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ボクの闘病記 #1


今日もいつもと同じ時間にアラームが鳴る。五月蝿い。いつもならここでスッと起きれるはずのボクだが、今日は違う。あと30分、と起きる時間を先に伸ばしもう一度布団の中に潜り込む。そういえば、今日もあまり眠れなかった。

先延ばしにした30分はあっという間に過ぎ去って、とうとう布団から外へ出る。朝ご飯はいいや、と諦め、とりあえず仕事着に着替えてストーブの前で冷えた背中を炙る。

お昼ご飯も詰める弁当の中身が思いつかなかったので、今日はコンビニ弁当に頼ることにした。

ボクは闘病中とはいえ、仕事には出かける。仕事をしている時間は全てのことが忘れられる。気持ちもスカッとしているし、そもそも、生きていることを実感できる。

今日はうっすらと眠った時に、小学生の頃にハマった男女ボーカルユニットの、興味がなかった方の子とあんなことになる夢を見たから、朝からそのことで脳内はウハウハしている。あの時見たように、あの子の胸は程よく大きかった。

そんなこんなで、夢の余韻に浸っていると、突然の悲痛感が襲いかかる。ここで、今日の出勤はストップだ。ボクは予定外に病院へ強制連行されることが決まった。

病院への道のり、歩くと清々しい。どうして病院に向かわされているのか正直よくわからない。母親に右腕を抱かれ、ピタッと離れないほどに右半身が固定されている。今日の診察には、この状態のままで行くようだ。あぁ、母親はいつまでも母親だ。

医師との会話は母親が全て済ませてくれた。それもそうだ。ボクは今になっても、なぜこの場所に連行されているのかよくわかっていないのだから。ただ一つ言えるのは、母親が伝える事実であろうその事象を耳にするたび、目から何かがこぼれ落ちる。

キャップにマスク、寒かったのでネックウォーマーまでつけた完全防寒スタイルで向かった診察室、それらのグッズは予想外に表情隠しの隠れ蓑として大変身を遂げてくれた。診察室を出る頃には、マスクはびしょびしょに濡れていた。キモチガワルイ。

そのまま薬局で処方された薬を受け取り、母親と帰路へ着く。駐車場にいつも居るあの猫は今日はどこか散歩にでも出掛けていたのだろうか。あくびもしていない。

帰るとボクは脳内で医師から告げられた言葉を反芻した。どうも納得がいかない。うまく咀嚼できない。気付くと、慢性的な蕁麻疹で身体がまだらに腫れていた。いつもの市販薬を3錠飲む。アレルギー薬なので、うちに眠気がやってくる。

今日、ボクはほとんど食事を摂らなかった。だから、今日こそお風呂に入る。

ボクの入浴時間は家族内でも烏の行水と言われるほどに短く、だからこそ今日は髪を念入りに乾かしてみようと試みた。根本から少しずつ、丁寧に。

いつか背伸びして訪れた美容室で教わったように乾かしたのも束の間、結局いつも通りにバサバサと髪を揺らしてドライヤーを止めた。

そういえば今日一日ほとんど開いていなかった携帯をパカっと開く。祖母からのメールが届いていた。ボクは闘病していることを気付かれないように、とても気をつけながら明るく返信をする。

家族が元気なだけで、ボクはボク自身が元気な気がしている。

明日のことを考える。きっと明日にはこの病気もボクの身体に存在することに飽きているだろう。だから今日もいつもの時間にアラームをセットして布団に入る。

そういえば最近、音楽を聴かなくなった。今日はどんな夢が見れるだろうか。明日はどんな1日を過ごせるだろうか。明日もきっとボクはとってもかっこいい。


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