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《童話》くまおじさんが建てた家

くまおじさんは腕の良い大工さんです。

いつだってくまおじさんに、家を建ててもらった動物たちは大満足です。
ある時、森いちばんの気難しがりやのきつねばあさんが、くまおじさんに家を建ててもらいました。

ところが、出来上がってみてびっくりです。
お願いしたのは、ひとりぐらしのきつねばあさんの住む小さな家でした。

「なんじゃこれは!」

なんと、出来上がったのは大きな家でした。
きつねばあさんは、もうカンカンです。仕方なくその大きな家に住み始めました。
「こんな大きな家、落ち着かん。」とぶつぶつと文句を言いながら屋根裏部屋の窓を開けました。

すると、鳥たちが窓から入ってきていいました。
「素敵なおうち、屋根裏部屋でいいから私たちに住まわせて。」
きつねばあさんは、すぐに、「ふん、出ておゆき!」といつもの調子でいいそうになりましたが、こう答えました。

「ふん、かってにしな。どうせ屋根裏部屋は使わないから。」
「やれやれ」とため息をつきながら下に戻ると、今度は玄関の戸をノックする音がします。

戸を開けると旅のきつねの親子が立っていました。
「旅の途中で困っています。どうぞ一晩泊めてください。」
きつねばあさんは、「またかい」と心の中で思いましたが、こう答えました。
「どうせ部屋は、あまってるんだ。好きな部屋を使いな。」
きつねばあさんはパンとスープを作って親子と食べました。だれかと一緒に食事をするのは久しぶりのことでした。

あまったパンは屋根裏部屋の小鳥たちにあげました。
小鳥たちは「チィチィチィ親切なおばあさん、ありがとう。」とさえずりました。

次の日。

親子は「おばあさん。ありがとう。」といって旅立ちました。
「やれやれ」といいながらもきつねばあさんの心は晴れやかでした。

「ありがとう」といわれたのは何年ぶりのことでしょうか。

それからも時々、きつねばあさんは旅人を泊めました。
今ではこの家がすっかりお気に入りです。

そして、時々くまおじさんに「大きな家を建てた」と文句を言ったことを思い出しては恥ずかしそうに笑うのでした。
ひょっとしたら、くまおじさんは、わたしがこうなることを、わかってわざと大きな家を建てたのかしら?と思いました。

「まさかね」

きつねばあさんは、そうつぶやきお茶をすすりました。

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