路上日記 その⑳ 路上のカーペンターズ ~変人・奇人・狂人ファイル~ (全文無料)
17歳から路上ライブを始めた。
昼間や夕方にやることもあったけど、大抵は夜。
夜中ともなれば、終電をなくした人、水商売の人、道を極めてる人、酔っぱらいに、怪しい人、色んな人が僕の前を通り過ぎ、時に僕の前に立ち止まった。
今日はそこで出会った人達の話をしようと思う。
その⑳ 路上のカーペンターズ
真夜中の路上に、どこか懐かしい、そして鮮やかで心地よい世界が広がっていた。
路上にはたまに天才がいる。何人か出会ったが、そういった人ほど世には出ずに消えていった。
逆に、路上ライブを見た事ある人で、ミュージックステーションや紅白歌合戦に出場した人もいる。
当然、実力派であったり様々な魅力があって世に出れた人達で、充分に尊敬すべき存在だ。
しかし、前述した天才達には及ばないように思える。
話を戻そう。
確か、僕が18か19歳の夏。
地元駅で終電がなくなるくらいまで歌った僕は帰ろうかと思っていた。
だけど、その夜は他の路上ミュージシャンの歌が聴きたい気分でもあった。
すでに誰かが歌っているのはわかっていたので近づいていった。
そして、曲を聴いたら、冒頭で書いたような世界が広がり、一瞬でハマってしまったわけだ。
もう少しその世界を説明するなら、曲は限りなくポップでオシャレで、詩は女の子らしさ、宇宙、強さを感じさせるフォークという感じ。
歌っていたのは、仙台から出てきた男女二人組。たっく&しょー。
ちょっとヤンチャなたっくさんと、とてもエモーショナルで繊細なしょーさん。
しょーさんに関しては、マンガ「NANA」に出てくるNANAを想像してもらえばいいかもしれない。
たっくさんが曲を創りギターを弾き、しょーさんが詩を書き歌う。
時に、たっくさんは綺麗なハーモニーもつくる。
すでに仙台にいた頃、某有名ミュージシャンのプロデューサーから声がかかったりもしていたらしい。
だが、自分達の世界観とは違うパッケージで売り出されそうになり話を断ったそうだ。
そんな話もビッグマウスとは思わせないレベルの二人だった。
今でも僕は二人を天才だと思っている。二人の曲はどれもレベルが高く、特に「プラム」という曲がとてもとても好きだ。
路上のカーペンターズと今回表したのは他にも理由がある。
二人は仲がとても良く、魂の双子とでもいうような関係だったからだ。
年頃の男女が長い時間一緒にいれば恋愛関係になりそうなものだが、とうに恋愛関係を飛び越えてしまっているように見えた。
そんな二人のやりとりを見ていると僕はとても微笑ましかった。
何度か路上ライブを見に行ったが、いつの間にか路上から二人の姿はなくなっていた。
何年かして、偶然路上でたっくさんと再会し、バンドでやっているということでライブを見に行くと、相変わらず素晴らしいとはいえ、どこか型にはまってしまった感じがして、少し悲しくなった。
でも、これからもっともっと進化していけばいいなと思っていると、一年ほどで、しょーさんの喉の不調かなにかでバンドでも二人でも音楽をやめてしまうのである。
そんな二人は、カーペンターズと同じくらい評価されても良い存在だったと僕は躊躇いなく言える。
そして、すっかり大人になった今の僕だが、二人の路上ライブを録音したものを今でもたまに聴いている。
心地よさと同時に、胸が締め付けられて、何故か泣きそうになる。
子供が田舎に行った時にそこにいた少し年上のおねーさんに恋をして..、と、そんな経験はないのだが、それと似ている気がする。
僕は間違いなく彼らの音楽に恋をしていたからだ。
恋の対象の変化に恋が冷めてしまったり、そのうち、まったくの他人になったり。
でも、恋に熱を上げていた時の記憶を、ふと風が運んできたりして、苦しくなるのだ。
僕には夢がある。
彼らの音楽を紹介することで世間が注目するくらいの存在に僕がなって、そして、彼らから許可をもらった上で彼らの曲を僕が歌い、世に出すという夢だ。
まだまだ夢の途中。
~乗り慣れたこの自転車に乗って 会いに行くから 今日も明日も~
(nuts「プラム」より)
今回、話してきたことは全て実話であるが、思い出しながら書いている為、細部まで正確ではないことを最後に付け加えておきたい。
そして、僕自身ももちろん奇人・変人・狂人であるが、そんな僕の話はまた別の機会に。
路上ミュージシャン hiro’
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