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群れの中の1を思う

前野ウルド浩太郎著『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書 2017年)を読みました。

現在アフリカでは、大量発生したバッタに農作物を食い荒らされる蝗害が深刻化しているそうです。
今年はインドやパキスタンにもバッタが襲来しており、駆除に追われているというネットニュースの記事を読みました。1キロ四方の成虫の数は8,000万匹に及ぶそうで、多すぎてあまり想像がつきません。

私は河川敷でぼーっとすることが好きで、最近も川の近くに座って空を眺めていました。
川の流れに逆らって海風が吹いていたのですが、その波の中に白く光っている場所を数か所見つけました。目を凝らして見てみましたが、魚の群れのようです。
足元の岩にぴょっと上ってきた魚を調べてみたところ、ハゼと呼ばれる魚でした。大きく瞬きをしたり、ヒレをパタパタさせていてすぐに愛着が湧きました。

1匹だけだと美しく、可愛く見える昆虫や魚ですが(もちろん例外はあります。)おびただしい数で群れていると、そうも思えない時があります。
先に記した本には、著者がアフリカで撮影した写真がいくつか掲載されています。その中にはバッタが群れている写真があります。ゴミムシダマシ(通称ゴミダマ)と呼ばれる、コガネムシのような昆虫が密集している写真も載せられています。正直、直視はできません。

学生の頃は何をするにも友達と一緒だった気がします。移動教室は言うまでもなく、トイレにも連れ立って行っていました。
今振り返ると、なぜそこまで誰かと居たかったのだろうと不思議に思わなくもありません。しかし当時は、友達と一緒にいることで安心感が得られていたのは事実で、その安心感が楽しさの基礎を作ってくれていました。

なぜ学生時代は群れていたのか。
それはきっと、学校という社会に属していたからだと思います。人は何か大きな枠の中に収められると、無意識にその中での立ち位置を気にしてしまう気がします。
勉強ができる優等生、運動神経抜群な人気者、ただただ可愛い子。ひとりぼっちで可哀想、というレッテルを貼られることを一番避けたかったのかもしれません。

大学生になっても、サークルの友達とはサークル活動有無に拘らず、よく集まっていました。
みんなと予定が合わなかった日の、学内でのひとりの食事は何となく肩身が狭く、なかなか勇気がいることでした。大学から3、4駅離れた最寄駅の定食屋さんだと、そんな事もありません。(周りを気にするも何も、その辺りに住む友達がいなかったので、ひとりで食事する以外に選択肢はありませんでした。)
学内だと知人の目だけでなく、多数の群れの目を気にしてしまいます。しかし大学から離れた場所だと学生と顔を合わせる確率が低くなるため、何も気にすることはありません。大学からの距離が、ひとりでいることで募る不安と反比例していました。

群れは大きな力を生みます。単純に個体数=力の大きさではなく、個体数が増えれば増えるほど、指数関数的に力は増していくのではないでしょうか。
1、2匹だと可愛いと思える虫も、大群となれば話は違うのはこのためです。
また、群れは安心感を与えてくれます。群れの中にいるだけで、外から自分が標的にされる可能性は低くなるのです。ひとりでいる時のように、ビクビク怯えることはありません。

多くの衝撃を与えてくれた『嫌われる勇気』(岸見一郎、古賀史健 ダイヤモンド社 2013年)の続編『幸せになる勇気』(岸見一郎、古賀史健 ダイヤモンド社 2016年)に、人間は弱さを補うために群れ、生き残ってきたという趣旨のことが書かれています。
学生の頃は意識的に群れていましたが、学校という枠を外れても人間という単位で考えると、私は無意識に人と群れているのだと気付かされました。
人間は生きるために群れるしかありません。しかしどのような人も、群れている意識はあまりないのではないでしょうか。むしろ自分の置かれている環境に疎外感を抱くことも少なくありません。
しかし例えば、地球から見る人間はおぞましく群れている存在だと言えます。

どこかの国の、恐ろしく揃ったマスゲーム。俯瞰の目で見ているとその迫力も相まって、マスゲームを成すひとりひとりにも個性があることを忘れてしまいそうになります。
群れを100とすると、100は1が集まって形成されています。1は、唯一無二の存在です。群れているハゼも、よく働くもの、おっちょこちょいなもの、マイペースなものなど、多少なりとも違いがあり、個性豊かなはずです。
群れは1よりも物理的に大きいため、視覚的に捉え易いと思います。しかし、その群れを形成している1の存在も心に留めておきたいと強く思うのです。

周りを見渡せば、町は家やマンション、アパートなど多数の住宅で溢れています。ただの景色と思えばそれまでですが、その一軒一軒、一部屋一部屋に人それぞれの暮らしがあります。
「人はひとりでは生きていけないことを本能的に熟知している」(『幸せになる勇気』より引用)からこそ、群れている人間の中のひとりひとりの、名前も性格も知らない1の個性と存在を、大切に思っていきたいものです。

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