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スチャダラパー『5th WHEEL 2 the COACH』

1995年4月26日リリース、スチャダラパーの5thアルバム。

まずジャケット、ミラーに映った方の3人を撮っている。この色合い、緑色が渋い。

このジャケは2種類あるみたいで、僕が持っているCDは3人共正面を向いていて、そちらの方がしっくりくる。

スチャダラパーは小沢健二とのヒット曲「今夜はブギー・バック」で知られている。この曲が流行したのは僕がまだ保育園児の頃ぐらいだから、もちろん後追いになる。MCのBOSEがポンキッキーズに出ていた帽子のお兄さんだったと後で気付いたりね。

高校生の頃からRHYMESTERやキングギドラが大好きだったから、必然的にこのグループの音源も掘っていく事になる。初めて聴いたのはベスト盤の『東芝クラシッス 95-97』だったと思う。


「From 喜怒哀楽」という曲を聴いて、韻があまり固い訳ではないし、そのうえトラックは渋いな‥と思った。インディーズ時代のRIP SLYMEみたいな聴きやすいラップを期待していたから余計にそう思ったのかもしれない。

大学生になった頃、アルバイトを始めた事もあってCDを漁る余裕が出てきた頃にこのアルバムを買って、ベストではなく初めてスタジオアルバムを聴いた。

朝1限目の授業がある日なのに寝付けなくて、オール明けで再生したのを覚えている。しかもまだMDプレーヤー。


M1.「AM0:00」インスト曲。本来はこれぐらい深い時間に聴き始めるのが良かったのかもしれないけど、本編に入っていくに連れてその辺はどうでもよくなる、特に夜がテーマではない。

M2.「B-BOYブンガク」初めて聴いた時はビートの渋さにびっくりした。題からして、スチャダラパーってこんなにクールだったの?と思ってしまうし、ANIが結構固く韻を踏んでいる。

BOSEの"色メガネの詐欺師がイラつかせる あそこん家のピザ食うのはもう辞める" は、当時ピザのCMに出てたバブルガム・ブラザーズのBro.KORNをディスしているらしい、昔色々調べていて知ったけど真意は不明。


M3.「ノーベルやんちゃDE賞」登場する3人の人物のえげつないやんちゃエピソードがリリックとなっている。一部引用して紹介したいけど、全てのパートが面白いので迷う。

"群馬県でトムソーヤ塾を開くかたわら
NBAの入団テストに あかねシュートで果敢にチャレンジしたした後
コンドーム風船に乗って大気圏突破を試み 断念した時点で受賞"

みたいな感じ。他の人物のエピソードも面白い。スチャはこういうお笑い系のラップをするイメージだったからこそ、M2.にはびっくりした。


M4.「南極物語」このトラックもなかなか渋いけれど、ANIがネガティブな役、BOSEがポジティブな役で詞を書いているオモシロラップだから安心する。

女の子がバジリコ作ってくれたのに、"あの青カビ乗っかったうどんのこと?"って、どこまで信用出来ないんだと思った。


M5.「5 WHEEL 2 the COACH」アルバムの表題曲。コミカルな時とシリアスな時のギャップが凄いけど、社会風刺的なリリックの中にも面白い例えを組み込んだりしていて、この曲では特にANI。

"ムチは罰 無知は罪 ムチムチは俺好み"とか急に言われたら笑うしかない。終盤は掛け合いで、BOSEがフリでANIがオチ担当という感じ。1番最後の"キライなものは特にない あるのはどうでもいいものばかり"は鋭い。


M6.「サマージャム'95」スチャダラパーの代表曲であり、日本語ラップのクラシックであるとたびたびメディアに登場する夏の名曲。

とにかくトラックが最高。この曲を聴くにはやっぱり炎天下の季節に限る。思い出補正が本当に強く、聴くと学生時代の夏休みの予定のない真っ昼間の時間帯を思い出す。サンダルでダラダラ、歩いてコンビニにアイスを買いに行くあの時間。

シングル曲だけど、アルバムが初出でリカットされたのは知らなかった。8cmシングルも中古で買ったなあ。


M7.「ジゴロ7」スチャダラパー3人に加え、脱線3とTAKEI GOODMANが加わった7人編成の楽曲。この曲で面白かったのは、DJ SHINCOのパート。色んな番組から台詞をサンプリングして16小節を繋ぐ、その材料の元ネタは分からないけど面白い。

脱線3はあまり聴いた事がないけれど、メンバーのロボ宙はよくスチャダラパーのライブのサポートに参加していたりとか、THE HELLO WORKSとしてもユニットを組んでいるのでお馴染みだ。


M8.「ドゥビドゥWhat?」シングル曲。詞の内容は、具体的に何の事を歌っているのかは聴き手の想像に委ねている。

それはこういう物であるとか、こんな感情であるという、それが何かは一切発表することなく進行していく、結局何なのか分からない、面白いギミックだ。ふざけているようでしっかり狙ってくるのがスチャの持ち味。


M9.「The Late Show」遅刻する人間をここまで肯定する楽曲はこの曲しか知らない。

"一体一日に何人の人が遅刻していると思いますか?待ってる人達はもちろん痛いが 待たせている人はもっと痛い"

1番と2番はBOSEだから、ANIは当時しないのかと思ったけど、3番でしっかり登場。リリックが天才過ぎ。BOSEがしっかりし過ぎてANIがだらし無く見えていたけど、面白い事を書くセンスはズバ抜けている。多分、大喜利している感覚で詞を書いていると思う。


M10.「From 喜怒哀楽」シングル曲。スチャダラパーの曲で初めて好きになった曲で、カラオケで歌うために練習していた。友人の前では歌う事なく終わったけど。独特なベースラインのループが印象的なトラック。

"喜怒哀楽"それぞれをテーマにラップしていくという構成。
ANIの"この曲をチェックしてるヤツらに道を間違える馬鹿はいない 何故ならゴマンとあるドアの中 すでに正しいのを開けてるから" はパンチライン。
BOSEの"まるで熟練の質屋のよう つまり見る目があるってこと"も好きだけど、ここではANIの優勢。


M11.「Ultimate Breakfast & Beats」M9.のカップリング曲。深夜からリリックを推敲してファミレスへ、そのまま朝を迎えるという内容。なるほど、M1.のイントロはここに繋がってくるのかと思った。

"1とは誕生 2とは成長 sunrise east 四大卒業 ベースラインが導く方向 ドシラソファミレス決定だと" ここ好き。

M12.「AM:8:30」インスト曲。長い夜が明けた後の余韻に浸る。と言ってもM1.とほぼ同じサウンド、M2.に戻れば永遠にループする。


当時のオリコンのチャートは初登場4位、CDが売れていた時代なので多くの人がこのアルバムを購入して自宅で聴いたはず。

90年代半ば、お茶の間に届いたヒップホップはEAST ENDとスチャダラパーだけど、こういうがっつり日本語ラップの渋い楽曲群をフルアルバムで通して聴いた時のリスナーの反応はどうだったんだろう。


去年はRHYMESTERとスチャダラパーが初めてコラボして最高だった。

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