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『命の循環』

さくらは、27歳のフードコーディネーターです。コーディネートだけでなく、料理もできる彼女の仕事は素晴らしく、ひっぱりだこです。

仕事着は和装が多く、今日も桜色の着物と割烹着にしました。さくらは、ちいさな頃に両親を亡くし、山々に囲まれて林業が盛んな山吹村で、優しい祖父母に育てられました。おばあちゃんはいつでも、四季折々の自然の恵を上手に使って、とても美味しい料理を作ってくれていました。さくらはおばあちゃんの手伝いをしながら、一緒に料理するのも大好きでした。

そんなさくらは、導かれるように、村を出て、食の道に進みます。料理の素材にこだわり、その良さを引き出し、いかに美味しそうに見せるかを考えて演出するフードコーディネーターの仕事は、天職だと感じるほどに楽しんでいました。出張の多い仕事のため、交通の便のよい都心のスタイリッシュなマンションで一人暮らしをしているせいでしょうか、今ではすっかり都会のお嬢さんです。

順調に経験を積んできたさくらでしたが、ある日の仕事で、ふと感じます。「何か足りないような気がする」と。それが何なのかをさぐるため、さくらは、人参に意識を向けて、人参の成長をたどってみました。豊かな大地に芽をだし、太陽の光をいっぱい浴びて、地中の栄養をいただき、どんどん大きくなります。茎が伸び、葉っぱは増え続け、どんどん栄養を吸収して、地中ではすくすくとおいしい人参が育ってきました。

さくらははっとします。「一生懸命はたらいいてくれた人参の葉を、長い間捨てていたわ!」そして、おばあちゃんのお料理は、葉っぱも皮も根も、どんな食材も無駄なく料理していたことも思い出したのです。さらには、料理の勉強を始めたころは、捨てる部分の多さが辛かったのに、次第に気にならなくなっている自分の変化にも気づきました。

さくらは、あらためて食材たちに感謝するとともに、たまたま残されていた、新鮮な人参の葉を調理して加え、今日のテーブルを完成させました。

この日以降、さくらは、自分たちが命をつなぐために頂いている食材は、全て命であり、多くの命に生かされていることを伝えてゆきたいと、野菜の葉っぱ、皮や根元部分など、食材を無駄なく利用した料理を積極的に提案し、発信するようになりました。

すると、そこに注目する人びとが増え、食べて健康になる人が増え、命の循環が日常生活の中で行われるようになっていき、社会が浄化されていきました。

おしまい 

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