスは原曲とはまるで印象が異なります。バックの演奏が同じでこうも変わるなんて、滅多にあることではありません。とにかく、メンバーのステージングが楽しそう。聞いている側も自然と体が動きます。

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 そして、こちらもCD音源以上にエモーショナルなパフォーマンスを見せる「名もなきヒーロー」。やはり、パフォーマンスを重ねるごとに「可愛らしい良曲」から「メンバーの絆を再確認させる重要曲」へと進化した「これから、私!」で本編は締め。
 アンコールは、今回のライブのグッズTシャツをアレンジした衣装で登場し「やっぱりこれしかないよね」というマジパンにとって大事な曲「ONE」で拳を振ります。
 と、ここで疑問が浮かびました。ラストに持ってきそうな曲はあらかたやってしまったが、このあとなにで締めるんだ?と。
 その答えは「ぱーりないと!!!」でした。バラードでしっとり締めるのではなく、エモーショナルに熱くなるのでもなく、タオル曲で、みんなで楽しくぶんぶん振り回して、終わる。

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 うん、それこそが今、沖口さんが選んだ、マジパンらしさ――アイドルらしさ、なんだな、と。
 今日のライブで、ステージで歌い、踊り、演奏し、MCではしゃぐ彼女たちは、誰よりも楽しそうでした。「ずっと…」の静かな決意、「もう一度」の熱い思いを挟みつつも、とにかく誰よりもメンバー自身が楽しそうにしている、だからこっちも釣られて楽しくなる、そんなライブだったな、と。
 というわけで、冒頭の問いに戻ります。アイドルとはなにか。

 彼女たちの強みは「誰よりもステージを楽しむこと」なんじゃないだろうか。歌、バンド、演劇、芸、トーク――この世に数多あるエンターテイメントの中で、彼女たちほど、ステージで笑顔を見せるパフォーマーはいないのではないか。
 それを見て、我々ファンも、心から楽しくなり、満足する。それが、沖口プロデューサーが掲げる「キラハピ」の世界なのかもしれない。

 今日のライブは、そんなグループのコンセプトが100%体現されたライブであったと言えるでしょう。

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 各メンバーで印象に残ったところ、短評などを少し。
 沖口さん。上で散々語りましたが「もう一度」のシャウトが全て。彼女がこれから、あのパートをどう育てていくのかが、楽しみでなりません。プロデューサーとして重責を担いながら、一プレイヤーとしてもキラキラ輝きを増していく姿は、尊敬の一言。

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 吉澤さん。すっかり歌唱面をリードするようになり、落ちサビも堂々と歌いこなすように。それでいて、上記の「ステージを楽しむ」という面も、率先して体現しています。これからもどんどん、ステージではっちゃけちゃってください。

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 益田さん。歌なしでピアノ伴奏に専念!という姿に、逆に負けず嫌いの精神が見えて好感。歌声も太くなり、高音域でいいアクセントだったのが、今日のライブでは中音域でもきれいに出ていて「おっ」と驚きました。表情や動きもコミカルになってきて、こちらもどんどん開放してほしいところ。

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 山本さん。相変わらず、くるくる変わる表情と手足の長さを生かした大きいパフォーマンスは素晴らしい。歌唱でも「メロディーズ」の落ちサビは、今日は特によかった。低~中音域はしっかり声が出るので、マジパンの歌唱の「幹」として、支えていける存在になってほしい。

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 宇佐美さん。ウクレレは流石、歌唱力も安定。楽しそうな元気いっぱいのステージも○。表情もよくなった。それでもあえて注文をつけるとしたら、歌でしょう。たしかに上手い、でももっとできるんじゃないか、と。他の誰でもない「宇佐美空来の歌」で客を呼べる存在になってほしい。応援しています。

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 長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。ライブを見た方がより深くライブの思い出に浸る助けになれば幸い。また、ライブを見ていない方が、これをきっかけに「マジカル・パンチラインのライブに行ってみたいな」と思っていただければ、これに勝る幸せはありません。

※なお、本文中にて使用した写真は、自分が撮影した数枚のほか、前ちゃんさん(@maenono01)、たぬきちさん(@tanuki_eto13th)からご提供いただきました。ありがとうございます。

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